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リレーインタビュー 第13回 安保澄さん(後編)

◎選抜チームは選手の入れ替わりが多いと思いますが、どのように対応していますか?

アンダーエイジカテゴリーの選抜チームは2020年東京、2024年パリ、そして2028年ロスに向けた強化であるという主旨・目的と、「将来の日本代表につながる人材になる」という使命(ミッション)に沿って強化をすすめており、そういったベースにあるものはメンバーが入れ替わっても変わらないようにしています。また、可能な限り能力のある選手の強化を継続したいと考えています。そのためには、例えば私たちがU-17、U-18で初めて代表に招集する選手をU-23やシニアにも選んでもらえるよう、歩留まりをよくすることが重要です。そのためには、私たちが選手たちを初めて代表に選出する際の選手評価の観点、目利きの部分の確度も上げていかなければならないと考えています。また有力な選手が選抜強化合宿に参加する機会を逃さないように、中体連や高体連からの有力選手情報の提供協力を受け、リストアップ漏れを未然に防いだり、試験などの学校行事と合宿日程が重ならないように配慮して、合宿参加しやすい状況を作ることも必要です。

2大会先のオリンピックまでの強化プランには、ターゲットとなる有力選手をリストアップしており、そのメンバーをベースに、ミッションから逸れないように強化を進めていくと同時に、核となる有力選手が継続して合宿に参加できるよう所属チームに派遣協力のお願いをしています。

写真提供:http://www.fivb.org


◎選手を選ぶ時のポイントですが、技術力、身体能力に加えて、どのような点がありますか?

身長の高さなどの体格面、そしてパーソナリティー評価というのがあります。パーソナリティー評価では、自主性・主体性、協調性、意欲、信頼、4つの評価をします。協調性は、本人がまわりに対してどう関わるか、意欲は、チームの挑戦に対して意欲的か、信頼は、まわりから信頼を得られているかということです。パーソナリティー評価は数字で測ることが難しい評価の仕方です。パーソナリティー評価を私ひとりがやると完全に主観的なものになってしまいますので、客観性を持たせるために、評価する人の数をできるかぎり増やして平均値を出すという方法を取っています。

ボールゲームの選手選考は非常に難しいと思います。単純に選手を数字だけでは評価できない部分があって、結局、監督がやりたい戦術を実行できる選手や、監督が描くチーム像に沿った選手を選ぶことになっていきます。しかし、結果としてそういう選出になったとしても、技術力はあるが人間的な部分でチームにマイナスの影響を与えるかもしれない選手を選考しない場合、その理由を示す評価指標が必要になります。もし選手選考が理事会等の会議体で承認されるものであれば、なおさら説得力のある評価指標が必要になってくるでしょう。そういったことを見据えて、できる限り整合性の高い評価指標を作っているところです。

面白い取り組みだなと思ったのが、アイスランドのサッカーチームの育成方法です。人口30数万の国でよりよい選手を輩出しようとする取り組みの一つで、例えば、若い世代に判断力がいい選手がいた場合、技術力はなくても落とさないで継続的に強化する、というやり方をやって来たのだそうです。技術力や身体能力だけを重視しない評価基準を育成年代に用いた結果、現在の強い代表チームができてきたと言われています。

バレーボールでは体格的に大きい方が有利です。もし体格的にめぐまれなくても、ゲームを有利に展開する能力として判断力がプラスになるのであれば、その能力の高い選手を選出する方がチームにとっても日本の将来の競技力にとっても重要であり、そういう事実や根拠があるのであれば、パーソナリティー評価の中に判断力も項目として作っていくことが重要になってきます。ボールゲーム全般に、技術ができるだけではなく、他者に好影響を与えられるパーソナリティーも重要です。そういった意味で、パーソナリティー評価には重点を置いていますし、今まで明確でなかった部分をどう客観的に評価できるようにしていくかをいつも考えています。

