スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー第41回 山田和由さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、全日本スキー連盟コンバインドチームコーチ山田和由さんにお話を伺いました。

一般にノルディック複合と呼ばれているノルディックコンバインド。1990年代は荻原健司さん、最近では渡部暁斗さんの活躍が知られていますが、山田さんが現在、主に指導されている女子種目はまだ五輪種目になっていません。しかし女子選手たちは世界選手権やワールドカップなどでトップに立つことを目指し日々トレーニングに励んでいます。

山田さんは中学生の頃から選手として活躍し、現役引退後、指導者に転向されました。学生時代に専従の指導者が得られなかったというご自身の経験から、選手とのコミュニケーションを最も大切にしているという山田和由さんのインタビューを3回にわたってご紹介します。

(2022年9月 インタビュアー:松場俊夫)

▷ 女子種目の現状について教えていただけますか。

女子種目は歴史が浅く、2017/18年の平昌五輪のシーズンに国際大会が開催され、2018/19年のシーズンにジュニア世界選手権が正式種目になり、2020/21年のシーズンにはワールドカップと世界選手権が行われました。五輪種目にするべくF I S(国際スキー連盟)が頑張っているのですが、残念ながらI O Cに認めてもらえず、2026年のミラノコルティナダンペッツォ大会では見送りが決定しました。男子種目は第一回のシャモニー大会から開催されていますが、女子種目がないためジェンダーバランスの観点から除外されると言われていましたが、結局残りました。

F I Sの試合は2022/23年のシーズンも世界選手権の開催が決定しています。2030年、冬季五輪が札幌で開催されれば地元開催で採用されるのではないかと期待しているところです。

▷ 現在の日本女子選手の競技力は世界的にどのレベルにあるのでしょうか。

2019年、初めてジュニア世界選手権で正式開催された時、金メダル1つと銅メダル1つを獲得しました。2020/21年のワールドカップはコロナの影響で一会場一試合だけだったのですが3位に入賞しましたし、第一回の世界選手権も4位に入りました。昨シーズンは3名の選手がそれぞれ表彰台に2、3回乗っていますね。日本ではまだまだ競技人口が少ないですが、比較的粒揃いで活躍しています。

とはいえ世界的には20歳前後の若い選手が主で、1年で勢力図が変わりますから、選手たちの持ち味を伸ばしつつ各国の動向を確認しているというのが現状です。男子よりも不器用なところはありますが、伸び方は女子の方が早いような気がしています。

▷ 山田さんがコーチになったきっかけは何ですか?

大学卒業後6年間企業で選手を続けていたのですが、地元、といっても私の出身地小谷村の隣、今も拠点を置いている白馬村に戻った時、白馬高校から専属の顧問の先生がいないので夏休みに手伝ってくれないかと声がかかりました。それがきっかけで、長野県スキー連盟のコーチを拝命したのが最初です。自分が本当にコーチをやりたいと思っていたのかどうか、自分が向いているのかどうかもわかりませんでしたが、私自身が良いコーチを求めていた経験から、選手たちの練習の場を整えてあげたいと思いました。

私が選手の時は、競技を専門で見てくれる指導者の方が常にそばにいてくれる環境ではありませんでした。企業に所属していた時の監督は未経験者でしたから、ビデオを撮影してもらい、それを自分たちで見て研究していましたし、全日本スキー連盟の強化指定選手になった時、長野県の強化合宿に参加した時も、月に1週間から10日程度だけコーチングしてもらうという状態でした。

自分たちで工夫しなければいけないというのは良い経験にはなりましたが、技術的な理論が足りなかったことがアスリートとして登りつめられなかった理由なのかもしれません。周りを見てあの選手より自分のほうが良いのに、というようなことを思いながら歳を重ねてしまい、その後は世界に出るチャンスになかなか恵まれませんでした。

▷ 女子選手のコーチになられたのはいつですか?

全日本スキー連盟のコーチとして、2010年のバンクーバー五輪が終わったシーズンから男子トップチームのジャンプの担当コーチとして7シーズン、ワールドカップを転戦していました。その後、平昌五輪1年前の2016/17年のシーズンが終わるタイミングで、ジュニア、女子、ユースチームという若手主体のチームを作るので統括コーチをやってほしいとチームから言われました。

私は高校時代から渡部暁斗選手をずっと見てきて、ソチ五輪では20年ぶりの銀メダルを獲得しましたので、2018年の平昌五輪ではなんとか金メダルを獲らせてあげたいと思っていました。ですが平昌ではコーチングをしたわけではなく、統括コーチという立場だったので、これは私がやりたいことではないなと思っていたところ、スキージャンプのトップチームからアシスタントコーチを依頼されました。気持ちは9割ぐらいそちらに傾いていましたが、いかんせんスキーのコーチは人数が少なく、コンバインドチームがなかなか手放してくれず、結局女子チームのコントロールをすることになり、ジャンプチームの方をお断りしました。その時は2022年の北京大会で女子が正式種目になると思っており、選手がメダル獲れたらいいなと思っていたのですが、残念ながら採用されませんでした。ですから小林陵侑選手のような優秀なジャンプ選手を横目で見ていて、そちらに行っていればという気持ちになったこともありました。

▷ 専従のコーチがいない中で選手を続けてきたことが、指導者になってからどのように生きていると思いますか?

