「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。
今回は、石川県金沢市のチアリーディングチーム「きらきらKids」代表 中塚泰子さんにお話を伺いました。
世界でもトップの実力を誇る日本のチアリーディング。子供たちにも大変な人気で、プロスポーツの試合でキッズのチームを目にすることも多くなりました。
中塚さんは大学時代にチアリーディングに出会い、卒業後、社会人チームで活動しながら指導を始め、現在、チアリーディングコーチングを主に活動なさっています。
コーチングを学んで指導がどのように変わったか、チアリーディングを通して子供たちに望むことなど、中塚さんのお話を前・中・後編の3回にわたってご紹介します。
(2020年7月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
リレーインタビュー第23回 中塚泰子さん(前編)
中編はこちらから↓
リレーインタビュー第23回 中塚泰子さん(中編)
チアリーディングの演技自体は完璧なものを目指しますが、それを構成するメンバーがお互いを認め合えるようなチームになれるといいなと思っています。メンバーはそれぞれ個性がありバラバラで、長所もあれば短所もありますが、それをみんなで認め合って、間違いも失敗もみんなで乗り越えようというチームが理想です。
そう考えるようになったきっかけは、コーチングを学んだこともありますが、娘が生まれたことも大きいと思います。娘は他の人と同じことが、他の人と同じ努力ではできないのです。でも、誰にも最初はできないことがあり、それは当たり前のことです。大切なのは、誰かの成長をみんなで認め合えることです。
技術的な面では、全員が上を目指すのはもちろんですが、完璧でなければいけないという考え方は危ないと思います。子供のうちからそのように育てられると、息苦しくなったり、ほんとにやりたいことにチャレンジできなくなったりすることがあるので危険です。もちろん、技術は他の人との比較になるので、上手な子は上手だとほめますが、上手でない子も今日できたことを一つでもいいからほめるようにしたいと思っています。
それから、私一人に対して子供たちが何十人もいるので、なるべく一人一人にポジティブな声かけをするようにしています。「先生は私を見てくれない」と思ってしまうとやる気をなくしてしまいますから。
あれもこれも見ようとすると難しいので、「今日はこの技術のこの部分を見る」というように、見るものをあらかじめ決め、その中でダメな部分といい部分を見るようにしています。細かい部分はiPadなど映像機器のお世話になることも多いです。自分の目で見るのは、子供達の気迫や自信、アピール性が伝わるかどうかをよく見ています。
技術以外では、例えば、休憩が終わると走って戻ってくる子、フォーメーションにつく時に自分は遠くへ移動して、他のメンバーが移動しやすいように場所を開けてあげる子、掃除や片付けを率先してする子など、チームのことを考えているかどうかを見ています。これは学年と関係なく、できる子はできるというのがとても面白いです。
人の話を聞けるか聞けないかにあるのではないかと思います。私も指導をしている中で、意外なのですが運動神経は関係ないなと思うことがあります。トップレベルになればそれなりの技術が必要ですが、指導者に言われたことを忠実にやっている子、細かい部分にも気を付けている子の方が伸びるようです。
結果も出せて、子供たちのメンタルも伸ばしていける指導者ではないでしょうか。発達障害の娘が生まれたことで、「幸せ」についてよく考えるようになったのですが、スポーツにおいても「幸せになる」ことが一番大切だと思っています。スポーツの世界で頂点にいる方々のプレッシャーは私にはわかりませんが、結果を出してもそれが人生にプラスにならず、逆に良い結果に押しつぶされて辛くなってしまう人もいると思います。でも私は、今やっていることが幸せにつながるのが一番だと思うので、子供たちが競技を通して得た経験で、豊かで幸せな未来を生きていってくれることをいつも望んでいます。
スポーツには様々なステージがあって、トップはトップの目指すものがありますが、私たちのように子供たちを楽しく指導する者ができるのはそういうことなのではないでしょうか。子供たちにも幸せになってほしいということは常々言っています。