思い出すのが、ロンドンオリンピックの準々決勝の中国戦です。第5セットの後半の攻防が手に汗握るものだったのですが、この時のスタメンの選手、試合途中にコートに送り出された選手たちはベンチに依存していませんでした。自信を持って自分で判断してくれと送り出されていたからです。その時のコート上の選手たちが、非常に速いスピードで考え、判断し、行動していたことが私の記憶の中に強烈に残っています。あの試合で1992年バルセロナ大会以来勝ち抜けなかった準々決勝の壁を打ち破ることができたのは、選手たちが単純に、技術が高い、身体能力がいい、体格が良いからではなく、パーソナリティーの部分をしっかり持っていたからで、だからこそあのような土壇場の、接戦の場面で他者を巻き込み、チームを良い方向に導くことができたのです。あんな緊張度の高い試合はなかなかありません。長くバレーボールをやっていても、ここを勝たなければオリンピックが終わってしまうという緊張度の高い場面で底力を発揮できる選手たちは希少で、素晴らしいパーソナリティーを持った選手たちだったと思います。

◎「他者に好影響を与える」というのは具体的にいうとどういうことでしょう。

うまくいっていない選手がいた時に提案してあげられる、アドバイスを求められたのなら、自分なりの考えを伝えてあげられる、と言う風に、他者がうまくいっていない時に他者がポジティブになるような働きかけができると言うとイメージしやすいかもしれません。日常の競技活動の中では、うまくいかないことの方が多いと思います。でもそのような時に自分がどうなりたいかを明確に持っている選手は、多少、心が弱い方へ振れることはあっても「いや、私が目指しているのはここだ」と、目指す場所に向かって今踏み出せる一歩は何かを考え、ポジティブに行動することができます。他者に好影響を与える選手はこのようなマインド、言い換えれば心の強さを持っていると思います。

選手の競技生活には限りがあります。競技を終えて世の中に出た時に、その競技がうまかったことは何の役にも立ちません。競技をやっている時に身につけたマインド、例えば、競技仲間を助けることと同じように世の中の困っている人を助ける、チームに主体的に関わったことと同じように社会に役に立つことを率先して行う、と言った考えや行動、つまり競技者として身につけた人間的な強さは世の中に出ても生かせるものだと思います。アスリートが世の中に貢献しなければならないこと、それはスポーツで培った人間的な強さを世の中に還元することです。スポーツに携わった人が、もし困っている人を見かけたら、彼らを助けるアクションを起こすこと、スポーツが身近にあったおかげで友人が増えた、スポーツをやったおかげで心が救われることがあった、など、スポーツやスポーツマンから恩恵を受けたという人が増えることがスポーツとスポーツマンの価値を高めることなのではないでしょうか。私のコーチングは、最終的にはスポーツとスポーツマンの価値を高めること、そこに結び付けたいです。他者に好影響を与えるというのは、そういうことです。競技者の時だけでなく、その後も役立つ人間であること。選手にはぜひそのような人間になってもらいたいと思っています。


◎理想の選手像とは?

自分で自分の伸ばし方や生き方を決められる選手だと思います。競技者を終えた後でも「選手として世に知られている自分だからこう振る舞わなくてはいけない」のではなく、高い倫理観を持ち、「自分の生き方の信念に基づいた行動をするのが当たり前だ」と考える選手が理想ですし、そういう選手が育つように取り組んでいきたいです。


◎理想のチームとは?

メンバー全員が本当になりたい自分に近付こうという熱を持っているチームが理想です。昨年U-20世界選手権で銅メダルをとったメンバーは個々人の向上心が高く、かつ、「お互いがお互いを高めるために」という意識が高いです。多分、そういう意識で成長していく選手たちをコーチとしてそばでみているのはわくわくすると思いますし、その選手たちが戦いのステージを自らの力で上げていき、高いステージに挑んでいく姿を見られるとしたら、それはコーチとして、刺激的で胸が躍るような場面になると思います。


◎監督としてどのようなビジョンはお持ちですか?

