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リレーインタビュー第37回 宗像富次郎さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、JOCサーフィン・ハイパフォーマンスディレクター宗像富次郎さんにお話を伺いました。

サーフィンは東京2020オリンピックで初めて正式種目として実施されましたが、宗像さんはサーフィン日本代表選手団の監督として選手たちを力強くサポートされました。ジャパンハウスの開設、選手とコーチ、スタッフとの良好な関係が、五十嵐カノア選手の銀メダル、都筑有夢路選手の銅メダル獲得につながったと言えましょう。

「オリンピックの魔物」を取り除き、個人競技の選手たちを一つのチームとして率いた宗像さんのお話を3回にわたってご紹介します。

(2022年4月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/37-1

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/37-2/

▷ オリンピック種目になったことは選手やサーフィン競技にどのような効果を与えたとお考えですか?

選手たちにもう一度オリンピックに出たいかと尋ねると「絶対に出る」と言いますし、「目標は?」と尋ねると全員「金メダル!」と言います。それほどオリンピックは選手にとって大きな目標になるものなのだと思います。先日のジュニア合宿に大原洋人選手と都筑選手を呼び、子どもたちと接する機会を作ったのですが、オリンピアンの口からオリンピックの経験を直接聞くことは非常に勉強になったようです。これまでは、世界のプロツアーWSL(ワールドサーフリーグ)で五十嵐選手や都筑選手が回っているCT(チャンピオンシップツアー)に出ることが目標ですという選手が多かったのですが、最近は「オリンピックでメダリストになるのが目標です」と言うジュニアが増えて来ました。オリンピックは世界的に知られていますが、WSLについて知っている人は少ないので、「WSLのCTで優勝?それ何?」ということになるわけです。そういった意味でもオリンピックの効果は大きかったと思います。

また、オリンピックを経験させていただいたことで、サーフィンはスポーツであるという社会的認知が増えたのも大きな効果です。それだけに、オリンピックに出た選手は注目され、どこに行っても声を掛けられることが多いので、「自分がしっかりしていないといけない」と自然に人間力が高まっているように思います。サーフィン人口についても、数は明らかに増えていますね。先頃のジュニア大会の参加者もこれまでにないほど多かったです。

もう一つ嬉しいのは、大学から私たちに優秀なサーフィン選手がいたらご紹介くださいと言われることです。これまでは大学や高校の推薦制度においてサーフィン選手は少なかったのですが、今年は早稲田大学や日本大学にAOで入った選手がいますし、何よりも大学で勉強しながらサーフィンができる環境ができつつあるのは本当にありがたいことです。私たちも今後サーフィンは従来のスポーツに並ぶ競技になるだろうという期待を持ちながら、積極的に高校や大学とおつきあいをしています。メダルを取ったことで、スポーツの一競技として認められたのだと思います。

ちなみに私たちはサーフィンをより透明性があり、より国民に浸透するような競技にすべく、現在、日本スポーツ協会への準加盟手続きと、公益財団法人化に向けての取り組みも行なっています。

▷ 子どもたちの育成強化について、特に意識されていることはありますか? 

ジュニア世代には小学生の年代から大人に近い年齢の選手までいますので、接する時にそれぞれの特徴を見ながら話をするようにしています。ジュニアの頃から知っている年長の選手とは色々と話ができますが、小学生ぐらいの選手は「怖いおじさんが来た」という感じなので「ちゃんと学校行ってる?」とか、飲食のことなどを話したりします。

例えば、「アイスクリームは一日に一個とかの決まりを守ってお父さんお母さんのいうことをよく聞くんだぞ」とか、海から上がってきた時には「コーヒー牛乳やコーラではなくて、電解質が入っているポカリスエットやアクエリアスをまず少し飲んでコンディションを整えるといいよ」と言ったことです。それから「しっかり捕食を摂る方がいいから、試合の合間にはお菓子ではなくて小さなおにぎりやバナナがいいよ」といったわかりやすい話をします。

保護者にも勉強してもらっています。年少者にはあまりハードな練習はさせない方が良いこと、休憩が必要であること、それから食事の重要性についてジュニア合宿の時につきそってきた保護者に伝えることがあります。

