スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー第51回 赤山僚輔さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、理学療法士・スポーツトレーナーの赤山僚輔さんです。

 赤山さんは「全世界から慢性障害をゼロに」という志のもと、バレーボール、バスケットボール、空手などの選手・チームのサポートと、香川県のゲストハウス型リトリート施設「さぬきリトリート繋安芯堂」の運営を両立されています。心と身体のつながりの深さ・大切さについて、3回にわたってご紹介します。

(2024年1月 インタビュアー:松場俊夫)

▷ 現在、どのような活動をなさっていますか?

国内外で、スポーツトレーナーとしてチームや個人のサポートをしています。同時に一年前から香川県にゲストハウス型のリトリート施設を開設し、その運営に携わっています。また、スポーツトレーナーの養成指導をする「JARTA」という団体の統括部長として10年以上活動しています。

バレーボール女子日本代表のU16,17とU18,19を担当しているのですが、そこでは主にボディコントロールの指導を行っています。バレーの競技力をより上げるための身体づくりです。そのためにはどうしても心の部分が重なってきますので、どのような心の準備をするか、会場とどう合わせるか、という指導に時間を多く割いています。

私は理学療法士としてスポーツ障害に向き合うことが多く、「全世界から慢性障害をゼロに」を生涯の志に設定しているのですが、痛みや不調は体が適切な位置にあって自由自在に扱えればなくなると感じています。バレーの練習では、同じことを繰り返してもどこかに痛みがある選手が多いので、まず関節が良い状態になるように、いわゆるリコンディショニングをセルフでやるのが第一フェーズ、そこからはよりしなやかに使えるように、速く動けるように指導し、さらに、一人の競技ではないので「関係性」の確認を身体づくりの中に取り入れています。

▷ 身体づくりの中で「関係性」を扱うことについて詳しく教えていただけますか?

まず、ボールとの関係性ですね。例えば、ボールに力をうまく伝えることができなかったり、ボールを目で追いすぎると反応が遅れたりするので、鳥の目のように、見ているが見ていないというような「見かた」が大切です。

もう一つは、他選手との距離感です。自分の動きに対する相手の動きを認識しているかどうか。ギャップがあると相手にぶつかったり、足を踏んだりということがありますので、距離感を測りながら動き作りをしたり、ビハインドを作って動き作りをしたりします。

視覚だけではなく他の感覚器官も認識できるようにします。バレーなら聴覚を利用した音ですね。例えば、弾かれたボールを追いかける選手には、仲間が近づいて行き「ここにいるよ」と声を出したり手を叩いたりして指示します。

以前、女子のバスケットボールチームのサポートをしていた時、身体に痛みがなく自由自在に扱えても、必ずしも勝利に結びつくわけではないということを経験しました。慢性的な痛みや不調で練習を休む選手が一人もおらず、それは珍しいことだったのですが、大会でチームが目指している目標には到達できなかったのです。負けて悔しそうな選手たちや満足していない監督さんとの打ち上げの中で、自分の中に大きな課題が生まれ、2015年に香川に帰って来てから、勝利に貢献したいと強く思うようになりました。それからは、従来はなかったトレーニングサポートをしたり、トレーナーというよりもストレングスコーチに近い関わりを持つようになったり、また、どうしても日本一になりたいがまだ実現できていない、「最後に力を貸してほしい」というチームとの関わりを持つようになりました。

地元の高松中央高校は空手が非常に強く、私が関わらせていただいた当時、組手の個人戦では2016年に日本一になっていたのですが、団体戦ではまだでした。私が関わり始めた2017年以降は、その年に初めてインターハイで日本一になり、その後全国選抜大会とインターハイで合わせて9回の団体組手日本一になっています。2019年以降は私も大きな大会に帯同しており、昨春も女子が全国高校選抜大会の団体組手で四連覇したのですが、スポーツトレーナーとして初めて胴上げしてもらったり、歓喜の瞬間を共にすることによって、スポーツトレーナーとしての可能性が広がっていっていると感じています。

一方で、私がサポートしているアンダーカテゴリのバレーチームは世界一を目標にしていますが、それは通過点であると考えています。人間形成も含めてシニアで活躍できること、オリンピックで金メダルを取ることができ、その後の社会でも活躍できるように、と考えると、どうすれば日本は世界でより良い戦いができるのか、そのために日本人の精神性を高めたり、自分自身に深く向き合ったり、そうしたことにまだまだ伸び代があると感じており、多くの時間を割くようになってきました。それはゲストハウスの開設にもつながっています。

▷ 勝つためには身体の使い方だけではなく、心の部分も同時にトレーニングしないといけないということですね。

10年ほど前、潜在意識を扱った施術や指導を行なうようになってから、潜在的にその人が抱えているものやイメージ、わかりやすく言うとトラウマのようなものも含めたものが、力の発揮や柔軟性に関与することに気づきました。私が実践しているワークでは、例えば、恐怖を想起すると体が硬くなり、不安を想起すると力が弱くなりますので、恐怖よりもうまくいくこと、不安よりも楽しみをイメージしながら、まず動き作りをします。とは言え、サーブが回ってきたりするとどうしても不安が出てきます。いかに今に向き合えるかが大切で、私は瞑想の講師の資格も持っているのですが、瞑想やイメージングを含めたメンタル面での取り組みはバレーのチームではもうルーティンのようになっています。

