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リレーインタビュー第66回 50(フィフティ)さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、【FIVE O DANCE STUDIO】を運営するダンサー、振付師、演出家の50(フィフティ)さんです。

野球、サッカー、体操と子どもの頃から体を動かすことが大好きだった50(フィフティ)さんが中学生の頃に出会ったのがダンス。初めはストリートで踊っていましたが、18歳で東方神起の全国ツアーに参加。その後はBoA、DREAMS COME TRUEなど一流のアーティストのバックダンサーとして活躍。プロフェッショナルの凄さを目の当たりにして多くのことを学ばれたそうです。現在はダンサー、振付師、演出の仕事と同時に、パートナーのLINAさんと運営する世田谷区のダンススタジオで子どもたちを中心にダンスのレッスンを行なっています。

スポーツにとって重要な「基礎」も、ダンスで「表現」する時には足枷になることもあるので、ただ教えるのではなく「子どもたちの自由な表現を常に大切にしている」という50(フィフティ)さんのお話を3回にわたってご紹介します。

(2025年11月 インタビュアー:松場俊夫)

▷ 現在、二子玉川でダンススタジオを運営されていますが、コンセプトに「地域密着」を据えたきっかけは何でしたか?

このスタジオは妻のLINAと始めたのですが、妻がダンサー友達のレッスンに行った時、生徒さんの中にLINAのことを知っている方がいて「うちの娘に教えてほしい」と頼まれたのです。その子は3、4歳でしたが、他の子にもレッスンをしてほしいということで始めたのがきっかけです。当時は近くに住んでいたこともあり、二子玉川から喜多見あたりまでの子どもたちに3年ほどレッスンをしたことで、このエリアがさらに好きになりました。その頃は公民館や体育館などの施設でレッスンしていたのですが、鏡がなかったり床の質が場所によって異なっていたので、レッスンにいい場所を探していたところ今の物件に出会い、ここでスタジオやっちゃおうかということで始めました。その頃には生徒さんが2〜30名になっていました。

▷ 生徒さんはそこから順調に増えましたか?

一応順調に増えてはくれたのですが、オープンに向けて物件を取得し、3〜4ヶ月かけてリフォームしている最中にちょうどコロナが流行り出したのです。オープンは2020年5月だったのですが、周りはどこもクローズ、学校も休校でオープンしようにもオープンできない。スタジオの向かいのや屋外テニスコートもクローズしているしどうしようと途方に暮れました。

でもとりあえずオープンだけはしようということで、地域の人向けにオンラインのレッスンを始めました。ダンスだけでなく、絵を描くのが得意な友達にお絵描きを教えてもらったり、プロのシンガーさんにボイストレーニングクラスをしてもらったり、ストレッチ専門のトレーナーさんによるストレッチのクラスも行いました。一週間オンラインでやったのですが、やはりダンスのオンラインレッスンは特に音がずれたりして難しい。そこで、もう始めてしまおうと見切りをつけ、マスクや感染対策をしながら始めました。小中学校はもう通学できるようになっていましたし。

始めてみたところ、予想通り子どもたちの体は自粛生活でかなり鈍っていました。でも自粛生活の中でK-popや色々なジャンルのダンスアーティストのYouTube動画が流行っていたおかげで、ダンスをやってみたいという子どもたちや、子どもにやらせてみたいというお父さんお母さんが多く、口コミでたくさんの人が来てくれました。

▷ ダンスを通じて子どもたちに伝えたいことは何ですか?

私自身は小さい頃から野球、サッカー、体操もやっていたのですが、4〜5年生ぐらいになると体格の差が出てきて、これは圧倒的に無理だな、このジャンルでは世界一になれないなと思うようになりました。何かしら一番になりたい子どもだったのですが、負け続きでした。小学校卒業までは続けましたが、中学生になって何か新しいものを探していたところ、ダンスに出会いました。当時ダンスは真新しく周りにもやっている人が少なかったため、ダンスを始めたおかげで、自分の価値観がすごく変わりました。同年代とチームを組むスポーツとは違い、体格や年齢に関係なく、同じ土俵で戦えるという魅力がダンスにはありました。言葉ではうまく伝えられないこともダンスを通して伝えることができました。

今の子どもたちも色々な悩みを抱えていると思うのですが、うまく喋れなくてもいい、スポーツが苦手でもいい。競い合うことが正しいのではなく、そういうルールやしがらみを抜きに、ダンスは自分の体で表現をし、心を解放できると思います。競いあうことも大事ですが、そういった一つ一つのステップや段階をクリアして踊ることも含めて、努力した自分を認めてあげてほしい。私はそのことを一番大切にしています。頑張って大会での優勝を目指すのも良いですが、そうでなくても頑張ったことは必ず自分の自信に繋がるので、できないことも楽しんでやってほしいと思っています。

▷ 子どもたちにはどんな大人になってほしいですか?

