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リレーインタビュー第36回 徳永剛さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。

今回は、日本ラグビーフットボール協会 男女7人制(セブンズ)のナショナルチームディレクター 徳永剛さんにお話を伺いました。

宗像サニックスブルースでスクラムハーフとしてご活躍の後、高校の教員としてラグビー部の指導に当たられました。その後、選手時代にもラグビークリニックでの指導を続けられてきたキャリアが評価され、アカデミーの指導に関わることになったのだそうです。

ご自身の経験から「ラグビーの楽しさ」を選手たちに伝え続けている徳永さんのお話を2回にわたってご紹介します。

(2022年3月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/36-1/

▷ 徳永さんのコーチングスタイルはどのように変わってきましたか?

初めは何をどうしていいかわからないという迷いがありました。哲学のようなものも自分にはなかったので、目の前のことを一生懸命やるだけでした。

でも高校の頃、グラウンドの隣でサッカー部が、1年生は1ヶ月以上プラジル体操ばかりやらされるような、とても厳しいことをやっていて、それは違うと感じていました。まず選手を夢中にさせることが大事だと思いましたので、高校の教員時代からは、基礎から教えるのではなく理想から入るようにしました。

基礎からというと、パスやキャッチなどがありますが、まず大枠から入るというのが私自身のイメージです。言わばゴール設定ですよね。こういう風にやりたいというところから入っていくわけです。選手が興味を持ちそうなこと、例えば、ニュージーランドはこんな風にやっているよ、あの選手はこうやっているよというところから入っていきます。最初はできなくても、そこから選手達が自分で気づいていくと思うのです。できるようになるためにはもう少しキャッチやキックを上達させなければいけない、もっと体を作らなければいけない、そうした気持ちが出てくるのです。

まず楽しさをわかってもらう、大枠から入ってどんどんコアな部分に気づいてもらう、そこからまた大枠に戻っていく時にはスピードが速いと思います。もちろん時間はかかるかもしれませんし、選手たちは最初なかなか勝てなくて、周りから「え?こんなこともやっていないの?」と言われたりもします。それでもやはり選手たちの表情や意欲を見れば、相手チームとうちのチームのどちらがラグビーを楽しんでいるかといえば、間違いなくうちのチームの方が楽しんでいるわけです。

そんな風に続けて行った結果、5年目ぐらいに花開いて、福岡県でベスト16になりました。その後、私は異動してしまいましたが、自分でもそれは誇りに思っています。ベスト16はBシードといってステータスが高いので、周りの反応はすごかったですよ。保護者もびっくりしていましたし、観戦してくれた人たちも楽しんでくれました。でも何より部員たちが一番楽しんでくれていました。自分のやり方は間違っていなかったと思いました。

▷ どのような体験からそう考えるようになったのですか?

©︎JRFU

ラグビーは15人という多人数でやるので、一度もボールを貰わずに試合が終わることもあるのです。それでも、ラグビーワールドカップを観るとわかると思うのですが、スクラム組んでみんなが相手を押して、トライを取ったわけではないのにみんながガッツポーズをします。そうした一瞬一瞬を楽しむのがラグビーの魅力なのではないかと思うのです。駆け引きも楽しんで欲しいですし。

駆け引きといえば、私のチームはラインアウトの時、対戦相手から「不気味」と言われていました。「ラインアウトになるとみんな笑ってて不気味だ」と。ただ楽しんでいただけなのですが。投げるスペシャリストがいて、考えるスペシャリストがいて、キャッチする選手を持ち上げる者がいて、それが全て噛み合った時にうまくいくのですが、そこで私たちは少し違うことをやったりしていました。サインプレーは全部選手たちで決めますが、こんな風にしたらすごく面白いよ、と言って選手にやらせることもありました。ベスト8の試合では負けてしまいましたが、ラインアウトでは勝っていましたね。

選手に楽しんでほしいという気持ちは、教員としての経験が影響していると思います。担任になれば生徒を育成するわけですし、体育の授業でももっと楽しくうまくできないものかといつも考えていました。同時に、私自身も選手の成長を楽しまなければいけないと思いました。

▷ 徳永さんご自身が影響を受けた指導者はどなたですか?

まず、一番最初にラグビーを教えてくれた中学校の時の先生です。その先生はラグビーの楽しさを教えてくれました。毎週日曜日は必ず試合で、保護者も一緒に楽しんでいたと思います。練習も色々な工夫をして下さって、当時まだ浸透していなかった、オーストラリアがやっていたラダートレーニングを、先生がご自分で作ったラダーを使ってやっていました。先生がオーストラリア好きだったこともあったのですが、ちゃんと結果は出ました。その先生の影響で私も教員を目指したいと思うようになりました。福岡の中学校に恩返しがしたいと思っていたのですが、採用試験を受けて内示をもらったら高校でした。

それから、大学の時の監督にも影響を受けました。当時の男子セブンズの日本代表監督をなさっていて、育成世代からトップ選手まで指導できるような方でした。指導法や声の掛け方、コーチングの手法はその方から学んだような気がします。具体的にいうと、選手全員がしっかり納得するような練習の組み立て方やコーチングの方法です。その方もやはり選手を楽しませてくれていて、同じ練習ばかりやるようなことはありませんでした。毎回、今日はどういうことをやるのか、練習の意図を納得させてからやるので、それがちゃんと試合結果に反映していました。

