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リレーインタビュー第41回 山田和由さん(中編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、全日本スキー連盟コンバインドチームコーチ山田和由さんにお話を伺いました。

一般にノルディック複合と呼ばれているノルディックコンバインド。1990年代は荻原健司さん、最近では渡部暁斗さんの活躍が知られていますが、山田さんが現在、主に指導されている女子種目はまだ五輪種目になっていません。しかし女子選手たちは世界選手権やワールドカップなどでトップに立つことを目指し日々トレーニングに励んでいます。

山田さんは中学生の頃から選手として活躍し、現役引退後、指導者に転向されました。学生時代に専従の指導者が得られなかったというご自身の経験から、選手とのコミュニケーションを最も大切にしているという山田和由さんのインタビューを3回にわたってご紹介します。

(2022年9月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/41-1/

▷ 女子選手とのコミュニケーションを取る際に注意されている点は?

会話や態度、言葉遣いや受け答えには気をつけています。年頃の女性は父親ぐらいの年齢、私みたいなおじさんのことはあまり好きではないと思うので。女子、男子に限らず、選手には、常にチャレンジして欲しいと言っています。私に同じようなことを3回言われたら練習は終わりにします。「注意された点を変えないのならもう帰っていい」と選手を帰したこともあります。現状で満足していたらメダルには届きませんから、たとえ指の一本だけでもポジションを少し変えてみるなどして挑戦し、自分の殻を破って新たな自分を見つけて欲しいのです。

女子チームは幸いチャレンジする選手が多いのですが、男子の方は自分のスタイルを大胆に変える選手が少ないです。チャレンジしないのなら頭を整理してからまた明日来なさいと言うこともあります。

▷ どのような選手であって欲しいとお考えですか?

競技に関して言えばストイックに常に勝ちを意識して取り組んで欲しいと思っています。同時に、現状を把握して今の力ではそこには到達しないということも理解して欲しいです。

現状を踏まえた上でどうすれば理想的な形になるか、お互いの考えを一致させるために選手とコミュニケーションを取るようにしています。様々なアプローチをしながらその選手が理想的な形に近づくようにヒントを与えます。あとは選手に考えさせます。なぜできないのか、どうすればできるようになるのか、自分で考えてそこに近づいていく方が、会得する成長スピードが速いと思うからです。もしそこで得た形でもうまくいかなくなったら、基本に戻ってやり直せばまたステップアップするはずです。

いきなり高梨沙羅選手や小林陵侑選手の真似をしろと言ってもできませんので、そうしたトップ選手のビデオをしっかり見なさい、真似してみなさいということもよく言います。真似することも技術の習得のヒントになると思います。一生懸命見る子は実際飲み込みが早いように感じます。

また偶然うまくいくことがあっても、頭の中が整理されていないと長続きしません。長続きさせてさらにレベルアップさせるには、頭で考え、しっかり体に伝達し、体が学習して無意識にできるようにすることが必要で、それが理想的な形だと思います。間違った解釈があれば一緒に修正していきます。

競技以外の面では、ただスポーツをやっているだけの人間なのではなく、社会に出ても恥ずかしくない人間であって欲しいです。例えば、挨拶をちゃんとする、ライフスキルを整えるといったことや食事のこと、他人への感謝についても最初はだいぶ言いました。恥ずかしがる選手も積極的にできる選手もいますが、みな真摯に人としての生活をしてくれていると思っています。

▷ 人間力と競技力はどの程度一致していると思いますか?

まだまだイコールにはなっていないと思います。競技力が上がり成績を残せた選手が鼻を高くするのを見ますし、それは誰もが通る道だと思います。ですが今は一般の方が選手たちをよく見ていて、それをすぐにSNSなどで公開してしまうので、気をつけているとは思います。ただ競技をやって成績を出すだけでは国民の皆さんに認めてもらえません。

メディアは選手が競技力を上げることで近づいて来ますが、良くない時には離れていきます。コンバインドはマイナースポーツですから少しでも注目度が上がるように私たちも努力しなければなりません。ですが基本的には、私たちは選手のレベルが少しでも上がるようにサポートするだけです。

▷ 高梨選手や渡部選手のようなトップの選手の競技力、人間力をどのように感じていますか? 