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▷ 指導する際にはどのようなポリシーをお持ちでしょうか。

自分を信じて最後まであきらめないことですね。試合では、後半になると点数が足りておらず負けていることがわかって来たりするのですが、強化本部としては最後まであきらめないというのが目標の一つになっています。会場に入れば選手一人の戦いになりますので、今までやってきたことを信じてベストを尽くして戦うということだと思います。

もちろん自然を相手に戦う競技ですから、波の状態が影響することはあります。でもそれは数にすれば僅かで、トップ選手はアベレージでは勝っています。トップ選手は負けた理由、波を待つポジションが悪かったのか、波の来る数の計算を間違えたのか、波の崩れる方向がどうだったのかといったことをしっかり分析しているのです。私たちも解析して考えますが、次に繋げるためにじっくり考えるのがトップ選手で、そこまで至っていない選手は「波が悪かったから」で終わってしまいます。

▷ 個人競技の選手の場合、内省できる人、見た目もおとなしめで言葉もじっくり話す人といったイメージがあるようですが、サーフィンはいかがですか?

サーフィンの場合、表面上は明るい今どきの若者なのですが、長くつきあっていると、どの選手も静かに考える時間を持っていて、重みを感じることがあります。表面上は「そうじゃねーよ」といった軽い言葉で話しているのですが、競技を見る時の真剣さ、それを分析する時の深掘りの鋭さは、私たちがする以上に研究しているなと感心します。一番そう思うのは、試合が近くなってきて波を見ている時ですね。オーラというか近づきがたい空気があり、こちらからは声をかけられないほど自分の世界に入り込んでいます。

▷ 未経験の方に伝えるとしたら、サーフィンの魅力とは何でしょうか?

まず波の上をすべるということ自体、一般の人にとっては不思議だろうと思います。しかも、まるでボードが足についているような感じですべっていきますしね。東京2020では「台風の影響でこんなに波が大きいのに本当にやるの?こわくないの?」とよく言われました。でもそんな波に挑戦するのがサーフィンであり、その中に空中技や驚くような技を発揮していくというのが魅力なのだろうと思います。

▷ 協会として今後どのようなビジョンを持っていますか?

サーフィン人口は愛好者も含めて結構多く、200万人と言われており、ライフスタイルやファッションの面でのかっこよさが強調されています。ですが一番は、生涯スポーツになることだと思っています。そのためには、中学や高校などの教育現場から、あるいは国体競技になることから裾野を広げていくことが必要だと考えています。さらにトップ選手を強化してメダルを取ることで注目を集めて行く。その両方を同時に進めなければいけないと思っています。

▷ 指導者の皆さんへメッセージをお願いします。

サーフィンはオリンピック競技になったばかりですので、他競技のコーチの方たちともネットワークを作って情報交換を行いながら、皆様からのアドバイスもいただき、選手の強化につなげていきたいと思っております。これからもご協力をお願いできれば嬉しいです。(了)

(文:河崎美代子)

◎宗像富次郎さんプロフィール

【現在】 一般社団法人 日本サーフィン連盟副理事長、強化本部長、JOCサーフィン・ハイパフォーマンスディレクター

1961年  東京都練馬区生まれ

       公立小中学卒業 法政大学付属第一高校 同大学建築学科卒業

1985年  所沢市役所と埼玉県庁勤務 都市計画・再開発事業などを

25年間にわたり担当

1991年~ 日本サーフィン連盟理事就任

2011年  神奈川県議会議員当選(一期)

2017年~  JOCサーフィンナショナルコーチ就任

<サーフィン関連>

1985年~ 全日本選手権大会出場(10回以上の出場)

2010年、2018年、2021年 世界サーフィン選手権大会 代表監督 

2021年  東京2020オリンピック サーフィン日本代表監督

<資格マニア?>

一級建築士、行政書士、宅地建物取引士、建築基準判定士

一級船舶免許、大型自動車免許、大型自動二輪者免許、スキー正指導員、

サーフィン公認指導員、A級ジャッジ 他

【関連サイト】

日本サーフィン連盟