スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー 第12回 上島しのぶさん(後編)

◎上島さんにとって理想のチームとはどんなチームですか?

 

いま目指しているのは、世界的に強く、かつ世界から尊敬されるチームです。要は、プレイだけではなく振る舞いもかっこいいと憧れられるチーム、選手です。スノーボードはアウトロー的な面が好まれるわりに、オリンピックに絡んだ時だけ社会的意識が強いと言うねじれた価値観があります。しかしながら、一般社会からはちょっと違うと思われても、魅力的な個性を持つという良さはあると思います。ですからそれを、一人の選手として、一人のスノーボーダーとして発信できるチームでありたいし、他の国の選手から「日本チームいいよね」「あんなことやっててすごいよね」と言われるような良い影響力を、日本にとどまらず、世界すべてに広めていきたいです。

色々と問題があった時期は、我々コーチが、「社会的にこういうチームにすべきだ」、「求められている日本代表チーム像はこうだ」と決めつけていました。でも最近は、前にも言ったようなメダルが獲れる、社会にポジティブな影響力を提供できるチームを作るためには、それではいけないと思っています。オリンピックの度に選手の流行発言が発生しますが、それは本当の心の声ではありません。ですから、自分自身が真に感じていることを発信できるように、日頃からテーマだけを与えて選手たちに考えさせ、選手たちにいろいろと決めさせるようにしています。彼ら主体でチームを動かしてほしいので、下は13歳、上は19歳の彼らを信頼し、そのための仕掛けをこちらでします。13歳と言っても現に世界のトップ選手ですからね。リスペクトしますよ。

ただ、預けすぎるとしっぺ返しを食らうことがあるかもしれないので、統制とリスク管理はしていきます。親御さんや所属クラブ、サポートメーカーさんらにチームの方針を知ってもらうようにし、選手たちと意志を共有しながら、あまり急がないようにやっています。急ぐとこっちの作りたいものになってしまいますから。多少の失敗をする機会、権利も与えて自分で気づくようにする。自分で答えが出せるようにする。まさにコーチングです。

選手との関係はまだ始まったばかりですが、選手との強い信頼関係を構築することができれば、少しアウトローな場に行きかけても、「チームが困ることをしてはだめだからここは我慢しよう」、そんな心情にもなるんじゃないでしょうか。

 

◎上島さんにとって理想の選手とはどんな選手ですか?

 

選手には、ただの競技者ではなく社会のトップの人間として、広く良い影響を与えられる存在になってほしいですね。トップの選手は、多くの人に関わるし見られるし支援も得られる。その上で、自分の好きなことを好きにやらせてもらっているわけです。ですから、その選手にしかできないこと、いわゆるスノーボード競技での活躍ですが、それを通じて、ポジティブな影響をまわりに与え、自分以外の人をどれだけ幸せにできるかが重要です。選手もチームも日本代表という高い場所で、せっかく広く人の目に触れられる立場にいるのですから、競技を引退した後も人をひきつける魅力のある人間でいてほしいと願っています。

 

 

◎指導者として喜びを感じるのはどんな時ですか?

 

技術指導をした時に選手が変化していくことですね。選手自身がやりたいと思っていた動きができたりすると嬉しいですし、コーチはそのために存在していると思っています。技術指導の経験なしでマネジメントコーチを務めるのは難しいと私は思います。コーチ=技術を教えること、という頭があるからかもしれませんが。

技術指導はどうしてもティーチングの要素が多くなりますよね。でも、こちらが先に選手の滑りを描写するのではなくて、滑った後に自分でどういう感覚だったか、どんな変化があったかを先に選手に言ってもらいます。そうしないと選手が考えなくなりますから。

また、新しい種目は私には教えられないので、テクニカルコーチにまかせていますが、効率良く強化するために、スポーツ科学のコンテンツを持って来たり、「こういうふうに計画してみたら」という、プログラムの組み立て、構造化のアドバイスはしています。それがうまく回るとマネジメント役としては嬉しいです。

