スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー第59回 白鳥歩さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、元女子ビーチバレーボール選手の白鳥歩さんです。

高校3年生の時、バレーボールからビーチバレーボールに転向し数々の大会で活躍、日本体育大学から日本体育大学大学院に進み、修士課程で学びながら日本体育大学のビーチバレーボール部のコーチを務めました。現在はアメリカで指導について学ばれています。

日本のビーチバレーボール、ひいては日本のスポーツがどうあるべきか、明確な目的と方向性をお持ちの白鳥さんのお話を3回にわたってご紹介します。

(2025年1月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/59-1/

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/59-2/

▷ 白鳥さんがコーチングをする際、大切にしていることは何でしょうか。

誠実でいることです。選手に対しても自分に対しても、常に誠実であろうと心がけています。いろいろなコーチの方と話をさせてもらう機会があるのですが、選手にしっかり向き合うことも大事ですが、コーチは自分のことをないがしろにしがちだと強く感じています。コーチ自身も自分に嘘をつかず自分らしくいることが選手にとっても良いことなので、選手のために全てを捧げるのではなく、選手も自分も大切にすることがいいコーチングにつながると常々考えています。

▷ 自分に誠実かどうかの意識を保つために気を付けていることはありますか?

やはり学びの場が大切だと感じています。私が大学院にいた時には学生チームのコーチもやっていたのですが、修士前期2年間を終える時に「2年間でこの場から離れたら元に戻ってしまうではないか」と不安を感じました。なので頑張って後期までチャレンジしました。学びの場に身を置くことで自分をしっかり保つことができる、まだ必要だと感じていたので、その選択は正解だったと思っています。そうした学びの場や、競技とは空気が違う場所での時間を持つことは大切だと思います。

▷ これまで接した指導者の中で影響を受けた方はいらっしゃいますか?

そうですね。もしかしたら反面教師の方が多いかもしれません。日本でコーチングを学んでいた時は机上の勉強が多く、実際にコーチに付いて学ぶ機会がほとんどありませんでした。でも今、アメリカに来て初めて現場のコーチに付いてビーチバレーボールのコーチングを間近で経験しています。この経験が今後良い影響を与えるといいなと思っています。

▷ 今回の2年間のアメリカ留学で一番得たいものは何でしょうか。

まず一つは、ジュニアからシニアへのパスウェイがどうなっているのかを知ること、もう一つは日本の良さを知ることです。日本国内にずっといると日本の良さがわからなくなると思っています。そんな状態であれこれ議論しても、それが果たして良いことなのかどうか、私は疑問に感じ始めています。実際に海外で生活して文化に触れることで、遠征で海外に行くだけではわからないものが見つけられることを期待しています。

それから、私自身はオリンピックという場所に選手としていったことがないので、あのような大舞台で日本選手が活躍することを競技の目標として達成していきたいです。また、大学院で女性の選手とコーチの育成プログラムを進める中で、女性が競技の現場や強化のトップに立ち続けるのが難しい現状があることを知ったので、この難しい状況をどうすれば突破できるのか自分で試してみたいと思っています。できるかどうかはわかりませんが、実際に行動することで見えてくることがあると思い、覚悟を決めてアメリカに来ました。何かを見つけて帰りたいので、毎日必死に過ごしています。

▷ 今後のビジョンについてお聞かせください。

2年後に日本に帰国したら、日本のビーチバレーボールの強化に関わって、オリンピックに毎回出場できるようにしたいというのが一番の思いです。具体的には、日本に合わせた若年層からシニアへの強化システムを構築したいです。

また、バレーボールに限ったことではないのですが、日本国内だけで競技の強化をすることが難しくなっていると感じているので、海外の国々とどのように関わるか、どのように活用すればいいかといったことにチャレンジしていかなければいけないと思っています。例えば、野球ではアメリカの大学に進学する人も出てきていますし、サッカーやバレーボールは多くの選手が海外で活躍しています。男子バレーボールは海外のチームに所属する選手が増えて、本当に強くなったなと思いました。そんな状況をビーチバレーボールでも作りたいです。

今後シニアの監督になるのかどうか、まだイメージが湧きませんが、まずは今までやってきた強化の仕組を充実させていきたいです。その上で、もし監督のチャンスがあるのならトライしてみたいと思っています。

▷ スポーツを通して世の中にどのようなことを発信していきたいですか?

スポーツは人生を豊かにするものだということを伝えたいです。自分でスポーツしても、スポーツの応援やサポートをしてもどちらでも良いのですが、そのことがその人の人生にとって活力になること、仲間ができる、健康になる、楽しいというポジティブな影響がたくさんあるのだということを発信したいです。

侍ジャパンがWBCで優勝したり、MLBで大谷翔平選手など多くの選手が活躍しているのを見ているとワクワクしますし、日本人でも世界で何かできるのだと思えることはすごいことだと思います。活躍している選手を実際に見るとポジティブな感情が生まれます。そんな力がスポーツにはあるので、「スポーツっていいよね」と言葉で言うだけではなく、私自身も人々に喜びを与えられる選手たちに関わりたいし、身近で感じていたいです。

▷ 全国の指導者の皆さんにメッセージをお願いします。

コーチ仲間として、選手だけではなく自分自身のことをもっと大切にしてほしいと思います。自分の人生をポジティブにして行くことは、関わる選手に必ずやポジティブな影響を与えると思うので、みんなで一緒にハッピーになれたらいいですよね。とはいえ、選手たちに生活を捧げて関わっている指導者の方がまだまだたくさんいらっしゃいます。でも今後その状況が変わっていけば、コーチを志望する人も増えていくのではないかと思います。(了)

(文:河崎美代子)

◎白鳥歩さんプロフィール

元女子ビーチバレーボール選手

東京都出身

日本体育大学卒業、日本体育大学大学院修了

<競技歴>

JOC強化指定選手(2018年~2020年)

全日本女子選手権大会 優勝2回

ワールドツアー最高戦績 5位

仁川アジア競技大会 5位

<指導歴>

【日本体育大学ビーチバレーボール部 監督】

全日本大学選手権大会 優勝2回

【ビーチバレーボールアンダーカテゴリー監督】

U19アジア選手権大会5位、世界選手権大会出場

世界大学選手権大会19位

<その他>

2022年~2024年

スポーツ庁委託事業女性エリートコーチ育成プログラム特別研究員