スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー第27回 臼井智洋さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチとしてご活躍中の臼井智洋さんにお話を伺いました。

臼井さんは早稲田大学でスポーツ科学を学び、在学中は学生トレーナーとして、卒業後はS&Cコーチとしてサンウルブズや早稲田大学ラグビー部など数々のチームのサポートをしてこられました。現在は小中学生、高校生の指導にも力を注いでいらっしゃいます。

選手それぞれとコミュニケーションを取りながら、常に学び続ける臼井さんのお話を前・中・後編の3回にわたってご紹介します。

(2021年3月 インタビュアー:松場俊夫)

▷ 現在はどのような活動をなさっていますか?

平日はブリングアップラグビーアカデミーで、ウォームアップからトレーニングまで小中学生のサポートを、週末は、高校生のラグビーチームのスポット指導を行っています。現在、複数の高校を回らせていただいており、奈良の御所実業高校ラグビー部は月一回程度サポートしています。

それから、静岡県のラグビー協会が昨年から始めた新しい取り組みなのですが、県協会のS&Cコーチとして県内高校のサポートをしています。高校10校を年に3,4回ずつ回り、協会全体で県のS&Cのベースを作っていこうという取り組みです。今年は新型コロナウィルスのせいでまだ伺えていないのが残念です。

 ラグビー以外には、鈴木貴人さん(※リレーインタビュー第26回をご参照下さい)との繋がりで、東洋大学のアイスホッケー部をサポートする予定がありますし、以前は江戸川大学の男子バスケットボール部も担当していました。

その他、中高生向けのオンライントレーニングもやらせてもらっています。コロナ禍で首都圏の生徒たちの部活動が減ってしまったためのサポートです。

▷ 臼井さんがコーチになられたきっかけは何ですか?

昔からスポーツに関わりたいという気持ちがぼんやりとあったのですが、大学の学部を選ぶ時、トレーナーになりたいと思いスポーツ科学部に入りました。早稲田大学の体育各部では学生トレーナーを募集しているのですが、私はタイミングよくラグビー部に入れていただくことができました。そこで色々勉強していくうちに、S&Cコーチとしてやっていきたいと思い始め、卒業してから本格的に目指しました。

▷ その間、一番大変だったことは何ですか?

学生トレーナーの頃から休みなく活動してきましたが、自分としてはそれが楽しかったので、辛いということはありませんでした。これはS&Cコーチの醍醐味だと思うのですが、知れば知るほど、知らなければならないことが増えていくからです。尊敬すべきコーチの方々にもお会いしますし、自分の力量不足に気づくことが多いので、やめられませんし、やらなければならないことがどんどん増えていきます。私の場合、ありがたいことに周りの先輩やコーチ、監督の方々が温かく私の活動をサポートして下さるので日々楽しませてもらっています。

▷ S&Cコーチの奥深さとはどのようなところだと感じていますか?

まず、身体のことに関して言えば、教科書で学んだこと以上に人は本来、さまざまな機能を持っています。そうしたことについて深く学んでいる方や追及している方と話していると、教科書で学ぶことなど微々たるものだと思いました。

それから、これは日々経験していることですが、コーチのように対人で行う仕事には答えがありません。目の前にいる選手に何が合うのかそれぞれ違いますし、自分がどのようなコミュニケーションをとるべきか、相手によって変わってきます。それを探しにいくのもS&Cコーチの醍醐味なのではないでしょうか。

サポートしているチームが優勝すればもちろん嬉しいですが、4年間一緒にやってきた選手が「S&Cに取り組んで良かった」というポジティブな思いで卒業してくれることが喜びです。彼らが身体作りに興味を持ってくれて、満足して卒業していく姿を見るのは嬉しいですね。

▷ 臼井さんにとって「身体を作る」ことは、スポーツにおいてどのような意味を持つとお考えですか?