ティーチングを使うか、コーチングを使うかは、教える対象によって変えています。自分で考えないと身につかないので、その環境と時間を与えてあげたいと思っていますが、便宜的に教えたほうが早いときは教えるようにします。子供に対してはできる限り考えさせることを主軸におきます。ケースバイケースです。今はコーチングスタッフの指導もしていますが、彼らとずっと一緒に居られるわけではないので、メールでのやりとりが主になります。コーチングの手法はメールでは使いづらいので、どうしても形式的なティーチングになってしまいます。ですから、こちらが先に細かく答えを書いてしまうのはよくないと思い、考える時間を取ったりしています。とは言っても細かい説明が必要な案件ではどうしてもメール文章が長くなってしまいますが…。最近では海外とでもインターネット電話が利用できるので、極力会話でコミュニケーションを取れるようにしています。

 

 

◎指導者としての目標は何でしょうか?

 

誰がやっても変わりなく回る強化システムの構築をしたいですね。そうしなければいけないとずっと思ってやっているのですが、なかなか難しいです。日本のスノーボードオリンピック競技界はもう20年も経っていますから、歴史が浅いなんて言っていられないのですが、しっかり企画してマネジメントしていくスキルが今の日本のすべての指導者にあるとは、まだ残念ながら思えません。その理解の深い人材が今後、数多く輩出されて、技術面においても正しいメソッドで指導できるようになってほしいです。今はまだ自己流の方も多くいらっしゃいますが、スノーボードは力学、基本的に乗り物なので、この地球上の引力の中でプレイする以上、やることは決まっています。どうすれば速くなるか、どうすればたくさん回るかは決まっているのです。そのメソッドを地方にも広げて、それぞれの指導の現場で味付けをしてもらいたい。主軸がぶれないように一貫して体系化し、マネジメントできる指導者、技術指導ができる指導者、そのまわりに優秀なスタッフが増えて行けば、この競技は自然に、もっともっと大成していくと思います。今後はシステムはこちらで作って、改良はそちらでお願いします、と言えるようにしていきたいです。自分としては、今は仕事を楽しめているし、一端でも社会に役に立っていればそれでいいのかなと思っています。

 

 

◎すべての指導者に対してのメッセージをお願いします。

 

今は、最後の「昭和の指導」が終焉する時期だと思っています。昔の指導は、ティーチングと「怒る」ことがメインでしたが、これからは年代的にもコーチング、コミュニケーションにシフトしていく時代です。今までにない新たなものに出会った時、選手を変えたいのなら、まず自分が変われということです。自分も学ばなければならないし、選手以上に進化しないとならない。そうしないと彼らに失礼です。役割の責任が重くなる立場に来ると周りからの指摘、指導を受けづらくなるかもしれませんが、そんな雰囲気を自分で出しているのであればそれは不利益だと思いますし、もしかしたら自分もそうなってしまっているかもしれません。自分と同職の今のスノーボードの各種目のヘッドコーチとは、お互い忌憚なく指摘し合える関係性があると思っています。それはなれ合いの仲良しこよしではなく、個々の能力があるが故お互いを尊重し合える同志であるから成立するものと考えます。また、たまたまかもしれませんが今の選手からも、遠慮のないチームの関係でありたいと、チームビルディングのワークの際に自然に出てきました。これから更にコミュニケーション能力が問われる時代、今の若い選手たちの方がその方法を知る最先端を行っているかもしれませんね。

ですから、みなさん勉強しましょう!そしてたまには、叱られる経験?をした方がいいと思いますよ(笑)。私も日々自分を超え、自分をアップデートできる人でありたいと思います。(完)

(文:河崎美代子)

 

 

【上島しのぶさん プロフィール】

 

1971年12月26日生まれ(46歳)

北海道出身

北海道立旭川東高等学校 1990年卒

SAJスノーボード公認A級コーチ、JOC ナショナルコーチアカデミー修了。

 

第18回オリンピック冬季競技大会(1998/長野)スノーボード大回転出場

2001-2010 スノーボードプライベートチーム主宰

2006-2008 スノーボードクロスナショナルチームコーチ

2008-2010 スノーボードアルペン・クロスナショナルチームチーフコーチ

2010-2018 スノーボードナショナルチームヘッドコーチ

2018-     スノーボードスロープスタイル・ビッグエアナショナルチームヘッドコーチ

 

☆ 公益財団法人全日本スキー連盟

http://www.ski-japan.or.jp/