「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、元女子ビーチバレーボール選手の白鳥歩さんです。
高校3年生の時、バレーボールからビーチバレーボールに転向し数々の大会で活躍、日本体育大学から日本体育大学大学院に進み、修士課程で学びながら日本体育大学のビーチバレーボール部のコーチを務めました。現在はアメリカで指導について学ばれています。
日本のビーチバレーボール、ひいては日本のスポーツがどうあるべきか、明確な目的と方向性をお持ちの白鳥さんのお話を3回にわたってご紹介します。
(2025年1月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/59-1/
チームに対してはどの選手にも必ず平等に接するように気をつけていたので、全員が知っている言葉で全員の共通認識のもとで話をするようにしていました。同時に1対1の指導もしていましたので、その選手しか知らないような言葉を使ったり、他の選手が知らないことを言うことは絶対にしないように注意して、チームがビジョンとして掲げている言葉や約束事にしている言葉を中心に話をするようにしました。
1対1の場合はとにかく傾聴することを心掛けますが、メンタリングの時のように、ただ聞くだけではなくミラーリングを意識し、その選手が普段みんなの前で話せないことも引き出せるように気を付けていました。
選手が大学生でしたので、進路のことや、人生においてその選手が大切だと思っていることと競技をマッチさせるようにしました。例えば、教員になりたい選手がいれば、チームの中での役割を教員寄りにしてみたり、スポーツマネジメントを学びたい選手がいれば、そうした意識で取り組ませるようにしたり。選手が望むキャリアと競技をリンクできるようにしました。その結果、選手たちが生き生きと自ら取り組んでくれたので、これは自分でもいいやり方だと手応えを感じていました。もし競技でうまく行かないことがあっても、競技だけが人生ではないので、選手ではない自分の立場が選手の自分を支えられることができるような環境づくりを心掛けました。
最初に大学院に行こうと思ったのは自身の競技力を上げるためで、コーチになるためではありませんでした。でも年齢も環境も違うコーチたちとコーチング学を学んでいくうちに、すごい世界があるんだと驚きました。それまでの私にはバレーボールしかありませんでしたし、人に貢献したいという気持ちが特にあったわけでもないので、これはとても面白いと思ったのです。
自分が取り組むことが誰かのためになっていきますし、競技しかなかった自分にも違った可能性が広がっていくような気がして、非常に新鮮に感じました。誰かのために何かをすることはとても楽しかったですし、自分でもこんなことができるんだとワクワクしました。私はそれまで、自分が勝ってもあまり嬉しくなかったのですが、コーチングをしている選手が勝った時はとても嬉しかったです。そんな風に勉強を続けていたら今のようになりました。
インドアに比べてビーチバレーボールは選手一人一人が主役になります。試合中は周りがコーチングすることもできませんし、二人だけなのでポイントもミスも目立ちます。それが楽しいと思う選手もいれば、しんどいと思う選手もいると思います。とにかく全てのプレーに必ず自分が関わっていますから、一人にかかる負荷は6人制よりも高いというのが、一番の違いだと考えています。
あまり考えたことはありませんが、今改めて考えると「許すこと」でしょうか。相手のミスを受け入れる、自分のミスを受け入れる、それができる人が強いと思いました。それは結構難しいことです。競技以外においてもそうですが、どんな人にも不得意なことやできないことがありますよね。それでも自分の思い通りに行かないことを受け入れて、ポジティブに受け止めていく力が、競技においても人生においてもとても重要だということを学びました。ビーチバレーボールは決定率が悪い選手が徹底的に狙われるという競技で、このような競技は他にはあまりないですよね。見る側からすればそこが楽しめるところかもしれませんが。
自分が選手をしていた時にその難しさは感じていました。何かあった時、選手は二人で解決した方がいいと思いがちですが、コーチングを勉強して違った立場で見ると、必要な時には第三者が介入すべきだと、今は考えています。二人だけでは解決できないことがたくさんあります。第三者が入ってファシリテートしてあげて、間違っていることもいいことも口に出して話すことが大切なので、私はコミュニケーションづくりの時はあえて介入するようにしました。
ただ介入というのは難しいことです。どこまで入り込んでいいのか、どこで引くのがいいのか、依存させてしまってはいけないですし。関係が良い時はどのような形の介入でも良いのですが、関係性が悪くなっている時の介入は現場だけにして、競技以外ではあまり関わらないようにしました。競技の上で関係が良くない時に三人で話したら、あとはあまり干渉しすぎないようにしていました。とはいえ気になるので、つい声をかけがちなのですが、それは控えるように気を付けて、競技の外では他の選手も一緒に、できる限り普通の会話をするようにしていました。
最も良くないのは選手を依存させてしまうことです。介入は依存のリスクがあります。介入しつつも、選手には自立して欲しいですし、最終的には二人で解決して欲しい。選手二人が納得して、コーチのおかげではなく二人でやったと思ってほしいです。「コーチがいたから良かった」ではなく「私たち頑張ったよね」と言えることが成功だと思うので、私は選手とは良い意味でできる限り距離をとるようにしていました。(後編に続く)
(文:河崎美代子)
後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/59-3/
◎白鳥歩さんプロフィール
元女子ビーチバレーボール選手
東京都出身
日本体育大学卒業、日本体育大学大学院修了
<競技歴>
JOC強化指定選手(2018年~2020年)
全日本女子選手権大会 優勝2回
ワールドツアー最高戦績 5位
仁川アジア競技大会 5位
<指導歴>
【日本体育大学ビーチバレーボール部 監督】
全日本大学選手権大会 優勝2回
【ビーチバレーボールアンダーカテゴリー監督】
U19アジア選手権大会5位、世界選手権大会出場
世界大学選手権大会19位
<その他>
2022年~2024年
スポーツ庁委託事業女性エリートコーチ育成プログラム特別研究員