「身体を作る」ことは、どんなスポーツ、どんな競技レベルでも必要な要素だと私は思っています。一つは怪我をせずに楽しむため、もう一つはトップのパフォーマンスを出し続けられる状況を作るために、S&Cのアプローチは必要なのではないかと思います。特にラグビーはS&Cトレーニングがパフォーマンスに直結します。パワーやスピードというのはあればあるほど良いもので、どんな競技にも求められますから、そこを高めることがあらゆる競技に必要なのではないでしょうか。

▷ 日本人と欧米人のフィジカルには大きな違いがあります。その違いをどのように補強すれば良いのか、持論はありますか?

大学レベルをサポートした後にサンウルブスに参加して外国人選手を見た時に、やはり彼らはナチュラルに強いと思いました。身体のサイズにしても、日本人とはかけ離れた骨格を持っています。あの横幅のサイズは日本人では作れないと思います。それはある意味、どうしようもない部分です。しかしそこをどのように補うか、そのためのアプローチはあると思います。日本人でも可能なのは、より筋肉量を多くすること、そこに瞬発的なパワーをつけること。それから今のラグビー日本代表が強みにしているように「動き続けられる」こと。運動量でカバーするというのは十分に補強可能な点だと思います。そこをアプローチするのも私たちの役割です。

一方、大学レベルでは、数年前帝京大学が9連覇しましたが、帝京大学はいち早くトレーニングを取り入れた結果、明らかにサイズが大きくなり、当時早稲田大学にフィジカルで大きな差をつけていました。早稲田はやりたいラグビーもできないレベルだったのですが、時間をかけて取り組むことでようやく追いついてきました。そのプロセスを10年間見てきましたので、どうにかできるものだと思います。

▷ 臼井さんは小中学生からトップまで幅広くサポートされています。それぞれに難しさと面白さがあると思いますがいかがでしょうか。

最初に大学レベル、そこからプロへ、そして今高校生以下の年代を見ているわけですが、正直、年齢が下がれば下がるほど難しいです。パフォーマンスを上げると言う点では、プロの場合、100を101、102に持っていくという難しさがありますが、高校生以下、特に小学生は10を50、100にまで積み上げていくという部分があります。大学生は理論立てて考えられますので、良いと思ったらすぐにやってくれますが、小学生にはそれが難しいので、楽しいかどうかというところがキーになっていきます。そうなると、本当に大学生やプロがやっているようなS&Cのトレーニングの細かい部分が伝わるかというとほぼ伝わりません。ここ半年チャレンジしていますが、子供たちがどうすれば楽しめるか、やる気になるか、そして引き出したい動きを引き出せるかで日々苦しんでいます。

例えば、ちょっとしたことでもポイント制にして勝敗をつけるといったゲーム性を持たせることも考えています。簡単なことは1ポイント、難しいことだと5ポイントにして10点取れる楽しみを見つけさせると言う風に。でもなかなか難しいです。

とは言え、難しいからといってやらないわけにはいきません。特に中高生の年代には、もう少しベーシックな身体の使い方を習得し、傷害予防をすれば、もっとプレーを楽しめて、大学レベルにまでチャレンジしようという子が増えるのではないかと思っています。そのためにもS&Cをもっと広めていきたいです。(中編に続く)

(文:河崎美代子)

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/27-2/

後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/27-3/

◎臼井智洋さんプロフィール

NSCA-CSCS(NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)

2014年 早稲田大学スポーツ科学部卒業

2014〜2015年 ワセダクラブラグビーアカデミー

2014〜2016年 江戸川大学男子バスケットボール部(関東2部)

2014〜2020年 早稲田大学ラグビー蹴球部 S&Cコーチ

2020年 ヒトコミュニケーションズ サンウルブズ アシスタントS&Cコーチ

2020年7月〜 Bring Up Rugby Academy コーチ

       御所実業高校など複数の高校でS&Cコーチ

【関連サイト】

Vital Strength

Bring Up Rugby Academy