スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー 第16回 安西浩哉さん(後編)

――2024年のパリオリンピックに向けてのビジョン、強化についてお聞かせください。

まず、国際試合の数を増やさないと強くはなれません。とは言え、限られた予算の中では、東京の次、パリオリンピックの強化までカバーするのは難しいのが実情です。私としては将来の日本のホッケーの発展のためにパリオリンピックを重要視していますが、東京で結果が悪ければパリどころではありません。

来年の東京オリンピックは男女それぞれ12か国が出場します。選手は本当に色々な意味で人生を賭けて臨んでいます。男子は52年ぶりの出場、女子は「自分たちが出なければ日本のホッケーは終わり」という程の覚悟で4大会連続出場を果たしています。彼女たちの日々の努力も、それほど恵まれた環境でない中でがんばっているのもよくわかります。ですから、選手たちが最高のパフォーマンスができるようにするのが私たちの責任です。結果に関しては、私、強化本部長の責任ですから、とにかく選手には力を出し切ってほしいと思っています。

第18回アジア競技大会優勝(2018年 インドネシア・ジャカルタ)

――チームを作る上で大切にしていること、譲れないことは何ですか?

抽象的な言い方になりますが、責任感です。国でも大学でも、個人ではなく代表であり、それに伴う責任があります。選手に選ばれた以上はいい加減なことはしてはいけないですし、選ばれた誇り、責任を持てる選手でなければ、代表に選ばれる資格はないと思います。大学の指導をしていた時、試合に出る選手には「慶應のホッケー部なのではなく、慶応義塾大学というチームなのだ」「慶應の学生を代表しているのだ」ということをよく言っていました。

そして簡単なことではないのですが、「当たり前のことを当たり前にできる」ことが何よりも大切です。プレーの点で言えば、ミスをせずに正確に一つ一つのプレーができること。ピッチ上以外の生活面でも優勝するにふさわしいチームになること。例えば「部室が汚いチームは勝てない」と学生たちに言ったことがあります。学生は「きれいにすれば優勝できるのか」と思っていたでしょうが、優勝するチームの部室は整理整頓され、きれいです。傍から見れば「たかが」と思うような部分でも、隙がなく徹底しているチーム、決めたことを徹底できるチームが強いのです。挨拶も、掃除も、積み重ねが大事なのです。

監督に就任した時、家庭で怒られる経験をしていない学生が多いなと思いました。一人っ子も多く、大事に育てられていますから、つい厳しく怒るとショックを受けてしまうのです。最初はとまどいました。ですが、今の子はまじめなので、言えばきちんとやります。ホッケーに関する考えや情報もしっかり持っています。見た目よりも芯がしっかりしている学生は意外と多いです。

――安西さんが慶應の指導でよく使われていた言葉「勇往邁進(execution)」について、詳しく教えていただけますか?

自分たちで目標を設定し、そこを目指して進む時には、色々な雑音が聞こえて来ることもありますし、途中で結果が出ないと「間違っていたのではないか。これでいいのだろうか」という迷いが出てくると思います。確かに、色々な意見に耳を傾けるのは良いことですが、目指す目標を決めて、そこに向かって日々努力をしているのですから、ぶれてはいけないのです。

また、ありがちで、絶対にやってはいけないのが「結果が出ないから」と、すべてを否定してしまうことです。結果が出なかったことで修正をするのは良いのですが、全部変えてはいけません。継続することで必ず勝負を賭ける時につながってくるものがあります。

選手たちは「結果を出せ」と日々言われていますから、結果が出ないと、どこか変えなければと思ってしまいます。つい悪いところに目が行ってしまいます。今は結果が出ていなくても、時間をかけ継続して結果に結びつく取り組みがあります。間違いなく良いことをしているのですが、その見極めができないのです。ですから、今は結果が出ていなくても、「間違いなくうまくいっているのだ」というのをヘッドコーチから伝える必要があります。

――強化本部長として、何を軸にされていますか?