監督から退いた後に、いずれは志のある人たちが集まって、いいコーチを輩出できるといいなと思っています。いいコーチが増えることが、日本のスポーツの価値を高め、スポーツを通して日本の国民の心を豊かにすることにつながると思います。将来、そのようになるために今自分自身がやらなければならないことは、やはり自分がコーチとしてより高みを目指していくということではないでしょうか。世界との戦いの場に身を置ける時間、代表チームの活動をさせてもらえる期間は限られているので、あらゆることをしっかり学び吸収することが必要です。代表チーム以外のチームに所属することになった時も同様で、どんなことも成長につながるという成長型のマインドセットで取り組んでいきたいです。そんな我々の軌跡を見て若いコーチが学びたいと思ってくれるとしたら、彼らに何か範を示すことができるのではないかと思っています。


◎いいコーチの定義、いいコーチの条件とは?

人が変わるきっかけを与えられることでしょうか。人というのは自分自身で変わろうと思わないと変えられませんよね。今、私は、選手たちが持っているアンテナを内側から少しずつ広げるような関わりをしているわけですが、人の心を変えることはできなくても、そのきっかけを作ることはできると思っています。

「今のそれ、いいぞ」と指摘されることに慣れていない選手が、高校までの年代には特に多いと思いますが、そのような指摘をしないと「私はこれができる」という自信が育まれません。選手自身が「まだ足りない、まだ足りない」と思うことは、高みを目指すには必要なことですが、選手の技術やマインドが日々すこしずつでも向上してきていることをコーチが認めることで選手の自己肯定感を高めること、これも選手が変わるきっかけ作りとして必要です。


◎指導者の方たちにメッセージをお願いします。

コーチは何かと悩みが多いと思います。コーチが何かを迷った時には常に「なぜあなたはコーチをするのですか」という問いに立ち返ればいいと思います。自分のコーチングの動機に立ち返るのです。この問いに対する答えは、若いコーチの場合「自分のやってきた競技を伝えたいと思ったから」というものが多いのですが、本当に深く考えると、もっともっと深いところに答えが行き着くはずです。コーチングでとまどいや迷いがあった時に自問することでコーチングの動機を再確認し、それがとまどいや迷いの解決の糸口を見つけるきっかけになることがあると思います。どの競技のコーチでもコーチングの難しさを感じること、悩むことはあると思います。競技は違うけれど同じコーチとしてともに学んでいければと思っています。

以前は、恩師の「人を幸せにしたい」と言う言葉がわからなかったのですが、監督になって初めてわかりました。もし選手や若いコーチたちが何かを「わかった」のなら、それはその選手やコーチたちが以前より豊かに、より幸せになったということだと思います。私は関係する選手やコーチたちがそうなるようにお手伝いをしていきたいです。 (了)

(文:河崎美代子)

【安保澄さん プロフィール】

所属:公益財団法人日本バレーボール協会

役職:U19-U20&U23女子日本代表監督

1970年生まれ。

1993年 明治大学卒業

2000年 筑波大学大学院体育研究科修了。

1998年~2000年 筑波大学女子バレーボール部アシスタントコーチ

2000年~2001年 Vリーグ女子イトーヨーカドープリオールアシスタントコーチ

2001年~2009年 Vリーグ武富士バンブーアシスタントコーチ

2002/2003(第9回)Vリーグ準優勝、

2005/2006(第12回)Vリーグ3位、

2006/2007シーズン Vリーグ4位

2009年~2012年 全日本女子アシスタントコーチ(ディフェンス担当)

2010年 世界選手権銅メダル

2012年 ロンドンオリンピック銅メダル獲得に貢献

2013年~2014年 久光製薬スプリングスアシスタントコーチ

チームの公式戦5冠獲得に貢献

2014年より現職。

2017年U23アジア選手権金メダル

2017年U20世界選手権銅メダル

2018年U19 アジア選手権金メダル

 その他

日本体育協会公認上級コーチ(バレーボール)、

2012年度JOCナショナルコーチアカデミー修了。

JOCナショナルコーチアカデミーワーキングメンバー

☆ 公益財団法人日本バレーボール協会