その監督が自分の大学から代表にピックアップしたのが、桑水流裕策(くわずるゆうさく)という選手です。当時はあまり試合に出ていなかったのですが、本当によく走るし、地味な仕事もちゃんとできる。さらに、彼はとても真面目で、他の選手が練習しているゴールキックを高い位置でキャッチするという練習をずっと続けていました。セブンズは高いボールのキャッチが大事なので、そんな彼の姿を監督が見て、これはセブンズに向いている、といきなり代表に送り込んだところ活躍し、セブンズのレジェンドになりました。そうした、監督の「人を見る目」も勉強になりました。

もう一人は15人制のナショナルチームディレクター藤井雄一郎さんで、私が宗像サニックスにいた時に監督を務められていた方です。当時チームには一流選手が一人もおらず、お金もなかったのですが、藤井監督は生え抜きの選手でどれだけやれるかを考え、独自のラグビーを作り上げました。「サニックスは全然違うラグビーをする」とファンの方も楽しんでくれて、ラグビー界から高く評価されました。

優勝を狙えるチームでなくても、選手として非常にやりがいがありました。練習はきつかったですが、独自のラグビーを考えてやるしかないと思って続けました。その「考えてやる」という経験が、ラインアウトの駆け引きや、低体重のスクラムでもどうすればうまくいくかなど、高校教員になった時に生かされたと思います。

▷ 順調に伸びる選手とそうでない選手の違いはどこにあると思いますか?

選手に対してゴール設定を明確にさせているか否かが関係あるように思います。オリンピックに向けては、オリンピアンになりたい一心でチームのことを考えず、そこで伸び悩んだり、離れていったりする選手もいました。その選手に対して私たちが動機付けや目標設定をちゃんとやれていなかったことが影響したのかもしれません。

私が高校のラグビー部を受け持っていた時、最初にやめていった生徒も、よくわからないけれど面白そうだという思いで入ったと思うのです。でも私には早く試合をさせたいという思いが強く、「まずここからできるようになろう」と行った動機付けができていなかったのではないか、こちらのエゴでやっていたのではないかという反省があります。こちらが与えていなかったからやめてしまったのだろう、と。

「ラグビー憲章」の「品位、情熱、結束、規律、尊重」はルールブックの最初に書いてあります。これは他のスポーツではないことですよね。団体競技、それも15人という多人数の競技なので「結束」が重要なのですが、チームのことやチームスポーツの楽しさを教えることができないと、やめたいと思った選手は消えて行ってしまうことになります。

▷ 徳永さんが考える理想の選手像とは?

一生懸命やる選手、私よりラグビーが大好きな選手でしょうか。女子にもいますよ。海外の映像を見せると私よりよく知っていたり。そういうところ、いいですね。「この選手、私以上だな」と感じたいです。私もラグビーが好きなことは彼らに負けたくないですが、そんな選手はリーダー格になります。日常を犠牲にしているのではなく、ただただラグビーが好き。そういう選手は確実に伸びます。

▷ 徳永さんの理想のコーチ像は?

そうですね。エディ・ジョーンズ氏のように新しいことを考えてやらせて勝たせて、というのはすごいと思いますし、現在のジェイミー・ジョセフ監督のコーチングも厳しいけれど情熱があって素晴らしいと思います。

それに対して、私というのはとにかく優しいのです。教員の時には叱り方の本を買ったぐらいで、先輩教員からずっと「甘い」と言われ続けていました。ところが高校を異動した時、異動先の高校では私のやり方を非常に評価していただいたのです。それで少しずつ自信がついていきました。

目指すところと言うとなかなか難しいと思うのですが、やはり一番最初に出会ったラグビーの先生のようになりたいですね。たまには厳しさも見せなければなりませんが、夢中にさせながらうまくさせる。それに尽きるのではないでしょうか。

▷ 指導者の方々にメッセージをお願いします。

種目転向の選手も多く見て来ましたが、今の子ども達は大きな可能性を秘めていると思います。私自身、まだそれを見出せているわけではありませんが、その選手たちをより良い方向に導き出せるように、選手に寄り添ってその良いところを見出し、一緒に強くなり、成長する指導者、喜びや感動を分かち合えるような指導者が増えてくれることを望んでいます。(了)

(文:河崎美代子)

◎徳永剛さんプロフィール

1980年 福岡県出身

日本スポーツ協会公認コーチ(ラグビーフットボールコーチ3) 

日本ラグビーフットボール協会公認 S級コーチ 

World Rugby Coach Level 3 

World Rugby Coach Educator

<選手歴> 

ポジション スクラムハーフ

1996年度-1998年度  大分舞鶴高校

1999年度-2004年度  福岡大学/大学院

2005年度-2009年度  福岡サニックスブルース

(現 宗像サニックスブルース)

<指導者歴>

2012-2017  女子セブンズユースアカデミーコーチ

2014     第2回ユース五輪(南京)男子セブンズユース日本代表 監督 

2016     アジアラグビーU20男子セブンズシリーズ 

U20男子セブンズ日本代表ヘッドコーチ

2018-2019  女子セブンズ日本代表コーチ

2019-2021  男女セブンズTIDディレクター

2021-     セブンズ日本代表 ナショナルチームディレクター

<指導のモットー>

選手をどれだけ夢中にさせられるか

【関連サイト】

日本ラグビーフットボール協会

ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト
 (J-STARプロジェクト)