リレーインタビュー第72回 松尾佳彦さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、天理高等学校男子ホッケー部監督の松尾佳彦さんのお話を3回にわたってご紹介します。

(2026年8月 インタビュアー:松場俊夫)

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リレーインタビュー第72回 松尾佳彦さん(前編)
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リレーインタビュー第72回 松尾佳彦さん(中編)

▷ 監督になって一番辛いと思われた経験は何ですか?

学校でも部活動でも様々な問題が起きます。その中でも本当に辛かったのは選手を亡くしたことです。全てを受け入れなければいけなかった時に、色々なものが押し寄せて来るばかりで、全く整理ができませんでした。なぜそういうことになったのか、まだ答えは出ていません。一生、出ないことだと思います。

その彼とは中学2年生の時に出会いました。親御さんと一緒に全国大会の応援に来てくれていました。子供が玩具を手放さないように、常にスティックとボールを持っていました。いま思い出しても、彼の気持ちは全国で一番だったと思います。

彼もそうであったように、天理でホッケーをやりたいという選手を今も受け入れています。その選手の気持ちを次のステージへ繋げるのが私たちの役目です。高校の3年間はどんなことがあってもホッケーをやめさせたくない、つなげられるものはつなげたいと思っていますが、現実は私の力不足で離れていく選手もいます。そんな時は身の丈を思い知らされ、重苦しくて辛いです。自分の中で自問自答を繰り返す日々が始まります。

しかし、壁にぶつかった時こそ成長のチャンスだと考えられるようになりました。自身の伸びしろを実感しながら、これが自分のやりたかったことなのだと言い聞かせています。最近になって、ようやく指導者も選手と一緒なのだと気づきました。また、恩師も同じだったのではないかとも考えます。

▷ 指導する中で一番嬉しかったことはなんですか?

最初に優勝した時は喜びが溢れ出ました。しかし、その後も有難いことに同様の経験をさせていただいたのですが、最初の時と同じ感情にはなりませんでした。何故そのような感情になったのか考えてみると、すぐに答えは出ました。それは私自身が一度優勝を経験したからだと思います。優勝を経験したからこそ、優勝とは別の喜びを求めているのだと気づきました。それは選手の挑戦や成長の姿です。選手が手ごたえを感じることができれば、指導者も手ごたえを感じ、選手が喜べば、指導者も喜びたくなる、まさしく一心同体です。また、スポーツをきっかけに私生活や学校生活に自信を持ち始め、前を向いて歩いてくれると安心できます。

私が求めている喜びが変わったのは、練習時に選手にかけた言葉からでした。練習時にパフォーマンスが落ちていると感じ、選手に檄をいれることは多々あります。その際「優勝するため」が常套句になっていました。選手も最初は気持ちを入れ替えて練習していましたが、回数を重ねるうちに曇った表情を見る機会が増えました。気合が足りないと思っていましたが、ふと、優勝の押し売りをしている気持ちになり、大きな考え違いをしているのではと気づきました。今は、選手の目標に指導者が伴走している感じです。

▷ 松尾さんご自身が課題として意識されていることは何ですか?

洞察力をつけ、選手やチームの本質を捉えられるようにすることです。その為には、私自身がまず常に自然体であること。しっかりとした軸を持つことです。まだまだ探している最中です。まずは自身の内を見つめて整え、自然との調和を心がけています。最近は自身の取り組みが指導に直結してきています。指導者のレベルがチームや選手に大きく影響してきますので、私自身のレベルアップは急務です。しかし、人間味ある指導は失いたくないですね。将来的には、自然体で立っているだけで、チームが成長していくことを目指します。

▷ 松尾さんご自身の今後のビジョンについて教えてください。

本校の部活動で監督として指導できる期間は僅かです。その期間で、世界で活躍できるトップ選手を育てたいですね。同時に競技経験の有無にかかわらず、入部してきた選手で日本一になりたいとも思っています。

私の指導者としての経験では、競技力の高い選手が集れば、指導者の意図を汲み取ってホッケーをしてくれますし、結果もそれなりに出てきます。ですが「よくこのチームで勝てたな」と言われるようなチームを育てたいです。

ある方に、「5年あったら素人でも優勝できる。」と言われました。その挑戦から今年が5年目です。苦戦して本当に苦しいと思うこともありますが、見方を変えれば、それだけ私の力量が足りていないということなのだと思います。今は選手から教わることばかりです。大きいことばかり言って、結果が伴っていませんが、それを楽しんでいかなければと言い聞かせています。

▷ いつ頃からそう思い始めたのですか?

