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リレーインタビュー第39回 吉川真司さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、日本テニス協会女子ナショナルチーム兼フェドカップ(現BJK杯)チームコーチの吉川真司さんにお話を伺いました。

 吉川さんはナショナルチームで女子選手の指導を担当されていますが、多くの優れた選手に出会う中、後に日本人で初めて四大大会シングルスで優勝する大坂なおみ選手がいました。初めて大坂選手に出会ったのは彼女が15歳の時。テニスプレーヤーとしてのレベルの高さに衝撃を受けたそうです。以来、吉川さんはフェド杯代表コーチとして大坂選手をサポートして来ました。

「選手にはそれぞれが輝く色がある。その選手が輝く全ての色をコーチとして持っていたい」と語る吉川さんのお話を3回にわたってご紹介します。

(2022年6月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/39-1/

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/39-2/

▷ 選手が正しい方向に進んでいるかどうか不安になることがあると思います。そんな時はどのような働きかけをしますか?

コート上での選手とのコミュニケーションが大切になると思います。選手がコートの上でどのように感じているのか、試合でそれを再現できるのか、こちらには手応えがどのように届いているか、そうしたことをきちんと話せる状況を作ることが大切です。選手の全体を見て、もしパフォーマンスが下がっていたら、こちらの言い方や言葉が間違っているのか、言っていること自体が間違っているのか、それとも選手自身に伝わっていないのか、選手が理解できていないのか、どれが問題なのかを知るためにコミュニケーションを取らないと答えのないまま続けることになってしまいます。こちらが大事なところを見極めないとただ言葉を伝えているだけになってしまい、選手のためになりません。それがコーチの能力でもあるので、養わなければいけないと思っています。

▷ 吉川さんが理想とする選手像は?

育成の立場上、世界四大大会で活躍する選手になってほしいと思うわけですが、一人の選手像としては、日々の何気ない、当たり前のことをいつも大切に感じられる選手を育てたいですね。人としてそのような感性を持っていることは重要です。

テニスの強さと人間的魅力には関連があると私は思っているのですが、その傾向は年々強くなっていると思います。かつては日本に限らず外国にも、ゲーム結果に人間性が伴わない選手はたくさんいました。賞金額も競争力も上がり続けている今、勝ち上がっていく選手を見ると、人間性の低さがマイナスになることに周りは気づいています。

例えば、世界のトップ選手であるロジャー・フェデラーとラファエル・ナダルは世界中の人々に愛されていて、非常に人気があります。それは彼らが素晴らしい人間性を持っているからなのです。人としてのあり方が彼らの長いキャリアにもつながっているのです。彼らがどれだけ辛い状況になっても這い上がってくるのは、間違いなく人間性という原動力があるからなのだと思います。

▷ 今の時代、アスリートに人間性が求められているのはなぜだと思いますか?

人間性と競技のパフォーマンスや成績のつながりを求めるのは今の時代の流れなのかもしれませんが、永遠のテーマでもあると思っています。強いからと言って、必ずしもフェデラーやナダルと同じような人間性を持つとは限りませんが、苦境に陥った時に初めてその人のあり方や生き方が現れると思うのです。日頃から自分がどんな人間でありたいと思っているのか、そうした姿勢が求められるべきですし、時代もそれを求めていると思います。

コーチの立場としては、人間力の面でコーチから選手へ、もちろん選手からコーチへもかなり影響していると思います。コーチ一人一人も自分自身の人としてのあり方を考えるべきで、その人間性が指導の面でも大きく影響してくると思います。

▷ 吉川さんご自身のビジョンについて教えてください。

次世代と関わっているので、私自身も成長しながら、選手に対して最大限のパフォーマンスを発揮できること。今はそれが私のミッションですが、シンプルに言えば日本から良いテニス選手を出していくことでしょうか。それに向けて私も選手と一緒に歩んでいかなければいけないと思っています。

良いテニス選手は、一人の選手として周りからもリスペクトされる選手であることが必要です。テニス選手として自分の人生におけるテニスという視点を持ってもらいたいですし、テニス人生と自分自身の人生をどのように豊かにするかということについてもアプローチしていきたいと思っています。勝てるからハッピー、勝てないからアンハッピーという視点ではなく、もっと広い視野を持った選手としてコートに立てるのが良い選手なのではないでしょうか。

▷ 今後、日本人選手が世界でより活躍するためには何が必要だと思いますか?

それはいつも考えていることなのですが、その答えをいかに明確に出すかというのが私に与えられた課題だと思うのです。これまでは、私たち日本人は勤勉で緻密、周りと比べると俊敏性も持ち合わせている、それが武器だと思っていたのですが、今では外国の選手もその必要性を強く感じて実践しています。私たちはこうした選手たちに勝っていかなければならないので、勝つための頭も鍛え、より個性を生かしたテニスをして彼らを上回っていけるようになる必要があると思っています。

例えば日本のラグビーはこれまで日本人には無理だと言われていたフィジカルの強さを身につけました。そうした発想はいいですよね。私たちも見方を改めて行きたいです。ナショナルコーチアカデミーでは色々な方の感性に触れて驚くこともありますが、こんな考え方があるんだという発見があり、面白い体験をさせていただきました。

▷ 吉川さんにとってコーチの魅力とは何ですか?

2つあると思います。1つは選手が輝く瞬間を見ることです。選手が成長していてパフォーマンスが上がっていく過程を見ると非常に楽しいと感じますし、それが結果になれば尚楽しくなりますね。もう1つはコーチという職業を通してたくさんの人に出会い、様々なことを知ることができ、又考えることもできるのは魅力だと感じています。たくさん仲間ができれば更に素晴らしいと思います。それは自分の生き方にも影響を与えていると思います。

よく思うのですが、コートの上でだけ素晴らしい人間になるということはありえないですよね。やはりコートの外でどんな考え方をしているか、どんな人間性を持っているのかが大切だと考えます。コート内での振る舞いはそこから来ていると思います。そのために自分が成長していけるよう努力していきたいと思っています。

▷ 最後に、指導者の皆さんにメッセージをお願いします。

子供も大人も選手の可能性は無限大で、それを良い方に導くのも、最大限の才能まで届かせるのも、隣で関わる私たちの責任ですし、私たち自身が選手に与える影響は非常に大きいと思います。ですからどの選手と接する時も、その選手の道を預かっていることへの緊張感を常に持ち、日々その個性を最大限に伸ばすようサポートすることが大事なのではないかと思います。まだまだ私も成長途上なので、皆さんと一緒に成長していきたいと思っています。(了)

(文:河崎美代子)

◎吉川真司さんプロフィール

1978年1月31日 京都府出身

<テニス歴>

1990年 滋賀県PTEにてテニスを始める

1994年〜96年 札幌藻岩高校 

1995年〜96年 アメリカ・フロリダ州 サドルブルック高校

        サドルブルックテニスアカデミー留学

        日米高校卒業

1996年〜2000年 亜細亜大学

2000年〜2003年 株式会社ワールド

2003年〜2008年 プロ活動

<コーチ歴>

2008年〜2012年 兵庫県芦屋市竹内庭球研究所にてコーチングをスタート

2010年 日本テニス協会S級エリートコーチ取得

2012年〜現在 日本テニス協会女子ナショナルチーム兼フェドカップ(現BJK杯)

チームコーチ

2018年〜2021年 JOC専任コーチングディレクター・トップアスリート担当

2022年〜 JOCナショナルヘッドコーチ

【関連サイト】

日本テニス協会