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リレーインタビュー 第16回 安西浩哉さん(中編)

 「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、日本ホッケー協会常務理事 安西浩哉さんにお話を伺いました。

ホッケー日本代表は男女ともに、来年の東京オリンピックへの出場が決定しています。男子代表「サムライジャパン」は1968年のメキシコオリンピック以来、女子代表「さくらジャパン」はアテネオリンピックに初出場して以来5回連続の出場になります。

東京ガスホッケー部、慶應義塾大学ホッケー部での指導を振り返りながら、安西さんが来年の東京オリンピック、さらに、その先に向けてご尽力されていることは何かを伺いました。前・中・後編の3回にわたってご紹介します。

 (2019年7月 インタビュアー:松場俊夫、河崎美代子)

前編はこちらから↓
リレーインタビュー 第16回 安西浩哉さん(前編)

――これまで指導者として、ご自身のマインドややり方を変えたことはありますか?

男女代表チームのヘッドコーチが男女とも外国人になりました。一般的な日本の指導者とは指導方法が異なることがあります。男女それぞれ細かい点で違いはありますが、基本的に結果を出すことが最優先なのは同じです。代表チームの合宿ではON・OFFをはっきりさせ、選手それぞれがベストの状態でミーティングや練習に臨めばいいということであまり細かいことにはこだわらない環境にしています。ですから、代表チームの方が本当は厳しいのですが、規律の面では自分が所属するクラブや大学のチームのほうが厳しいので、選手が「楽だ」と勘違いして甘えてしまうことがありました。

両ヘッドコーチとも選手の判断能力の強化が必要という意見で一致しています。今のホッケーの試合は瞬時に展開が変わりますから、ピッチの上で選手がいかに的確な判断ができるかが重要なのですが、「日本人選手はそこが訓練されていない」と言うのです。例えば「この試合は右から攻めろ」というと、左がガラガラなのに右から攻めてしまったりすることがある。また「文句を言ってくる選手がいない」とも言います。代表選手のレベルになれば、自分はこうしたいというのが当たり前なのですが、初めはそういうことがまったくありませんでした。

理由のひとつとして、選手がこれまで指導者の指示通りに動いてきたことがあると思います。そこでまずは、分析を全部選手にやらせました。ビデオを観て、とにかく考える。その癖をつけさせて、ミーティングで発表することから始めました。それまでは、自分であまり考えていなくても、「こういう攻撃をやれ」という命令で動く癖がついており、自分たちで考えて「こうやりたい」とヘッドコーチに言うことはほとんどありませんでした。しかし現在は、ヘッドコーチが受け入れるかどうかは別として、まず選手が考えることを徹底しています。選手は当初戸惑いもあったようですが、このやり方がどんどん浸透してきています。

――最近の若手はコンフォートゾーンからなかなか出たがらない傾向があります。ストレッチゾーンにいないと成長しないのですが、快適なところを超えるためにどのようなことをなさってきましたか?

ホッケーは結局、相手よりも一点多く取ればいいわけで、得点することが目的です。その過程でどうやるかは手段であり、ある意味重要ではありません。ですが学生も含め、最近の若い選手は指導者が言ったことは徹底してやるので、中盤で「こう組み立てろ」と言うとそればかり優先してしまい、最終的にシュートまで行きません。少し乱暴にいうと手段を目的よりも意識してしまうことになりかねません。外国のチームは形になっていなくても、強引に打ってくるのですが。この違いは日本の教育の影響があると思います。日本では突拍子もないことをやる選手は評価されない傾向があり、どちらかというと型が重要なディフェンダーやキーパーは育つのですが、点取り屋(ストライカー)が育たないと思います。ですから、とにかく学生に対しては、練習の時は失敗を恐れるなということを言ってきました。成長するためには、チャレンジして失敗することが大事、怒られることやミスを怖がってはだめだ、と。代表チームも最初はそんなムードがありましたが、だんだん変わってきましたね。

