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リレーインタビュー 第18回 関根吉晴さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、白百合女子大学硬式庭球部コーチ関根吉晴さんにお話を伺いました。

関根さんは30年以上の長きにわたり、兵庫県の夙川学院高等学校のテニス部を指導して来られました。夙川学院と言えば園田学園と並ぶテニスの強豪校で、WTAツアーでシングルス4勝を挙げた沢松奈生子選手や、現在もプロとして活躍する岡本聖子選手などを輩出しています。

普段は白百合学園中学・高等学校の教諭として日本史を教える関根さんが常に念頭に置いているのは「人を育てる指導者」でありたいということ。人を指導するとはどういうことか、指導者の学びや引き出しの重要性など、前・中・後編の3回にわたってご紹介します。

 (2019年12月 インタビュアー:松場俊夫、河崎美代子)

— 現在の活動について教えていただけますか。

平成27年から白百合女子大学硬式庭球部のコーチを務めています。とはいえ、指導するのは月に1、2度くらいです。また、白百合学園中学と高等学校のソフトテニス部で顧問もしていますが、こちらも練習は週に3回程度です。

かつての夙川学院は経営母体が変わり、今はもうありません。長く勤めた自分の学校がなくなるなど全く考えてもいませんでした。57歳で職探しをすることになり、社会科の教諭として白百合学園に勤めることになりました。

白百合に来て8年目になります。白百合は勉強がメインですが、大学生も中学、高校の生徒たちも、長く指導してきた夙川学院の選手たちとどこか似ているような気がします。素直で純真、意欲的です。

— どのような指導方針でやってこられましたか。

昭和55年に夙川学院に入ったのですが、高校生を指導するにあたり、百瀬昭次さんという方が書いた「君たちは受験生」という本を参考にしました。受験で人生を学ぶというような本なのですが、「受験」を「テニス」に変えて「テニスで人生を学ぶ」という指導の土台を作りました。

生徒たちは記憶力も抜群で、純粋で、もっとも多感な年頃です。誰と出会うか、どのような経験をするかでその後の人生が決まるといってもいい大切な時期にいます。ですから、生徒はまだ子供ではあるのですが「この子たちはすごい」と思える気持が基本になければなりません。「上から目線」はだめです。クラブ活動の指導が、指導者の自己満足や不満のはけ口になってしまうのは良くないです。

例えば、白百合学園では、毎朝「聖歌」を歌い、「お祈り」をするのですが、生徒たちが歌っている姿、祈っている姿に神々しさすら感じるのです。また、クラブの練習もよくがんばりますし、学習はもちろんのこと学校行事にも積極的に取り組み、どんな小さなことにも喜びを見いだすセンスを持っています。私はこのような生徒達を尊敬します。

私の場合、コーチングのやり方を意識するのが割と早かったような気がします。私が指導を始めた当時は園田学園が強く、夙川学院は選手勧誘の段階から困難な状況にありました。ですが、顧問として5年目に団体優勝できました。その時点で今の指導方針のベースはあったと思います。

私のテニスとの出会いは小学校4、5年の頃に神社の境内で遊びとしてやっていたソフトテニスです。中学、高校でもソフトテニス部で、大学に入ってからテニス(硬式)を始めたのですが、選手としての実績は全くありません。

大学を卒業すると、まず兵庫県私学総連合会の研修課に勤めました。私学の先生のお世話をする仕事を2年間やった後、現場に行けと言われて行ったのが夙川学院でした。当時は公立の高校に負けるほど弱かったので、かなりハードな指導をしていましたよ。部員は20人ぐらいだったでしょうか。ただ、レギュラー以外はボールを打てない、ボール拾いしかできない、というようなことは絶対にさせませんでした。当時からそういう考えでした。

— 指導者になりたての時、何から始めたか覚えていらっしゃいますか。

まわりのテニスクラブや強い学校の指導者の方々から技術を学ぶことは多かったのですが、自分としてはまず「人間を知る」ところから始めようと思いました。テニスは人が道具を使ってするスポーツですからね。「テニスを教える優秀なコーチはたくさんいるが、人間を教えるコーチは少ない」と思ったのです。とにかく啓発的なものを中心に本はたくさん読みました。

このことは、私が選手として活躍しなかったことも関係しているかもしれません。テニスという競技はコーチがベンチに入れませんから、自分で考えて自分で試合を作らなければならないのですが、私は自分の競技経験から教えることがほとんどできません。未熟な自分が偉そうに人様の子供を指導するなんて、といつも思っていました。

経験不足を補うために、ワラにもすがる思いで本を読みました。

また、「自分は生徒達の自慢できる存在なのか?」といつも思っていました。自分は生徒を自慢できても、生徒は自分のことを「この人が私達の先生です」と自慢できるのだろうかと…ですから、身だしなみや歩き方にもこだわりました。

当時の自分は生徒の目にどのように映っていたのでしょうね。そもそもコーチ(coach)という言葉は人や物を目的地へ運ぶという意味ですよね。ですから、大切な人を目的に「導く」のがコーチだと思ってやってきました。

— 関根さんの指導方針を拝見すると「目的=志、目標=夢」とあります。目的と目標についてどのようにお考えですか。

私の指導は本で読んだり人から聞いたり、ほとんど受け売りなのです。でもドラッカーも「知識は、本の中にはない。本の中にあるのは情報のみである。知識とは、それらの情報を仕事や成果に結びつける能力である。」だと言っていますよね。

また、陽明学でも「知行合一」を説いています。ですから、受け売りでもよかったのかなと思います。

まず、これから向かう方向を明確にするために目標を書面で自己申告させました。はじめに生徒たちに目標を書かせ、続いて私が生徒たちにやってほしい課題を書き、つき合わせていきます。生徒たちが書く目標は自分の能力を過小評価し「欠点を克服したい」というものが多く、私の観点とは違います。両者を取捨選択して個々の目標とチームとしての目標を決めていきました。

目標というのは目的を達成するための道標なのですが、生徒たちはそこをあまり理解できていないようでした。例えば「全国優勝」という大きな目標のためにどうするか。可視化が大切なので、私は大体3ヵ月、多少の修正をしながら1ヵ月、そして10日単位の小さな目標を立て、計画表を作りました。練習がその日の気分や場当たり的なものにならないようにするためです。(中編に続く)

文:河崎美代子

中編はこちらから↓
リレーインタビュー第18回 関根吉晴さん(中編)

後編はこちらから↓
リレーインタビュー第18 回 関根吉晴さん(後編)

◎関根吉晴さん プロフィール

昭和30年生まれ。

昭和53年~55年 兵庫県私学総連合会 勤務

昭和55年~平成24年 夙川学院高等学校 テニス部顧問

平成10年~21年 兵庫県高体連テニス部 副委員長

平成21年~22年 兵庫県テニス協会 ジュニア委員長

平成23年     兵庫県高体連テニス部 委員長

         (日本テニス協会 功労賞受賞)

平成27年~    白百合女子大学テニス部コーチ

           白百合学園中学・高等学校教諭

(公財)日本スポーツ協会公認指導者 テニスコーチ2

◎白百合学園 公式ホームページ