例えば、昨夏はこんな取り組みをしました。「愛」や「感謝」は周波数が高く、力の発揮に有効なものです。オリンピアンが金メダルを獲った時に初めに言うのが「感謝」だったり、「自分のことを信じることができた」という「愛」の一つの表現だったりしますよね。私が関わっている選手は、自分のことをなかなか好きになりきれないことがあるので、バレーは繋がりのスポーツでもありますから「自分の中の自分と繋がっていない状態で人と繋がることはできない」とよく言います。私自身、自分の中の自分を無視しなくなったら人と繋がりやすくなったという経験があります。

自分に向き合ってもらいたい選手には、「私は自分のことを愛しています」と宣言してもらうのですが、もちろん言えない選手もいます。ではなぜ言えないのか。言うのが嫌なのか、自分が嫌いなのか。人見知りだから?成果を出していないから?お母さんに怒られるから?たとえ自分に嫌なところがどれだけあったとしても、それでも「そんな私を愛しています」と、全ての自分を承認するような作業をするのです。泣き出す選手もいますが、そうしたプロセスを経てもう一回、「私は自分のことを愛しています」と言ってもらう。すると後の力の発揮具合や目つきが変わるのです。深層心理や潜在意識の観点では、誰かを毛嫌いしたり攻撃したりする人は自分の中にある内面を写し鏡のようにしているとよく言われます。認識自体が自分の中にあるものを映し出していることを知ってもらい、他者を通して自分を知るということを伝えています。

怪我や不調をみてきた立場だからこそ気づけたのだと思います。身体のサインこそが、身体がヘルプのサインを送っていることですので、それを無視し続けると送り続けます。「無視しない」ことができるようになってくれば、体はサインを送らなくなり不調がなくなるのです。

▷ 自分の不安や恐怖の源に、そんなに簡単に気づけるものなのでしょうか。 

もちろんステップが必要です。大舞台の時にそれらは露呈しますので、逆算し、バレーのチームだったら2年間、高校生なら3年間の中で最後にそれを残さないように徐々に導いて行きます。

何かアクシデントがあると、今まで出てくることのなかった感情が出て来ることがあります。東京2020で、空手組手の植草歩選手のサポートで帯同させていただいたのですが、できる限りのことは準備したものの、植草選手は畳に立った途端に現れた不安の影響もあり、最大限のパフォーマンスを発揮できませんでした。その経験から「全くない」と思っていても出てくることはあるので、「全くない」と思った状態でどこまで研ぎ澄ませていくか、そこにもっと時間をかけなければいけないと思いました。

「全くない」と思ってしまうことは怖いことです。不安や悩みはないと言い切る人がいますが、それは「見たくない」「見ていない」だけで、それがスポーツパフォーマンスに非常に影響します。逃げたいのに逃げたいと口で言えない時、体の怪我を通して逃げられる状況になる、ということが意外と多いです。心身の不一致があると、そのように、体が思うように動かなくて怪我をすることがあるのです。

大怪我した後の選手がほっとしている様子を見ることが結構あります。神戸のクリニックにいた時、前十字靭帯の手術がとても多く、毎日10人ぐらい前十字靭帯再建術後のリハビリ患者さんの対応をしていました。怪我した当日でまだ受け入れられていない状態の患者さんには、「この怪我がすべてマイナスじゃなくて意味があるんだよ」「そうできるようなリハビリの期間にできるといいね」となるべく早めのタイミングで言うのですが、意外にケロッと受け入れることがあるのです。そこでわかったのが、本当の意味での予防というのは身体と心がずれている状態で送り出さないことだということでした。単なる可動域とか筋力とか、身体の使い方というだけでは障害はゼロにならないと思いました。(中編に続く)

(文:河崎美代子)

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/51-2/

後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/51-3/

◎赤山僚輔さんプロフィール

理学療法士

(財)日本体育協会アスレティックトレーナー

(株)JARTA international 統括部長 SSランクトレーナー

WINメディテーション公認プランナー

睡眠健康指導士

(株)JARTA international 統括部長

日本オリンピック委員会強化スタッフ

香川県バスケットボール協会医科学委員

香川県空手道連盟専任コーチ

■主なサポート

バレーボール女子U16/17,U18/19日本代表

(2018年U17アジア選手権優勝|2019年イタリアW杯優勝|2022年U18アジア選手権優勝|2023年U16アジア選手権優勝|2023年U19世界選手権4位など)

香川県国体成年男子バスケットボール

(2017年国体3位など、2023年国体5位など)

高松商業高校サッカー部

(2017/2018/2021年全国高校サッカー選手権出場、2018/2022年インターハイ出場など)

香川県国体空手道選手団

(2018年国体組手団体2位、2019年国体組手団体優勝、2023年国体組手団体3位)

高松中央高校空手道部

(2019年/2021年/2022年/2023年全国選抜女子組手団体優勝、2023年インターハイ女子組手団体優勝、2018年全国高校選抜男子組手団体優勝、2017年/2019年/2023年インターハイ男子組手団体優勝)

パーソナルサポートにてプロサッカー選手、プロバレーボール選手、競輪選手など

【関連サイト】

人力JINRIKI合同会社

さぬきリトリート繋安芯堂

(株)JARTA international