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リレーインタビュー第48回 大金寛さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、法政大学第二中・高等学校水泳部顧問の大金寛(おおがねかん)さんにお話を伺いました。

法政二高、日本体育大学、日本体育大学大学院を経て、教員として母校に戻った大金さん。現在50名の水泳部の顧問を務めています。水泳好きの生徒からトップレベルの生徒まで、さまざまな関わり方をする生徒たちが集う水泳部をどのように率いているのか、大金さんのインタビューを3回にわたってご紹介します。

(2023年8月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/48-1/

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/48-2/

▷ 座右の銘は何ですか?

「我慢、執念、意地」でしょうか。これは大学時代の水泳部のコーチにずっと言われていた言葉で、今も自分の中に残っています。きついことにぶつかった時にはまず「我慢」する。目標ができ、やりたいことが明確になったら「執念」でやり続ける。「我慢」して「執念」で取り組んでいればベースは出来上がるので、最後は「意地」でやり遂げる。座右の銘かどうか分かりませんが、物事への取り込みのベースになっていることですね。

▷ これまで最も影響を受けた指導者の方はどなたでしょうか。

本校バスケットボール部監督の鈴木恭平先生です。鈴木先生も私と同じく本校のOBなのですが、私が教育実習で本校に戻ってきた時の指導教官が鈴木先生でした。先生に卒業後の進路について色々と話をしたところ、教員をやってみたらと言っていただきました。また、本校のテニス部監督の高橋司先生に「ここで講師をやってくれないか」と声をかけていただき、まず非常勤講師として本校に来ることになったのです。

当初、本校には講師の方がたくさんいらしたので永続的に勤務するのは難しいだろう、先に合格をいただいていた公立に行くことになるだろうと思っていたのですが、ご縁があって本校からも合格をいただくことができました。どちらで働くかという決め手は、単純に鈴木先生と働きたいという強い気持ちでした。そこで本校に決めました。鈴木先生と働いたら絶対に楽しいと思ったのです。先生の影響でこうやってインタビューも受けているわけですし(笑)。鈴木先生には本当によくしていただいています。チームをとても大切にされる方ですし、生き方も面白くて感銘を受けました。

鈴木恭平先生に最も影響を受けたのは、先生の生き方、先生の考え方です。先生のような人になりたいと思いました。アメリカで色々な経験をしたり、バスケをしつつラップもやっていたり、非常に多くの人と交流していらっしゃいます。自分の好きなことをやりつつ周りを幸せにしている方です。そんな生き方、とても好きです。

考え方については、鈴木先生はバスケットボール部の指導もクラスの担任としてもどちらかというとフォロワーシップ型です。基本的に「みんなで考えなさい、みんなでやりたいことを突き詰めなさい」という姿勢です。そこは私も全く一緒で、生徒自身がそれぞれの考えで目標と目的を持って突き進み、その土台を踏まえて、締めるところは締めるという考え方です。ルールありきの自主性をサポートしています。

鈴木先生は職場でも、周りを巻き込みつつも自分の意見は通す方です。みんな先生のファンになるのですが、かといって、めちゃくちゃ柔らかいというわけではないのです。そこが魅力的ですね。色々お話ができてとても勉強になります。

▷ 大金先生の今後のビジョンについて教えてください。

入学してくる生徒たちに合わせて、私のやり方を少しずつ変化させていこうと思っています。私のスタンスは、生徒たちが自分のやりたいことを100%の力でやり抜いてチャレンジできる環境を整えることです。彼らが高校の3年間を終えた時に自分のやって来たことを実感できるサポートを準備してあげることが今後、より大切になると思っています。生徒たちはそれぞれ性格が異なりますし、毎日変化があるので、日々そのことを忘れないようにしています。

また、本校の水泳部を選んで来てくれた生徒はレベルに関わらずこれからも大切にしていきたいです。今の生徒たちは少し前と比べると臆病というか、物事のその先を考えてしまって一歩が踏み出せない傾向があるかなと思う時があります。圧倒的にやりたいことがあるのに突き詰められない生徒が多いようにも思います。以前の生徒は、遊び感覚もあって面白がることができたのですが、今の生徒は真面目なんですね。真面目が故に突き詰められない。やる前に何も考えなければ、とりあえず一歩踏み出して「あ、できた」ということがあるのですが、今はその一歩がなかなか踏み出せない生徒が多いのかもしれません。