――最近、女子チーム「さくらジャパン」がめざましい結果を出していますが、女子の強化が進んでいる理由は何でしょうか。

やはり、スポンサーについて頂けて、強化の環境が良くなったことが一番大きいです。おかげで海外遠征の数も増え、強豪国と対戦できるようになりました。

以前からアジアの強豪チーム、中国、韓国、インドのチームと対戦する機会は多いのですが、体格の違う、ヨーロッパの強豪チームとの対戦機会はあまりありませんでした。

さらに、アンソニー・ファリーHC(ヘッドコーチ)が女子選手一人一人のことをよく見て分析しており、練習や試合が終わった時に必ずフィードバックしています。そういう点で、選手はファリーHCを信頼してしますし、彼も選手たちのことを公平に見ています。

また、ファリーHCはリオのオリンピックではHCとして男子カナダ代表チームを出場させた経験があります。私は男女代表チームのヘッドコーチの選考時は強化本部長ではなかったのですが、選手か監督としてオリンピックを経験している人が望ましいという条件が協会としてありましたから、現時点では良い人選だったと思っています。

――日本のホッケーがさらに飛躍するには何が必要だとお考えですか。

女子は企業チームがありますが、男子は大学卒業後の受け皿となる企業チームが多くありません。ですから、練習量はどうしても大学時代がピークということになり、年齢的に選手のピークが若すぎるということになってしまいます。卒業後の進路の整備が今後の代表チームにとっての課題です。

また、東京に日本リーグに所属する社会人チームがありません。今回、大井にホッケー競技場が作られますが、東京で唯一のホッケー専用スタジアムとなります。ただここも、東京オリンピック後もどんどんホッケーで活用しないとホッケー専用のスタジアムでなくなる可能性があります。ホッケーの場合は既定の人工芝がありますので、この芝が変更になるともちろん国際試合もできなくなります。私は危機感を持っています。

オリンピックの後が非常に重要です。私は強化本部長ですから、東京オリンピックで結果を出すことが私のミッションですが、重要なことは東京オリンピックを契機にどれだけ日本のホッケーの環境を良くするかです。注目される代表チームが結果を出さないとスポンサーも離れ、マスコミも注目してくれなくなる。私は2024年のパリオリンピックには必ず出場しなければだめだと思っています。東京オリンピックはいろいろな意味で盛り上がるでしょうけど、パリオリンピックに出なければもう注目されなくなるでしょう。その意味でも、アンダーエイジカテゴリーの代表チームの育成強化が重要で、その年代の強化を並行してやっていかなければいけないと思っています。(後編につづく)

(文:河崎美代子)

後編はこちらから↓
リレーインタビュー 第16回 安西浩哉さん(後編)

〇安西 浩哉(あんざい ひろや)さん プロフィール

1960年8月6日 東京生まれ

【学歴・職歴】   

1980年3月  慶應義塾高等学校 卒業  

1984年3 月 慶應義塾大学 商学部 卒業  

同年  3月 東京ガス株式会社 入社 

2017年6月~(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 出向

【ホッケー競技関係】    

1976年4月  慶應義塾高等学校 ホッケー部入部  

1979年4月  慶應義塾体育会ホッケー部(慶應義塾大学ホッケー部)入部

(指導歴)

1989年~1998年    東京ガスホッケー部監督

(監督就任期間の主な戦績 :全日本男子選手権出場 他)  

2006年~2013年    慶應義塾体育会ホッケー部 大学男子部 監督  

(監督就任期間の主な戦績:関東学生リーグ優勝1回・準優勝4回、全日本男子選手権大会出場 他) 

2014年  日本ホッケー協会 理事就任  

2015年~   同 常務理事就任 

2017年~ 同 強化本部長・東京2020オリンピック準備委員会 委員長

その他   (公財)日本オリンピック委員会 選手強化本部委員  

公益社団法人 日本ホッケー協会