まず選手は自分の強みと弱みを理解していなければならず、闇雲にトレーニングしても強くなれるというものではありません。ですから私は指導者として、技術一つ一つを正しく解釈させ、基本を確実に身につけさせてから個々の持ち味を活かしていけるように取り組ませてもらっています。選手と顔を合わせることができる合宿は月に1回、1週間程度しかないのですが、幸い白馬村はNTCの拠点として指定を受けていますので、合宿以外でも選手たちが集まって来てくれています。自分が選手の時に経験できなかった分、選手たちとはしっかり話をするようにしています。

今年の強化指定選手は13歳から23歳、10歳の年の差がある8名の選手が一緒に練習するので、強度や時間を変える必要も出てきます。私がトレーニングメニューを作って与えるのは簡単なのですが、それではやらされる練習になってしまうので、私はざっくりと指示するようにしています。例えば1ヶ月単位で、持久系の練習は何時間、ジャンプは何本、ウェイトは何回、といった形です。またトレーニング日誌を確認しながらコントロールしていますので、高い強度の練習が続いたり、練習が少なかったりすることがあれば、直接本人に連絡するようにしています。さらに、私が考えるスキージャンプ、クロスカントリーのテクニックに関して選手とすり合わせをし、私が見ている横からのラインと選手本人が見ている縦のラインを結びつけて考えられるようにして欲しいと思っています。

▷ 女子のコーチングにおいて男子との違いを感じられることはありますか?

男子と違う点は、最初の段階で言葉の使い方や言い方などに気をつけた点でしょうか。男子からはとても怖いコーチという印象があると言われますが、女子は怖さを感じていないようです。選手と私は歳の差もあり、選手によっては両親が私より若い選手もいます。まるでお父さんと一緒に合宿をしているような感覚があると思いますが、数年経った今では選手はある程度何でも私に伝えてくれるようになりましたので、信頼はしてくれているようです。

女子の指導をするようになってからは、男子の選手にもあまり威圧的な言い方をしないようになりました。選手との年齢差はどんどん離れていくばかりですから、接し方には気をつけるようになったと思います。2018年にJOCナショナルコーチアカデミーを受講させてもらったことも良かったと思います。知り合いが増えましたし考え方も柔軟になりました。

▷ 男子と女子の比較ではなく、もし最初から指導の対象が女子選手だったとしても、コミュニケーションを密に取ることに気を配っていたと思いますか?

私がコーチを始めた頃、コンバインドの女子種目はありませんでしたが、スキージャンプの女子が毎年一人はいました。その時、泣かせてしまったこともありましたので、当時から接し方は男子と変えたほうがいいだろうと思っていました。

また他種目の女子チームのコーチから女子選手はやきもち焼きだと聞いていたので、なるべく全ての選手と同じように話をするようにしていますし、それぞれの選手と同じような時間を作ってあげたいと思っています。でも最初はとても戸惑いました。同じように話しているつもりでも距離をおく選手もいて、なるべく壁を作らないように苦労しました。

でも幸いなことに、個人種目でありながら選手同士仲が良いので助けられています。お互いライバルなのですが、お互いのいいところを認め合っています。それは合宿のおかげもあると思いますし、競技をやっている人口が少ないということもあるでしょう。また、種目を超えて女子選手同士は仲が良く、高梨沙羅選手や伊藤有希選手といったスキージャンプのトップ選手もコンバインドの選手たちと気さくに話をしてくれます。(中編に続く)

(文:河崎美代子)

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/41-2/

後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/41-3/

◎山田和由(やまだかずよし)さんプロフィール

1972年7月22日 長野県北安曇郡小谷村出身

*学歴 長野県白馬高等学校

    早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業

*所属 ・小谷村スポーツ協会スキー部

    ・長野県スキー連盟ジャンプ・コンバインド部ヘッドコーチ

     (2002/03シーズン〜現在)

    ・全日本スキー連盟コンバインドチームコーチ

     (2004/05シーズン〜現在)

      Aチームジャンプ担当コーチ

       (2010/11シーズンより)

      B・Jr.(レディース含む)、Youthチーム統括コーチ

       (2017/18シーズンより)

      女子チームテクニカルコーチ

       (2018/19シーズン〜現在)

    ・NTC白馬競技別強化拠点マネジメントスタッフ

    他 白馬高校スキー部・早稲田大学スキー部

      (株)ショウワ 外部コーチ

*戦歴 全国中学校スキー大会 優勝

    全国高等学校スキー大会 準優勝

    全日本学生選手権 3位

    全日本スキー選手権 優勝1回

    国民体育大会 優勝1回

    ユニバーシアード冬季大会 準優勝

    COC(コンチネンタルカップ)日本代表

【関連サイト】

全日本スキー連盟