その上でさらに結果を出していきたいのですが、子供の頃から結果ばかり求めるのは難しいです。中学生や高校生ならば、自分で考えた上で自分で選んだと自信を持って言える子には、好きなだけ上を目指しなさいと言えます。でも、子供たちはまだ、誰かに言われて何かを目指す段階なので「やらされた」と思ってしまったら、それはもったいないことです。ですから、子供たちも自分で決めて自分で選ぶことができる人になってほしいです。
子供たちは合言葉を自分たちで決めたりもしていますが、元々「きらきらKids」は子供たちがダンスを考えて年末に発表するという、前任の方からの伝統があるのです。曲選びから振り付けまで全部子供たちに任せます。私も引き継いだ時、驚きました。私たち大人からは出てこないような発想もあってとても面白いのです。自分たちで決めたダンスなので、もっとかっこよく踊りたいという気持もあるのでしょう。
同じことを別の教室でも試しています。最初はみんな戸惑いますが、だんだんできるようになってきています。自分で決めて自分で工夫して、というのが楽しいのかもしれません。
大会に出場するチームが昨年「子ども大阪チアリーディング大会」のエキシビジョン部門で敢闘賞をもらいましたので、今年は金銀銅の色のついた賞を目指しています。でも今は新型コロナの影響で大会自体がどうなるかわかりません。チーム史上一番難しい技がどんどんできていたので、期待しているのですが…。でも11月に北信越大会がありますので、そこで賞を取れればと現在は思っています。
お客様と一体になる空気を作れること、笑顔で演技する唯一の競技であること、それからスタンツという、人を持ち上げる技が決まったときの快感でしょうか。同じぐらいの体格の子を持ち上げるわけですから、痣ができたり血が流れたりすることもあります。でもそんな苦労をしながらも技がビシッと決まれば、みんな嬉しくて涙を流します。
スタンツはベース(持ち上げる方)よりもトップ(持ち上げられる方)が人気があるように思いますが、意外なことに小学生はベースがいいと言います。「審査員はベースがどれだけ笑顔でできているかをよく見ているよ」と言うと俄然がんばります。
「たとえ私に怒られた時でも笑顔でいなさい」と言います。とはいえ、感情を出すのは悪いことではないので、悔しい時は悔しがってもいい、それから辛い時はなぜ辛いのか言葉に出して言えれば、自分も相手も前に進めると言います。「なぜ涙が出るのか、言葉に表すといいよ」と。
以前こんなことがありました。練習中に泣いている子がいたのですが、なぜ泣いているのかわからない。「言いづらいかもしれないけど、涙が出る理由を話してごらん」と言うと、「みんなに下手だと思われているかもしれないと思ってすごく悲しかった」と言うのです。その子が言葉に出せたことを私が「すごいよ」とほめることで、まわりの子もその子に声掛けすることができました。
これもコーチングで学んだことです。私自身コーチングを受けているのですが、プラスでもマイナスでも、自分の気持を言葉に出すことは、自分の頭を整理することに役立つと思います。
私は、たくさんの学びとたくさんの感動を得ることができる「コーチ」という幸せな職業につけていることに、日々感謝しながら指導を続けています。その中で、一人で悩んだり迷ったりすることもあり、コーチは孤独な職業であるとも思います。そんな時には、全国で活躍しているコーチの方々の存在が刺激になっていますし、支えにもなっています。皆様に感謝しています。ありがとうございます。
コーチはとても素敵な職業だと思います。子供たちの未来と日本の未来のために私もがんばっていきますので、これからもよろしくお願いします。 (了)
(文:河崎美代子)
◎中塚 泰子さんプロフィール
チアリーディングチームきらきらKids 代表
北信越チアリーディング連盟 理事
日本チアリーディング協会認定Class2 指導員
<経歴>
1981年 金沢市生まれ
2003年 筑波大学第二学群生物資源学類卒
大学在学時にチアリーディングを始め、主に体育会運動部の応援活動を行う。
在学中に指導員資格を取得
就職を機に金沢市へ帰省し、社会人チアリーディングチームを創設
仕事の傍ら北信越地区の講習会指導スタッフや高校チアリーディング部の
外部コーチ等を務め、現在はチアリーディングコーチングを主軸に活動している。
<主な指導歴>
2007年〜 石川県立金沢伏見高等学校チアリーディング部
2010年〜 チアリーディングチームきらきらKids
2011年〜 特定非営利活動法人かなざわ総合スポーツクラブ
チアリーディング教室 他 教室指導
2020年〜 星稜泉野幼稚園 課外教室
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