スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー第49回 原礁吾さん(中編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、法政大学第二中・高等学校ラグビー部監督の原礁吾(はらしょうご)さんにお話を伺いました。

日本体育大学在学時に負傷したことをきっかけに学生コーチとなり、日本体育大学大学院修了後、講師として法政二中・高に入り、ラグビー部のコーチに携わるようになりました。今年からは法政二高ラグビー部の監督に就任し、より良いチーム作りに日々奔走しています。ラグビーを愛し、生徒たちとの時間を愛し、常に学び続ける原さんのインタビューを3回にわたってご紹介します。

(2023年10月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/49-1/

▷ 指導を始めたばかりの頃と今ではどのような点が変わったとお考えですか?

生徒たちのラグビーの理解度が全体的に上がって来ていると思います。神奈川県は強豪校が多いのですが、2年連続関東大会でブロック優勝することができましたし、なんとか戦えているように思います。まだ差はありますが戦績は徐々に上がっています。

その理由は多分、私が大学院で興味を持って研究していたゲーム中心の練習「Game Sense(ゲームセンス)」にあると思います。あるスキルを練習で獲得しようとした時に、切り取った状況で練習するのではなく、ゲームのルールを変え、そのスキルが必要になる状況を作り出し、練習するというものです。これは伊藤雅充先生も推奨している理論の一つで、最近では、エコロジカル・アプローチや制約主導アプローチなどと表現されたりしています。日本ではあまり行われていませんが、元ラグビー日本代表のヘッドコーチ、エディ・ジョーンズ氏もゲームセンスを使っていました。練習で生徒たちに指示することもありますが、基本的には発問を用いて、スキルを発揮するために必要な情報を探させ、自分たちでスキルを獲得できるようにしています。このような挑戦を重ねてその中でミスをする経験をしないと、スキルの改善や獲得には繋がりません。

▷ ティーチングとコーチングをどのように使い分けていますか?

生徒の中には自らトップ選手の真似をしてそのスキルをできるようになる者もいますが、そうでない者もいますので、アイデアがさほど必要ではないスキルに関しては、具体的な例を提示したりします。と言っても、細かな指示をするより結果に注意を向けさせるようなやり方です。例えば、タックルで2人目がボールキャリアにヒットするためには、何を予測し、どこにポジショニングすればよいかといったことです。結果に注意を向けさせて、そこまでの過程は自分たちで考えさせます。

大切なのはそのスキルを発揮しなければならない情報を、遭遇した状況の中から自分でキャッチしに行くということです。スキルを効果的に発揮するには、遭遇した状況の中でスキルを発揮するために必要な情報に注意を向けなければなりません。もし、どこに注意を向ければいいかわかっていない場合は、発問で注意を向けさせたり、テクニックが不足していたら一言アドバイスするようにします。

コーチングではやり方に意識を向けさせることが多いのですが、それよりも結果的にどの状態になっていたいか、例えば浮いたボールのキックはバックスピンをかけるといったことに意識を向けさせた方が効果があるようです。運動学習の分野でも、結果に意識を向けさせた方が、その間の体の動作がうまく行くと言われています。

▷ 伊藤雅充先生の「アスリートセンタード」という考え方をどのように現場で生かしていますか?

私は生徒たちにああしろこうしろとあまり言わないようにしていて、実際、大会などでも生徒に喋らせることを優先しています。ハーフタイム、試合前も特に何も言いません。生徒たちはチームトークでよく話しあっていますから、私が言わなくても大丈夫です。ただ選手が話し過ぎて何が大事かわからなくなる時には止めるようにしています。

大会前のゲームプランや戦術戦略については私が分析し、各対戦校の基本的な特徴を生徒に伝えますが、それは生徒自身も把握していますから、対戦する時に自分たちの強みをどうぶつけていくか、前半・後半をどのようなことを意識して戦うかということは生徒たちに任せます。ただ、絶対に譲れないこと、崩されると負けるというようなことは私が伝えるようにしています。

▷ 苦しかったこと、うまくいかなかった経験はありますか?

学校ではバックスとフォワードのコーチ両方を雇えるわけではないので、たまたまそこにいた経験者が教えることになります。私より先にいた専任の先生はバックスで、フォワードコーチがおらず、私はバックスのセンターだったのですが、1年目から5年目までは私がフォワードコーチをやっていました。ですから最初はわからないことだらけでした。1年目2年目は全くわからず、スキルや練習について大学の同期や後輩に電話して教えてもらったりもしていました。

それから、代によってはまとまりに欠けていたこともありました。人数が少なかったこともありますし、ただラグビーをやっているだけという感じが強かったです。思いも強くなく弱かったです。どちらかというと主体性のない学年でしたので、ヒントを与えたりレールを敷くようなことはやっていたのですがなかなかうまくいきませんでした。

今の私であれば、チーム文化を作るところまではいかなくても、せめてチームの結束力を強めることはしていただろうと思います。チームを一つにしないと、お互い協力しようとか頑張ろうという気持ちにはなりませんからね。例えば、なぜラグビーをやっているのか、ラグビーをやって最後どうなっていたいか、少し未来のことや、自分がどうありたいかを問いかけて、そういうことは生徒たちも真面目に考えますから、それを何度も繰り返すようなことはしたと思います。

▷ チーム文化作りはどのようになさっていますか?

チーム文化は生徒の入れ替わりにつれて変わっていくものなのだなと感じています。ですが、文化というのはある程度軸がなければいけないものです。私としてはアスリートセンタードで選手中心の環境を作り、そこで学べるような場を作ることを軸にしています。その上で、生徒には学年ごとの色がありますから、自分たちはどのようなことを大切にしてプレーしたり学校生活をするべきなのかを付け加えていきます。その活動を最初は学年に分かれて行い、次にそれを統合しチームとしてまとめていきます。これを何回も繰り返して行います。統合するにあたっては、全員に投票してもらいます。

今年度は色々ありますが、例えば「オンオフの切り替え」。グラウンドの中に入ったら練習モードに切り替える、水を入れる時、外に出る時は走るといったことです。他には、「授業態度や学校生活をきちんとする」。自分たちはまず法政二高生であり、その次にラグビー部の部員であるからです。それから「人間性を高める」。挨拶をしっかりする、落ちているゴミを拾うといったことです。これらは生徒が出してきたものですが、私はそこに「思いやりの心を持つこと」と「探究心」を付け加えました。(後編に続く)

(文:河崎美代子)

後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/49-3/

◎原礁吾さんプロフィール

・日本体育大学4年次に首を負傷し、ヘッドコーチから誘いを受けて学生コーチとなる。

・日本体育大学卒業後、同大学大学院のコーチング学研究室に進学。

 同大学学生コーチを続ける傍ら、駒澤大学ラグビー部BKコーチを1年間務める。

・2017年大学院修了後、法政大学第二中・高等学校で保健体育科の講師兼中高ラグビー部コーチになる。

・2019年ごろから法政二高校ラグビー部ヘッドコーチを務める。

・2023年から法政二高ラグビー部監督。