「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、法政大学第二中・高等学校ラグビー部監督の原礁吾(はらしょうご)さんにお話を伺いました。
日本体育大学在学時に負傷したことをきっかけに学生コーチとなり、日本体育大学大学院修了後、講師として法政二中・高に入り、ラグビー部のコーチに携わるようになりました。今年からは法政二高ラグビー部の監督に就任し、より良いチーム作りに日々奔走しています。ラグビーを愛し、生徒たちとの時間を愛し、常に学び続ける原さんのインタビューを3回にわたってご紹介します。
(2023年10月 インタビュアー:松場俊夫)
2017年、講師として本校に入ったのですが、ラグビー部に関わって7年目になります。2019年からはヘッドコーチになり、現在は監督を務めています。最初の3年ぐらいは自分が大学院で勉強したことはあまり生かせなかったのですが、ヘッドコーチになってからはチーム文化の構築や、自律を促すような環境作りを主に行なっています。私の活動の中で、大学院の研究室で学んだ伊藤雅充先生の「アスリートセンタードコーチング」、選手中心のコーチング理論をより広めることができればと考えています。
私は大学4年生の時にバイスキャプテンだったのですが、春に首を怪我してしまいラグビーを続けられなくなってしまいました。そこでヘッドコーチから学生コーチに誘ってもらったのが、私がコーチになったきっかけです。そしてコーチになるためにもっと勉強したいと思い大学院に進みました。
バイスキャプテンでしたので、他の選手に対しては割と物を言うタイプだったのですが、少し厳しく言ったりしてトラブルになることはありましたね。ただ私自身、体罰や罵声によるコーチングは全く受けていなかったので、学生コーチとしてもそうしたことは一切しませんでした。ですが、先輩たちの代で下のリーグに落ちてしまったため、私たちはそこからスタートしなければならず、かつ、バイスキャプテンとしてキャプテンと一緒に頑張っていこうという矢先に怪我をしてしまったこともあり、どうしても上に上がって後輩たちに残したいという気持ちが強かったのだと思います。結果的に上がることはできましたが、気持ちばかりが先走って空回りした時期がありました。
その頃、大学院の助手をされていた何年も上のラグビー部OBの方が、助手を辞めて私が入りたかった研究室に入ったのです。OBの方のそれからの変化には驚きました。人への接し方は助手だった時とは目に見えて変わりました。何があるのだろうと思いましたし、自分のうまくいかなかったところを改善したかったので、とても興味を持ちました。そこで図書館でコーチングの本を読んだりして、自分のやっていたことは不適切だったということもわかりました。
元々、教員になりたいという気持ちはありましたが、自分の指導がうまくいかなかったという経験を考えても、知識がない状況で教員になるのは怖かったです。教員は生徒たちの前に立って、彼らになんらかの影響を与えるような立場ですから、間違ったことを言ったりしたら責任重大だと思いました。ですから大学院に進むことに迷いはなかったです。
勉強量です。それまで勉強はあまりしていなかったので、大学院も一度目は落ちてしまいました。私としては英語が壁でしたので、英語はかなり勉強しました。入ってからも苦労はしましたが、心は折れませんでした。自分に「勉強したい」という強い気持ちがあったからで、そうした内発的な動機の大切さを実感しました。自分がコーチや教員になったらまず、内発的な動機づけが良い方向に刺激になるような形を作り、さらに探究心を育てたいと思いました。探究心は仕事にも勉強にも、全てに必要なことですよね。探究心を養えば、例えば、何かできるようになりたいことがあれば、自分自身で色々調べます。その過程が自分の力になるのです。そうした力が身に付くような機会を生み出せればいいなと思いました。
まず、チーム文化を形成したいと思いました。そのための方法を自分で学んでチームのコアバリューを決め、決めるだけではだめですから、コアバリューを表すためにはどのような行動をすればいいのかという行動目標を決めることにしました。他者が見た時に、この人たちはこういうことを大切にしているのだなということがわかるような目標です。それを生徒たちに決めてもらいました。学年ごとに3つぐらいずつ出してもらい、指導者とスタッフの意見と擦り合わせます。そうしたコアバリュー作りを、3,4年目から継続的にやり始めました。
さらに分析チームを作り、攻撃班、守備班、相手チームを分析するような班に分けて、ミーティングで生徒たちに課題を出してもらいました。それはだいぶ軌道に乗っており、最上級生はそうした活動を3年経験しているのでうまく回っていると思います。
ただ最初は大変でした。私のコアバリュー設定があまりうまくいかなかったこともあるのですが、浸透させるためにはミーティングでコアバリューの振り返りや評価をすることが必要だということもわかりました。いきなりコアバリューを考える前に、なぜ法政二高でラグビーをやっているのか、なぜラグビーがしたいのかといった、自分への「なぜ」の問いかけをやってもらいました。それからコアバリュー設定をしていったのですが、価値観よりも「やらなければいけない」こと、「絶対に規律は守ろう」といった自分たちのルール、自分たちを縛り付けるものになってしまいました。それではチームに浸透しませんし、それを注意する上級生の言い方がきつくなってしまうこともありました。
2年目に設定方法を変えたのですが、浸透させる機会と振り返りの機会を十分に作ることができませんでしたので、翌年はその反省からチームミーティングの時に、自分たちのコアバリューを評価するようにしました。まず自分自身でどれだけできたかを評価し、その後に4人ぐらいのグループで話し合いながら点数化し、平均点を出すというやり方です。今では生徒たちが自発的にやってくれるようになっています。(中編に続く)
(文:河崎美代子)
中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/49-2/
後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/49-3/
◎原礁吾さんプロフィール
・日本体育大学4年次に首を負傷し、ヘッドコーチから誘いを受けて学生コーチとなる。
・日本体育大学卒業後、同大学大学院のコーチング学研究室に進学。
同大学学生コーチを続ける傍ら、駒澤大学ラグビー部BKコーチを1年間務める。
・2017年大学院修了後、法政大学第二中・高等学校で保健体育科の講師兼中高ラグビー部コーチになる。
・2019年ごろから法政二高校ラグビー部ヘッドコーチを務める。
・2023年から法政二高ラグビー部監督。