自分を認めつつ、人のことも認めることのできる人であってほしいです。それには感謝の気持ちが大切です。子どもたちがダンスを習えるのは保護者の皆様のおかげです。仕事をして稼いだお金でレッスン料を払い、衣裳を買ってくれて、嵐の日にも送り迎えしてくれます。自分一人の力ではできないのだということをしっかり理解して、レッスンに来るからには一生懸命やってほしいですし、親だけでなく友達にも先生にも常に感謝の気持ちを忘れないでほしいと思っています。

▷ ダンスを通じて人を育成するということを考え始めたきっかけは何ですか?

ダンスには尖っている部分が結構あって、私自身、高校の頃チームをやっていた時は大会でも挨拶一つしませんでした。周りは皆ライバルなので勝手に意識をしていました。審査員に対してもそんな感じで、それがカッコいいと思っていたのです。

ところが18歳の時、東方神起のオーディションを受けて、全国ツアーの仕事をいただいた時から、ダンスは遊びから仕事に一気に変わりました。ある先輩が、会場入りすると誰もいない楽屋に「おはようございます、よろしくお願いします」と挨拶するのです。一応私も同じようにしましたが、その後先輩から「なぜ誰もいない楽屋に挨拶するかわかるか」と聞かれました。私は全くわからず「なんとなくッスか」などと返事していたのですが、その楽屋は大道具さんたちの楽屋でした。大道具さん、舞台のスタッフさんたちは私たちが安全にステージに立てるように前日や前々日からろくに寝ずに準備をしてくれています。アーティスト、ダンサー、ミュージシャンたちがいつ来てもいいように掃除したり整備したりしてくれるのです。先輩は「そういう人たちに敬意を持って挨拶をしている」「僕たちが踊れるのはそういう人たちのサポートがあるからだ」と。これがプロの現場だと思いました。そこからは色々なツアーに携わらせていただきましたが、どこの現場もスタッフさんは非常にプロフェッショナルで、私たち演者に対しても気を遣ってくださいます。そうした経験から、人と人が作り上げていること、その上で私は踊れていられること、周りの人に支えられて踊れることへの感謝の気持ちを強く感じるようになりました。

そういったことを発表会の日に生徒たちに伝えています。発表会で踊れるのはお父さんお母さんだけじゃなくて、スタッフさんたちがいるから。会った人には必ず感謝の気持ちで挨拶をするように言っています。ダンスをやっているとたくさんの人が応援してくれることを感じますが、これは自分一人、自由にストリートで踊るのとは違います。人前で踊るということはお金も人の手間もかかっているのです。子どもたちにはそういう現場を経験することで感謝の気持ちを持つことを伝えたいです。

▷ 50(フィフティ)さんのレッスンはどのような指導スタイルですか?

厳しくはないと思いますね。普段は「楽しい」をモットーにレッスンしています。子どもたちの自己肯定感を伸ばしたいのです。子どもたちのレッスンに来るきっかけはテレビや動画を見てダンスを好きになったから自分もやってみたい、というものなので、レッスンに来たら怒られる、つまらないというのは勿体無いことです。友達同士で来る子が多いので、遊びの延長でダンスに取り組んでもらえればいいと思っています。二子玉川スタジオにはボルダリングと雲梯があるのですが、子どもたちに遊び場のような感覚で来てほしいというのがこのスタジオのスタイルです。

発表会に向けてはちょっと熱が入りますが、全員のダンスをめちゃくちゃ揃えるというタイプではないです。揃えることはあまりせずに、気持ちの解放と言いますか、音をしっかり聞いて自分がどのように感じてどのように表現したいかを重要視しています。先生に言われた通りではなく、自分が持っている感性で、自分が腕をこう伸ばしたかったらこう伸ばす、こう止めたかったからこう止める、といった風に。音楽を聴いて耳で感じるものは全員違います。それを振り付けを通してさらに表現してほしいので、他の子と同じことはしなくていいよと言います。ベクトルさえ合っていれば見え方は同じです。ピッタリ揃えすぎて子どもたちが自分を抑えてしまうのは良くないと思います。もちろん揃えたいところはビシッと揃えますが、それ以外の部分、自分が自分らしく踊れるフリースタイルの部分を作ったりと自分らしさは大事にしています。同じ振り付けでも、腕も足も顔の位置も、手もパーなのかグーなのか、自分が好きなようにやってもらっています。そういうところで人と違っていい、自分を閉じ込めずに解放できることを大切に考えて指導しています。(中編へ続く)

(文:河崎美代子)

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/66-2/

◎50(フィフティ)さんプロフィール

【FIVE O DANCE STUDIO】運営

2007年よりトップアーティストのステージに立ち続けるダンサー/振付師/演出家

東方神起・BoA・DREAMS COME TRUE・Nissy・木村拓哉をはじめ数多くのアーティストをサポートし、出演ライブは通算1000回近く、ドーム出演は150回超。日本人ダンサーとしてドーム出演最多クラスの実績を誇る。

さらにSHINee・NCT127・超特急の振付、西野カナ・PrizmaXのステージング演出を手がけるなど幅広く活動。

現在は世田谷区鎌田(二子玉川校)・狛江駅前狛江校で「FIVE O DANCE STUDIO」を運営し、次世代の育成にも力を注いでいる。

【関連サイト】

FIVE O DANCE STUDIO