「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、法政大学第二中・高等学校ラグビー部監督の原礁吾(はらしょうご)さんにお話を伺いました。
日本体育大学在学時に負傷したことをきっかけに学生コーチとなり、日本体育大学大学院修了後、講師として法政二中・高に入り、ラグビー部のコーチに携わるようになりました。今年からは法政二高ラグビー部の監督に就任し、より良いチーム作りに日々奔走しています。ラグビーを愛し、生徒たちとの時間を愛し、常に学び続ける原さんのインタビューを3回にわたってご紹介します。
(2023年10月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/49-1/
中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/49-2/
中学時代の小林先生、高校時代の大池先生でしょうか。小林先生はラグビーがとても上手で、そのプレーから多くを学ばせていただきました。私が法政二中のラグビー部を指導していた時は、小林先生が私たちに接してくれたように「いいお兄さん」のような感じで、ラグビーを楽しむ雰囲気を作ることに努めました。
大池先生は、私が通っていた湘南工科大学附属高校の非常勤講師の先生だったのですが、後に帝京八王子高校、現在では神奈川県立追浜高校でラグビー部の顧問をしていらっしゃいました。生徒にガミガミ言うタイプではなく、トップチームの映像を私や同期が「こういうふうにやってみたい」と言うと「じゃあやってみよう」と、全く否定することなく一緒にやってくれたりしました。それから中学時代、「君が練習を考えて」とキャプテンである私に任せてくれた、顧問の友井川先生も印象に残っています。私は本当に良い先生たちに恵まれたと思います。体罰や暴言は一切なかったです。
内発的動機ですね。本人のやりたいという気持ちが一番大切なので、私はできるだけ自分をコントロールして余計なことを言わないようにしています。つまり過剰なアドバイスをしないようにしているのです。コーチング中も特に気になること以外は言わないように、生徒たちと距離を取って、なるべくその場にいないようにしています。特に大会前は課題を修正したいので、それ以外のことは言いません。
ラグビー以外のところでは、年下の先生にも敬語で接するようにしています。できる限り対等な関係を作らないと、マウントを取ろうとしてしまう可能性もあるので、言葉使いに気をつけたり、後輩の人たちの意見もよく聞くようにしています。
私は生徒たちと普通に仲良くしていますね。プライベートなことも話しますし、生徒に突っ込まれてもO Kというような関係です。自分から生徒側に降りているというような意識はありません。一緒にラグビーをやっている楽しい仲間でありたいと思っているので、壁を作ったりすることはありません。部員たちは他の部活の生徒に「ラグビー部は仲がいいね。教員や顧問とあんなに話せることはないよ」とよく言われるようです。特別何かをやっているわけではないんですけどね。
ただ、今私は31歳ですが、40歳になってもこのスタイルで行くかどうかはわかりません。その歳になって生徒と仲良くするためには最小限、一緒に体を動かせるようでないとダメだなと思います。自分が好きでやってきたラグビーの一つの方法として、経験的に良いと思うことを伝えるという意味で、生徒にある程度体の動きを見せられるようでありたいです。それができなくなった時にどうするかはまだわかりません。
現在のようなチーム、プラス、生徒からの「ここをこうしたいんですが」という相談が増えるともっと良いチームになるように思います。今も個人的に言ってくる生徒はいますが、そうした生徒たちが増えるともっと楽しくなると思います。よりクリエイティブなチームと言いますか、私自身色々なアイデアを考えることが好きなので、それを一緒に楽しめる仲間が増えれば楽しいですよね。コーチングもラグビーももっと楽しみたいです。
みなラグビーが好きなのでラグビーを最優先にするのは良いのですが、プライベートの時間ももっと大切にしてほしいという思いがあります。ラグビー以外にも趣味を見つけて、人生を充実したものにしてほしいです。私はラグビーしかやってこなかった人間で、そこにはいい面と悪い面の両面があります。今は週2回のオフを意識的に取っているのですが、生徒はずっと学校に来ているので、ラグビーしかストレス発散の場がないとなったら、そんな不幸なことはありません。それでは人生を充実させることはできません。趣味を持ったり、友人とどこかに行ったり、家族と過ごしたり、そういうことが必要だと思っています。もちろん私自身の人生も充実させたいですね。特に家族との時間は大切です。
このまま続けるのかどうか迷いもあるのですが、チームの勝敗はともかく、日本で一番のコーチになりたいという思いはあります。それは自分で決めることではありませんが、コーチングの先行研究や自分の経験から学んだことを活かしてより良いコーチングができるようになりたいです。いい意味でラグビー界に影響をより良いコーチングができるようになりたいです。いい意味でラグビー界に影響を与えるような選手やコーチを輩出したいという気持ちはありますね。
日本代表チームの試合結果は特に良いわけではありませんが、メディアに出ている選手の言葉からチーム文化がちゃんと醸成されていることがわかります。インタビューではワンチームやチームへの献身的な姿勢、言葉を聞くことができます。そういう意味でチーム力は前回のワールドカップよりも高まっているように感じます。前回大会よりも地力がついてきて、勝ち方もしっかりしたものになっていると思います。
特に、出場しない選手へのインタビューを聞くと、出場していないことに不満を持っていないのです。チームファーストなのだなと思います。メンタルコーチもいますので、きっと前向きに捉えているのでしょう。
うちのチームにも、なかなか出場できないのにその姿勢や態度を尊敬したくなるような生徒がいます。彼は運動能力が高い方ではないですし、怪我していたスタメンが戻ってきてからはずっと下のチームにいます。それでも周りに意見を言いますし、練習の時もへこたれたりしません。元々細かったのですが体重を80キロぐらいまで増やして、何が何でもできるようになってやるという精神を持っています。彼は能力の高い下級生にもとても信頼されているように感じます。
それから、ラグビーに限らず今のスポーツ界にはようやくゲームセンスのようなやり方が広まってきたようで嬉しいです。欧米のエビデンスベースなど良いとされるものが書籍になったりもしているので、それらをしっかり勉強していけばもっと良くなるのではないかと思います。色々な経験に外からの知識を加えることでもっと良くなると思います。
自分がコーチングをしていて一番好きな瞬間は、生徒が頑張っている姿も良いのですが、何かができた時や、そのようなこととは関係なく活動そのものを心から楽しんでいる時です。その瞬間を共有できるのがコーチの楽しいところです。そうした機会を増やしていくには、私たちがコーチの勉強をもっとしなければならないと思っています。しっかり勉強して、少しでもスポーツの経験を通じてより良い体験ができるようにしていきたいです。(了)
(文:河崎美代子)
◎原礁吾さんプロフィール
・日本体育大学4年次に首を負傷し、ヘッドコーチから誘いを受けて学生コーチとなる。
・日本体育大学卒業後、同大学大学院のコーチング学研究室に進学。
同大学学生コーチを続ける傍ら、駒澤大学ラグビー部BKコーチを1年間務める。
・2017年大学院修了後、法政大学第二中・高等学校で保健体育科の講師兼中高ラグビー部コーチになる。
・2019年ごろから法政二高校ラグビー部ヘッドコーチを務める。
・2023年から法政二高ラグビー部監督。