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リレーインタビュー第62回 菊池日出子さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、パラトライアスロンのコーチ菊池日出子さんです。

 小学生の頃からトライアスロンを始め、大学ではオリンピックを目指しました。引退後はパラトライアスロンの視覚障がいクラスのガイドになり、東京パラリンピックやパリパラリンピックでもガイドや指導者として活動されています。パラの選手に出会って思ったこと、トライアスロンという競技の魅力など、菊池さんのお話を2回にわたってご紹介します。

(2025年6月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/62-1/

▷ チームビルディングで特に意識していることはありますか?

私がサポートしているナショナルチームは1月から新体制になり、フランス在住の日本人の方がヘッドコーチに就任しました。チームビルディングを本格的に開始したところです。情報戦略もありますし、メカニック、トレーナー、指導者の他、各種目の専門家の方の指導を仰ぐこともあります。役割分担で様々な人が関わっているので、それぞれの良さを活かして強化に繋げられるよう努めています。

例えば、競泳のコーチが「早く泳ぐにはこういうフォームで泳ぐべきだ」と指導しても、トライアスロンの場合は海や湖、川などを泳ぐため、波への対応や人とぶつかったりすることもあります。そうした様々な要素が関わってくるので、選手の成長に合わせて、お互いのやりたいこと、やるべきことをマッチングさせていく必要があるのです。

▷ 選手同士でチームビルディングを行うことはありますか?

選手だけで行うことはありません。ただ、パラトライアスロンは大人になってから始めている場合が多いので選手の年齢層が高く、一定の社会人経験があるせいか色々と周囲に対して配慮をしてくれていることがあり、本音を言えていないこともあるかと思います。ですので、チームビルディングを実施することで少しでも本音を言い合えるようになればいいと感じています。

▷ どんな選手に育って欲しいとお考えですか?

私自身が辛い思いをしながらもトライアスロンをやって良かったと思えているので、選手たちにも同じように思って欲しいです。トライアスロンを通して人としても成長して欲しいですし、私自身も成長したい。その輪を広げていきたいと思います。

また世界一を目指すことで本当に色々なことが学べると思います。それができるのはほんの一握りの限られた人だけなので、そのチャンスを自分で掴んで欲しいです。選手は自分で限界を作ってしまいがちですが、誰にも可能性はあります。やればできると言う単純なものではありませんが、その意気込みで望んでほしいです。その上で、トライアスロンをやっていて良かった、引退後も関わりたいと言って欲しいです。

▷ 菊池さんにとってトライアスロンの一番の魅力は何ですか?

達成感です。水泳、自転車ロードレース、長距離走と三つの種目があるので、もし一種目が苦手でも他の種目で挽回できるチャンスがたくさんあります。それが見つけられるかどうかに面白さがあります。達成するのが難しいと思うことがありますが、挑戦を続けていくことでうまくいくと特に嬉しいです。

私が選手の時は自分の限界と勝負している感じがありましたが、苦手だと思ったらそこまでなので思わないようにしていました。またトップを目指すようになるとベストタイムを出すのが難しくなるのですが、そういう時にベストが出ると最高に嬉しかったです。競技時間が長い分、自分の色々な面が出てくる競技でもあるのです。

▷ 指導者として今後はどのようなビジョンをお持ちですか?

ナショナルチームとしてはロス、ブリスベンに向けて、これまで以上の成績を出したいです。トライアスロン自体、シドニーオリンピックで初めて正式種目になった新しい競技で毎大会ごとにレベルが上がっています。パラトライアスロンはリオデジャネイロパラリンピックからですが、やはり各種目のタイムが上がっています。オリンピックでは箱根駅伝レベルの選手が走っているほどで、そうでないと勝てない、先の先を見据えないと勝てないという世界になっています。現在、次世代育成もやっていますが、4年は長いようで短く、世界が進むスピードは本当に速いです。

個人的には、ずっとチームと関わってきたので、一人の選手を育ててみたいと思っています。まだ具体的な計画はありませんが、選手に福島に来てもらって合宿をしたりといったことは始めています。マンツーマンというような指導となると、関わり方は変わっていくと思います。距離が近い分、私生活が見えますし、言いたいことが増えてくるのではないでしょうか。

また、ただただ走るとか泳ぐとか地道な練習をする時間が多い競技なので、メンタル面の土台がしっかりしていないと厳しいです。例えば、競技用具の扱いが雑な選手はレースでトラブルが起きることが多いです。普段の物に対する扱い方がタイムにも結果にも如実に影響してくると感じています。その場しのぎで何とかなっても、長くやっていくと問題が出てきます。自転車は命に関わるものですから丁寧に扱うのは当たり前のことで、他には荷物やバイクのパッキングの仕方や遠征時の部屋を見てもわかります。メダルを取る選手は皆それができているように感じます。

▷ トライアスロンの魅力を伝え、競技人口を増やすためにどのようなことをしていきたいですか?

連合としてSNSの活用など様々な仕掛けをしており、それは有効だと思っていますが、私としては指導者をもっと増やす必要があると思います。トライアスロンの指導者はまだまだ少ないので、各種目の専門家がその種目だけではなく、トライアスロンの指導もできるという方法もあると思っています。

またトライアスロンは一般的にきついスポーツだというイメージがあると思うので、気軽に挑戦できる場所を増やしていきたいです。地方では競技人口が少ないのが現状です。小学生や中学生、若手の有望な人たちがまだまだたくさんいると思うので、そうした人たちを掬い上げていきたいです。

▷ 菊池さんは故郷の福島に戻られましたが、福島にはどのような思いがありますか?

福島愛、強いです。県外に住んでいた時から将来は福島に帰りたいと思っていました。実は福島県は、体力・運動能力、運動習慣等の調査では子供の体力低下があると言われています。以前は東日本大震災や感染症などの影響もあったかと思いますが、私は福島県民として、恩返しの意味でもスポーツの面から何かできることはないかという使命感があります。みんなトライアスロンをやって欲しいですね。

▷ 全国の指導者の皆さんにメッセージをお願いします。

私たちの職業は人間を作る大切な職業だと思っています。選手には成長して欲しいですし、同時に私たちも成長していかなければなりません。私たちが成長すれば、その競技をやってみたい、自分も指導がしたいという人はもっと増えるのではないかと思います。(了)

(文:河崎美代子)

◎菊池日出子さんプロフィール

1986年 福島県出身

順天堂大学 スポーツ健康科学部 卒業

大学入学と同時にトライアスロンでオリンピックを目指す

大学卒業後もプロとして活動

2018年にアスリートとしての活動に区切りをつけ、

パラトライアスロンの視覚障がいクラスのガイドへ。

東京2020パラリンピックはガイド兼コーチとして参加

現在はパラトライアスロンのコーチとして活動

【戦績】

U23アジアトライアスロン選手権 優勝

U23世界トライアスロン選手権11位

世界選手権(エリートの部)日本代表

日本スプリント選手権優勝

【ガイド・コーチ歴】

2019 年~現在 

公益社団法人日本トライアスロン連合 パラトライアスロンコーチ

2021年8月

東京2020パラリンピックトライアスロン競技 PTVI(視覚障がいクラス)ガイド