6年ほど前からです。その時分から選手集めに苦労し始めました。本校は私学とは言え、天理中学校にホッケー部がないため、県内外から選手を募集していましたが、少子化とコロナなど様々な理由で難しくなってきました。そんな時に、今後のビジョンをトレーナーと話し合っていたところ、先述したように「5年あれば素人でも日本一が取れる」と言われ、集まった選手を日本一に育ててしまえばいいのだと挑戦し始めました。

▷ 勝つということと人間を育てるということの折り合いをどのようにつけていらっしゃいますか。

勝てば何でもいいとは思いませんが、やはり勝ちを目指さない限り、人として強くなることは難しいのではないかと思います。目標を求めて突き詰めていくからこそ、その先の道につながるのではないでしょうか。

毎日、諦めずに辛い練習に向き合ったり、体のために食事を考えたり、勝ち運に恵まれるような生活を心掛けたり。大谷翔平さんをはじめ、多くのトップ選手が努力を重ねています。道を極めるという言い方は大袈裟ですが、勝つことを目標に、自身と一生懸命に向き合うことで人として成長する。その為にも、勝利を目指すことは欠かせないのではないでしょうか。

▷ 指導者やコーチに共通する大切なことがあるとすれば、それは何だと思いますか?

エネルギーですね。無理や限界を覆すエネルギー。そのエネルギーで突き進んでいくからこそ進化する。私は進化していきたいです。どんな生徒にも絶対最後まで諦めずに向き合いたい。それには「気」が一番大切です。気を伝えること。気を受け取ること。共鳴し、影響し合うことが必要だと思います。

▷ これから指導者を目指す人、または今指導に悩んでるコーチにどのような言葉を伝えたいですか?

現在、私も本当に苦しい時期です。でも、それは自身が成長するために起きていることです。悩みは尽きません、悩めば悩むだけ深みにはまって行くし、何をしても上手くいかないばかりか、非難されることもあります。それでも、自身と真摯に向き合っていけば、必ず最適解が出ます。ただ、一人で苦しまないでもらいたいです。人に助けや助言を貰うことは悪いことではないです。ただ、チャンスを掴むために真剣に探してください。絶対にできる。今は辛いけれど、必ず先で何か掴めるはずです。

▷ 最後に全国の指導者の皆さんにメッセージをいただけますでしょうか。

日本の良さ、日本人の良さとは何か。私はこの答えを持っていません。現在に至るまで教わった記憶がありませんし、学んだり気づいたりすることなく来てしまいました。

大学時代に先輩から言われたことを今でも忘れません。それは、「日本が西欧に倣って会得した戦術だったが、西欧はすでに4年先に進んでいた」という話でした。ホッケーはイギリス発祥のスポーツです。現在でも欧米諸国が中心となって、ルールや新しい戦術なども作られています。私たちは海外から知識やデータ、コーチングなどを輸入しています。その現状が変わらない限り、海外に追いつくことは難しく、追い越すことは絶対ないと思います。

海外から学ぶことが間違っているのではなく、外に目が向きすぎて、内を磨くことが疎かになっているのではと考えています。外は目で見ることができて、答えも手に入れやすいですが、内を見つめるのは容易ではありません。目でも見えません。

しかし、その内なる見えないものこそが本質ではないかと思います。だからこそ、私はまず自分自身や日本の内をしっかり見つめて磨くことが大切だと考えています。内があるから外がある。それがあるべき本当の姿なのではないでしょうか。(了)

(文:河崎美代子)

 

松尾佳彦さんプロフィール

1979年生まれ 奈良県出身
天理高等学校 教諭(体育科)/ホッケー部 部長兼男子部監督

<経歴>
1998年 天理高等学校 卒業
2002年 天理大学   卒業
2002年 学校法人履正社 履正科学体育研究所でトレーナーとして活動
2003年 奈良県公立高校 非常勤講師
2004年 天理高等学校第二部 常勤講師
2009年 天理高等学校ホッケー部監督就任

<主な実績・成果>
中学校の部活動でホッケーを始める。
中学校2年生の時に全国大会で優勝。
高校2年、大学1~3年時には各種大会で優勝を経験。
(自身が最高学年の時には優勝はできていない。)

指導者としてはインターハイや選抜大会、国体などで優勝や上位入賞を果たす。
卒業生から多数の日本代表選手を輩出。
現在はBCトータルバランスシステムを学びながら、自然体をテーマに世界で活躍できる人材育成に全力で取り組む。