具体的な戦術やピッチの上の指導はすべて現場のヘッドコーチに任せ、口出しは一切しません。しかし、責任感がない選手がいたら正したり、外国人のヘッドコーチからのさまざまな要求を、できることとできないことにはっきり分けるのは私の仕事です。

強化本部長としての判断の軸は、やはり限られた予算の中でいかに結果に結びつくようにするかということです。改善のための提案や、強豪チームとの試合など、その時々の課題をヘッドコーチから聞き、それによって何が変わるのかが明確になれば、実現させます。目標とその時のギャップに対し、何をするのが最も優先順位が高いのか、手段に躍らされることなく、常に本質を見ているといった感じでしょうか。

まず日本には、ホッケーという競技を知らない方がたくさんいらっしゃいます。初めてホッケーの試合を観戦した方々のほとんどが「スピード感もあるし面白い」とおっしゃいます。ですから、まずは普及させること、プレーを見てもらうことが必要です。

―今後の日本ホッケーについて、どのようなビジョンを描いていらっしゃいますか?

東京オリンピックはトップレベルのプレーが見られる良い機会ですから、今、協会では、実際に足を運んでもらい、見てもらうことを考えています。多くの方々にホッケーを知ってもらい、ホッケーが好きな人、ホッケーをやる人で一つのファミリーを作ろうという考えがあります。

もう一つは、やはり代表チームが強くならなければ、メディアも注目してくれませんから、しっかり結果を出すことです。そして「自分もやってみたい」というお子さんのファンを増やしたいと思っています。

また、ホッケー専用のグラウンドが少ないので、もっと増やしていく必要があります。今回新たに、東京の大井にホッケー場ができることは非常に大きいのですが、そこをいかに活用するかが重要です。現状、アジアで開催される国際大会は強豪国であるインドなどで実施することが多いのですが、今後はできるかぎり東京で開催するようにし、ホッケーを見てもらう機会を増やし、競技人口の増加につながるような動きを作っていきたいと考えています。

――様々な競技、様々なカテゴリーのスポーツ指導者のみなさんへ、メッセージをお願いします。

やはり、本当にその競技が好きな方がかかわらないと、なかなか物事は動かないのではないかと思います。日本は世界の中で必ずしも指導者の環境が恵まれているとは言えませんし、欧米に比べると、スポーツの文化的な位置づけが高いわけでもありません。ご苦労されている人が多いと思います。

それだけに、そこにかかわる方は多分そのスポーツが好きで取り組んでいるはずなので、そういう方々が継続的に支えていかないと、状況はすぐには変えられないと思います。みなさんが指導をしている対象がどのレベルであっても、その方はその人なりの考えで、「勇往邁進」ではありませんが、堂々と推進していただくことが必要なのではないでしょうか。メジャーでないスポーツの場合は大変だとは思いますが、「好き」が一番のパワーだと私は思います。 (完)

(文:河崎美代子)

〇安西 浩哉(あんざい ひろや)さん プロフィール

1960年8月6日 東京生まれ

【学歴・職歴】   

1980年3月  慶應義塾高等学校 卒業  

1984年3 月 慶應義塾大学 商学部 卒業  

同年  3月 東京ガス株式会社 入社 

2017年6月~(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 出向

【ホッケー競技関係】    

1976年4月  慶應義塾高等学校 ホッケー部入部  

1979年4月  慶應義塾体育会ホッケー部(慶應義塾大学ホッケー部)入部

(指導歴)

1989年~1998年    東京ガスホッケー部監督

(監督就任期間の主な戦績 :全日本男子選手権出場 他)  

2006年~2013年    慶應義塾体育会ホッケー部 大学男子部 監督  

(監督就任期間の主な戦績:関東学生リーグ優勝1回・準優勝4回、全日本男子選手権大会出場 他) 

2014年  日本ホッケー協会 理事就任  

2015年~   同 常務理事就任 

2017年~ 同 強化本部長・東京2020オリンピック準備委員会 委員長

その他   (公財)日本オリンピック委員会 選手強化本部委員  

公益社団法人 日本ホッケー協会