「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、法政大学第二中・高等学校水泳部顧問の大金寛(おおがねかん)さんにお話を伺いました。
法政二高、日本体育大学、日本体育大学大学院を経て、教員として母校に戻った大金さん。現在50名の水泳部の顧問を務めています。水泳好きの生徒からトップレベルの生徒まで、さまざまな関わり方をする生徒たちが集う水泳部をどのように率いているのか、大金さんのインタビューを3回にわたってご紹介します。
(2023年8月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/48-1/
「チャレンジしてみよう」という言葉はよく使われると思うのですが、私が心がけて声掛けしているのは「ちょっと難しいことにチャレンジしてみよう」ということです。ただチャレンジというと何にチャレンジするのか漠然としてしまうので、「ちょっとだけ難しそうだな」とか「まだ自分にはできないかもしれないな」といった、手が届きそうで届かないことにチャレンジすることが大切だと思っています。練習にしても日常生活にしても、気づいているのについ目をそらしてしまっていること、一歩踏み出せていないこと、そこに目を向けていこうと生徒たちにいつも言っています。
大人になってから仕事などで苦手だと思うことにぶつかった時、自分自身、中学・高校・大学と「ちょっと難しいこと」に目を向けられなかったという後悔があります。「ちょっと」ということが、実は突き詰めることにつながるのではないかと思っています。生徒たちには高校の頃からそこに気づいて欲しいので、やってみようと思いました。
そんな「ちょっと」を何度もやり続けること、例えば、このメニューは不十分だったからもう少しやってみよう、日常生活で大人の人と目が合ったのに挨拶できなかったから次は自分から挨拶しよう、集合時間までには必ず来るようにしよう、そういったちょっとしたことの繰り返しを積み重ねていけば、必然的にできなかったことができるようになると思います。「ちょっと」を突き詰めていくと、結果大きなことにつながっていくと思っています。
ただ、トップの選手を目指す生徒とそうでない生徒の両方に同じことを言うのではなく、それぞれに必要なことを伝え、同時にチーム全体に共有できることも伝えています。自分はここだけは絶対にやるという各自の突き詰めをサポートできるように、時には個別にも対応しています。
私は生徒が自分で選択した水泳を頑張っていることが好きなんだと思います。そこには速い、遅いは関係ありません。水泳というのは、なぜこんな競技を選んだのだろうと思うほど練習がきついので、この3年間を大事にしてほしいという思いで、一人一人とコミュニケーションを取ることを大切にしています。自身の活動を振り返ったときに自分の中に何かが残っていること、それが一番重要なのではないでしょうか。
全てやっていますね。まず生徒たちにはノートを出させています。その上で、それぞれの生徒に必要な声掛けをします。スクールで練習している生徒たちにはミーティングで話すようにしています。また、ちょっとした一言が重要ということを大学で学びましたので、校内で部員の生徒に会ったら必ず一言「最近どう?」といった声掛けをするようにしています。
それから、年度の初めと終わり、年に2回全員と面談をしています。進路はどうするか、今年一年どう頑張るかと言ったことを聞いてメモを取り、そこから1年をスタートさせます。ざっくばらんに趣味や好きなもの、興味あるものについても話を聞きます。
ただ、高校生は「自分の将来考えたことある?」と聞いても答えられないことが多いですね。それが最近の悩みです。特にトップレベルの選手を目指す生徒はそうです。インターハイに出て決勝に残って、といった水泳の目標はあっても、今、ここ、しか見ていないような感じで、将来への夢や目標がないように思います。僕はこの学部に行きたい、とか、私はこれが好きだからこういう職業に就きたい、とか、そういう発言が本当に少ないです。逆に、学校で練習している生徒たちは意外と将来の希望について話してくれます。水泳が全てではなく、別の自分の趣味を持っていたりするのです。面白いですね。二つのグループで全然違います。
上を目指す生徒たちの中には、世界的にレベルが高く、自分ではとてもあそこまでいけない、努力だけではどうにもならないと諦めてしまう生徒が多い印象です。水泳を止めてしまう生徒もいます。だからこそ私は水泳を通してちょっとしたチャレンジをするような指導をしているわけですが、こうしたことが生徒たちのベースになれば、彼らがどんな世界に行ってもどんな業種についても誰と関わっても大丈夫なのではないかと思っています。
自分の決めたことに一生懸命になれること、でしょうか。石の上にも3年ではないですが、3年と言わず、自分が納得するまでそれを諦めずにやってほしいです。ありがたいことに、本校水泳部のOB、OGの中には自分のやりたいことを見つけて頑張っている者が多いです。部活を通して、水泳のタイムを上げるというより、今やっている「応援する、応援される」活動のように、大人になっても誰かを応援する、誰かに応援される、そんな人間になってほしいと思って指導しています。私としては、自分が経験してきたこと、勉強してきたことは全部伝えていきたいです。
大学の時の監督の言葉の中に「分福」だったと思うのですが、「自分に来たものややって来てくれたことを独り占めせずに他人に与える」というものがありました。今やっていることがまさにそれです。私自身、とても多くの方々にお世話になりましたので、今私がやっていることで周りが幸せになれるのが一番良いことだと思っています。
また水泳に関することでは、オリンピアンの同級生が常々言っていた「心は熱く頭は冷静に」という言葉にも影響を受けています。浅く広くですが、本はよく読みます。情報源はネットよりも生の声が聞ける紙の書籍の方が好きです。大学を卒業するまではあまり勉強する方ではなかったのですが、大学院に入ってからは本を読み、文章を書き、言葉で伝えることを学べたのはよかったです。
距離感ですね。授業においても部活においても、それぞれの生徒を見てそれぞれに適切な距離感を大事にしています。生徒によって取るべき距離は全然違います。近寄ってほしくない生徒、そう見えて実は…という生徒もいます。
適切な距離感を知るために必要なのは対話を重ねることだと思います。一度ではだめで、何度も話します。また、相手が出す空気を感じることも大切だと思っています。今は近寄ってほしくない、今は近寄ってほしい、といった空気感ですかね。
時々、失敗したと反省することもあります。もっと近づいてもよかったのにそうしなかった時です。練習後や試合の後は、つい生徒を見てしまいますね。例えば、シンプルに結果が良くなかった時、今うまくいっていないのだろうなという時。そんな場合、相手に入り込んで話をする、少し時間を置いておく、という二つの選択肢があるのですが、私はどちらかというと後者を選ぶことが多いです。少し時間を置いてあの時どうだった?と声掛けをします。ですが、後になってから生徒との会話の中で、「あの時もっとスピーディに声かけしておけば良かった」と思うことが多いのです。「あの時は辛かった」と言われたりして。距離感の取り方は本当に難しいと思います。
ただ、うまく関わることができれば、生徒は卒業してからも遊びに来てくれます。試合を見に来たり、応援してくれたり。卒業生には感謝しています。そういう卒業生が最近増えているようなので大変嬉しいですね。(後編に続く)
(文:河崎美代子)
後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/48-3/
◎大金寛さんプロフィール
法政大学第二中・高等学校 2009年度卒業
日本体育大学 体育学部体育学科 2009年度入学
2013年度卒業
(大学4年間は水泳部に所属。4年間通してマネージャーを経験。)
日本体育大学大学院 スポーツ教育健康教育学系 博士前期課程
2013年度入学
2015年度卒業
(大学院では体育授業研究をメインに様々な小・中学校へ研究に赴く。研究領域は水泳の小学生に向けた教具の開発。)
法政大学第二中・高等学校 2015年度~ 非常勤講師
2017年度 入職
(入職後3年間はラグビー部顧問。その後、水泳部顧問として活動。)