「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、白百合女子大学硬式庭球部コーチ関根吉晴さんにお話を伺いました。
関根さんは30年以上の長きにわたり、兵庫県の夙川学院高等学校のテニス部を指導して来られました。夙川学院と言えば園田学園と並ぶテニスの強豪校で、WTAツアーでシングルス4勝を挙げた沢松奈生子選手や、現在もプロとして活躍する岡本聖子選手などを輩出しています。
普段は白百合学園中学・高等学校の教諭として日本史を教える関根さんが常に念頭に置いているのは「人を育てる指導者」でありたいということ。人を指導するとはどういうことか、指導者の学びや引き出しの重要性など、前・中・後編の3回にわたってご紹介します。
(2019年12月 インタビュアー:松場俊夫、河崎美代子)
前編はこちらから↓
リレーインタビュー第18回 関根吉晴さん(前編)
「目標」は「夢」で、「優勝したい」「オリンピックに出たい」という個人的なものですが、「目的」は「志」であり、それは多くの人に影響を与えるものです。もちろん「医者になりたい。そうすれば多くの人を助けられる」と両者が一致する場合もありますが、目標と目的はやはり少し違います。
目標の実現のためにはまず、計画を立て、正しい準備をしなければなりません。目標を立てると準備すべきことが明確になります。そして、その準備をおろそかにすることは自分との約束を破るということであり、目標を達成できないことにつながります。つまり、「勝つ」という目標に向けて正しい練習(準備)をしないと「勝利が遠ざかっていく」という制裁を受けることになるというわけです。
テニスは自分と相手との立場をふまえて、どこにどのような種類のボールを打つべきか瞬時に判断することが求められます。つまり、正しい「選択」をすることが大切になります。
生徒たちには本を読ませたり、ビデオを見せたりします。内容は、歴史上の人物やできごと、今、活躍されている方々のドキュメンタリーなどです。例えば、新学期のオリエンテーションの時、三浦綾子さんが自らの人生と闘病について語ったインタビュー記事を、白百合の中学校2年生に読み聞かせたこともあります。正しい判断のよりどころにするには、人ひとりの経験はあまりにも未熟です。ですから、過去の歴史や多くの方々の考え方を学ぶ必要があるのです。
人生は選択の連続だと言いますが、日常生活でも疲れているけど「勉強する」のか、「せずに寝る」のかといったことも、自分の意志で選択します。そして、その結果には責任を持たなければなりません。そのことをしっかりと自覚することが大切です。ですが、心臓のように自分の意志とは関係なく動いているものもあります。つまり私たちは「生かされている」ということになります。だとすると、何のために生かされているのか、生きる目的を考えざるを得なくなります。
突きつめれば、スポーツは、人生の目的達成や自身の成長にいかすためにやっているのかもしれません。「勝つ」ための準備の過程での経験は、人を成長させてくれます。ですから、私は団体戦で負けた時、指導者として勝たせられなかったことを詫びた後選手のこれまでの過程、試合中や表彰式での態度、会場での言動を讃えます。
「勝つ」ことは目標ですが、目的ではないのですから。また、人を評価するポイントは勝ち負け以外にたくさんあるのですから。
自分で考え、正しい判断ができ、「力を発揮できる選手」に導くことです。力を発揮できるようにするためには、「言葉」と「習慣」が大切です。言葉が意識や考え方の源になります。また、語彙が豊富な人は創造力も豊かです。ですから、普段からポジティブな言葉を発することを意識させています。
指導者になったのは25歳の頃、夙川学院高等学校のテニス部の顧問になりたてのある日の練習で「グランドを走れ」と言ったところ、生徒たちが走らないのですよ。確かに、学校では私は新任で、彼女たちの方が先輩なわけです。仕方ないので「じゃあ俺が走る」と私が走り始めたら、半周ぐらいしたところで、生徒たちもついてきました。
驚きましたよ。走れと言ったら走るものだと思っていましたから。結局、私との信頼関係がなかったのですよね。「傲慢ではいけない」と思ったのがその時でした。そのことがきっかけで、コーチとは何かを考えました。また、寝ても覚めてもテニスのことを考えるようになりました。飢餓状態にありましたから、情報がどんどん入って来ました。当時はインターネットがないので主に書物からの情報です。
学校でエレベーターを降りる時、時間帯によって利用者の多い階のボタンを押す、「忙しい」「大変だ」という言葉を使わないなど、色々あります。「自信を持て」と指導者はよく言いますが、自信って何なのでしょう。同じぐらいの練習量で、同じような技術力・体力を持っている相手と勝負する時、何に自信を持てるかというと、日常しかないと私は思います。例えば、競合校の監督はゴミを拾わなかったが、自分は拾ったとします。この時、「よし!」と思うのです。こんなことは日常に転がっています。ですから生徒たちにも、制服を正しく着用する、授業中に居眠りをしない、挨拶をする、人の悪口を言わない、などといった良いと思われる小さな習慣を自分で決めて身につけさせます。つまり、日常生活でこういうことをやっていると自覚できることが自信です。自信はコートの外にあると思います。
技術や体力は良い習慣を積み重ねることで身につきます。能力も良い習慣によって発揮できます。「習慣は第二の天性である」「人生は習慣の織物である」という格言もあるように、習慣はむしろ能力よりも大切だということでしょう。
ですが、技術的に間違ったことが習慣(くせ)になってしまっている選手の場合は厄介です。本人が2×2は4と思い込んでいることを2×2は5であると指摘し、修正しなければならないからです。また、すっかりネガティブな考え方が習慣(くせ)になってしまっている生徒も同じです。本人も意識し続けなればならないのはもちろんのこと、生徒同士お互いに監視役になってもらいます。例えば、自分で見切ってしまって、ボールを追いかけないとか「無理」「できない」「嫌だ」という言葉を言ったら、お互いに指摘し合うのです。(後編に続く)
(文:河崎美代子)
後編はこちらから↓
リレーインタビュー第18回 関根吉晴さん(後編)
◎関根吉晴さん プロフィール
昭和30年生まれ。
昭和53年~55年 兵庫県私学総連合会 勤務
昭和55年~平成24年 夙川学院高等学校 テニス部顧問
平成10年~21年 兵庫県高体連テニス部 副委員長
平成21年~22年 兵庫県テニス協会 ジュニア委員長
平成23年 兵庫県高体連テニス部 委員長
(日本テニス協会 功労賞受賞)
平成27年~ 白百合女子大学テニス部コーチ
白百合学園中学・高等学校教諭
(公財)日本スポーツ協会公認指導者 テニスコーチ2
◎白百合学園 公式ホームページ