考えないで一歩踏み出せるという自然な状態がある方が生きやすいと思うのですが、今の生徒は情報が多いので「こうしたらこうなる」とやる前から結果がわかってしまう。だから面白がれないのかなと。ですから今の生徒に合わせることが必要になります。それを実践しながら、日々Crush and buildでやっていくしかないです。先輩たちが作ってきたこの部分は変えない、でもここは変えようと。お互いに応援すること、人を大切にすること、チャレンジすること、そうした目に見えないことを大切にしつつ、その年にあったカラーを出せるようにまずミーティングをやり、そこから進めていくことを大切にしています。

▷ 現在のスポーツ界に必要なものは何だと思いますか?

現在では、水泳もバスケットボールも陸上もテレビ放映が増えていて、「スポーツをシンプルに楽しむ」という言葉もよく出てきます。でもその競技をやっていない第三者が楽しさや成績や実績に目を向けてしまっているからこそ、選手たちがあまり楽しめない状況になっているような気がします。情報が溢れていて、第三者も選手もSNSの書き込みをすぐに見ることができてしまう。本質的に「楽しむ」という意味合いが変わってしまっているように思います。

高校の部活までなら楽しんでやれると思うのですが、卒業後もスポーツを続けるかどうか、高校というのはその境にあると思っています。ですから高校を出るまでに楽しいとはどういうことなのかを私たちは教え、考えられるような経験を積ませていく必要があると感じています。オリンピックや上位大会に出ることが全てではありません。生徒たちが30歳、40歳になった時、高校で水泳をやって楽しかったからまた市民プールで泳いでみようといったことがスポーツを永続的にさせ、本当に楽しむということにつながるのではないかと思うのです。私の役目は強化よりも、どちらかというと普及が合っているのかなと思います。

▷ スポーツで楽しむとはどういうことだとお考えですか?

気分転換なのではないでしょうか。仕事で疲れたから今日は25メートルだけ泳ごう、そんなサクッとした感じが一番楽しいと思っています。私が目指すところはそこですね。社会人になって気分転換に泳いでいるようなOBが「今度試合に出してもらっていいですか」と言ってきたら嬉しいです。普及という点では、小・中・高校でやったことが大人になっても根付いているのが最も良いことで、水泳の楽しさ=気分転換と捉えてもらえたら、私としては楽しさを伝えられたように思います。高校の頃すごくきつかったから大人になってからはやりたくないというのは良くありません。強化に関してはその道のプロフェッショナルがいますから、大学やクラブで大きく記録を伸ばし、一方では高校で始めるスポーツもありますから、その時代に体験したスポーツを楽しみながら将来につなげて欲しいと思います。

▷ 全国の指導者の方にメッセージをお願いします。

まず私たち指導者が勉強することをやめずに、情報過多の時代だからこそ、しっかりとその情報を精査し、何が正しく何が間違っているのかを自分で考えて落とし込む。それを自分なりのアレンジを加えて生徒たちに伝えることが最も大切だと私は考えています。もちろんデータも必要ですが、私たちがやっているのは人を育てることですから、生徒の話を聞き、実際に足を運び、苦労を厭わないようにしたいと思います。

とにかく一生、勉強です。富士山が高く見えるのは裾野があるからです。生徒たちの基盤をしっかり作れるように、もし皆さんと協力できることがあれば一緒にやっていきましょう。(了)

(文:河崎美代子)

◎大金寛さんプロフィール

法政大学第二中・高等学校 2009年度卒業

日本体育大学 体育学部体育学科 2009年度入学

                2013年度卒業

(大学4年間は水泳部に所属。4年間通してマネージャーを経験。)

日本体育大学大学院 スポーツ教育健康教育学系 博士前期課程

                       2013年度入学

                       2015年度卒業

(大学院では体育授業研究をメインに様々な小・中学校へ研究に赴く。研究領域は水泳の小学生に向けた教具の開発。)

法政大学第二中・高等学校  2015年度~ 非常勤講師

              2017年度   入職 

(入職後3年間はラグビー部顧問。その後、水泳部顧問として活動。)