日本でも世界でもトップにいる選手は名前も顔も知られており、多くの人から見られますから、非常に気を遣っていると思います。少しかわいそうに思うこともありますが、どの選手も競技力が上がって強くなれば注目されるのは当然のことです。五輪や世界選手権のようなビッグイベントではメダルが期待されますが、取れなかったらただの人です。もし取ったとしても夏にはもう忘れられているような種目ですから、競技自体がもっともっとポピュラーになってほしいと思いますね。渡部選手のおかげで少しずつ注目度は上がっていると思いますが、知名度はまだ低いという印象です。頑張って結果を出しつつ私たちもどんどん宣伝していかなければいけないと思っています。

▷ コンバインドがキングオブスキーと呼ばれるのは、ジャンプは瞬発力、クロスカントリーは持久力、その両方が求められるからだと思いますが、その点をどのようにお考えでしょうか。

瞬発系と持久系、両方の力を備えている選手がトップに立つことが大きいです。でも得意なジャンプで逃げ切る選手もいればクロスカントリーで逆転して勝つ選手もいます。選手によってタイプが違いますので、強みをさらに伸ばしつつ弱みを強化していきたいのですが、どうしても得意な方のトレーニングが多くなってしまいます。例えば、持久系が得意な選手が持久系のトレーニングをたくさんすると瞬発力が生かされて来ません。その場合は心も身体も休めた後、フレッシュな状態でジャンプのトレーニングをします。持久系で体にダメージを残したままジャンプを飛ぶこともあるのですが、技術を身につけるためにはフレッシュな状態でトレーニングするのがいいと思います。そこはなかなか難しいところですね。トライアスロンの選手も得意な種目でリードしても苦手な種目で逆転されることがあります。それを見ていると、複数の種目をミックスして行う競技は同じような悩みがあるだろうなと思います。

またジャンプは毎年ルールが変わって難しくなっているので、我が国では男女問わず技術自体もどんどんレベルアップしています。用具も含めて、ルール変更に対して日本人は器用に適応できていると思います。特に男子はジャンプでリードして、苦手なクロスカントリーでその順位をキープするというパターンが多いです。渡部選手はクロスカントリーの力をつけましたがずいぶん時間がかかりました。やはりクロスカントリーはまだ他の国に引けをとっていると言えるでしょうね。

▷ 山田さんにとって理想の指導者とは?

私が慕っていた恩師の方は、すでに亡くなられましたが北野建設スキー部の元監督さんです。言葉数は多くないのですが仰ることが理に敵っており、非常に簡潔にアドバイスして下さいました。その方と数年コーチングをさせていただいた時、こんな風にできれば選手に伝わるのだろうなと思いました。

また、長野五輪で活躍した原田雅彦さん、斉藤浩哉さん、岡部孝信さんなどがコーチとなり、私が直接コーチングをすることがない選手を指導されているのですが、どんな会話を選手としているのか聞かせてもらうことがあります。というより勝手に聞いています。種目は違っても、トップ選手を抱えているチームの監督やコーチが、どのように選手たちと接しているのか、どういう意図でその技術を習得させようとしているのか、参考にさせてもらっています。

▷ 指導する上で「これは譲れない」と思うことは何でしょうか。

一番大事なのは基本の形だと考えています。何をするにしても基本の姿勢や立ち位置は重要です。私自身が現役だった時から、動作をする上でまず基本のスタイルを身につけることは必要だと思っていました。もちろん選手の中には「自分はこうやりたい」と主張する選手がいます。その場合は突き放すのではなく自分たちがやりたい方向でまずやらせて、その後トレーニングの中で徐々に基本の形に修正するようにしています。(後編に続く)

(文:河崎美代子)

後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/41-3/

◎山田和由(やまだかずよし)さんプロフィール

1972年7月22日 長野県北安曇郡小谷村出身

*学歴 長野県白馬高等学校

    早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業

*所属 ・小谷村スポーツ協会スキー部

    ・長野県スキー連盟ジャンプ・コンバインド部ヘッドコーチ

     (2002/03シーズン〜現在)

    ・全日本スキー連盟コンバインドチームコーチ

     (2004/05シーズン〜現在)

      Aチームジャンプ担当コーチ

       (2010/11シーズンより)

      B・Jr.(レディース含む)、Youthチーム統括コーチ

       (2017/18シーズンより)

      女子チームテクニカルコーチ

       (2018/19シーズン〜現在)

    ・NTC白馬競技別強化拠点マネジメントスタッフ

    他 白馬高校スキー部・早稲田大学スキー部

      (株)ショウワ 外部コーチ

*戦歴 全国中学校スキー大会 優勝

    全国高等学校スキー大会 準優勝

    全日本学生選手権 3位

    全日本スキー選手権 優勝1回

    国民体育大会 優勝1回

    ユニバーシアード冬季大会 準優勝

    COC(コンチネンタルカップ)日本代表

【関連サイト】

全日本スキー連盟