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リレーインタビュー第27回 臼井智洋さん(中編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチとしてご活躍中の臼井智洋さんにお話を伺いました。

臼井さんは早稲田大学でスポーツ科学を学び、在学中は学生トレーナーとして、卒業後はS&Cコーチとしてサンウルブズや早稲田大学ラグビー部など数々のチームのサポートをしてこられました。現在は小中学生、高校生の指導にも力を注いでいらっしゃいます。

選手それぞれとコミュニケーションを取りながら、常に学び続ける臼井さんのお話を前・中・後編の3回にわたってご紹介します。

(2021年3月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/27-1/

▷ サンウルブズのサポートでどのようなことを学びましたか?

サンウルブズはプロという常に緊張感のある世界で、なおかつベテランから大学生までいるようなチームでした。パフォーマンスが高い選手ほど自分はこうするのだという自覚がありました。特に外国人のベテラン選手は、自分の身体をよく知っていて、自分のルーティーンを持っていました。素晴らしいと思いました。それが、私が学ばせていただいたことです。そのような選手が増えていくようなサポートをしていかなければいけないと感じました。

トップレベルで長く現役を続けている選手はまるで「対話」しているかのように自分の身体をよく理解しています。それに、迷った時、わからない時には私たちにもどうすればいいか聞いてきます。自分が全てというのではなく、私たちのように年下のコーチに対しても「何かないだろうか」と尋ねてくるのです。自分を持ちつつ、人の意見に耳を貸すことができる、それも彼らが長く続けられる秘訣なのかもしれません。

さらにサンウルブズはスーパーラグビーに参加していましたので、移動が多く、短い時間内で準備しなければならず、練習時間も十分に確保されない状況で戦うという難しさがありました。その中で練習をより良いものにするにはどうすればいいか、様々な経験から多くを学びました。

▷ 伸びる選手とそうでない選手の違いは何だと思いますか?

コミュニケーションが取れるかどうかだと思います。コーチともそうですし、選手同士で話し合いながら、成長を止めずにより良いものを探している選手、「僕はこうだ」と自分に固執して悩むのではなく、「それならどうしようか」と一歩踏み出せる選手の方が伸びているように思います。

大学生の場合は、やるべきことをしっかりやれる選手の方が上のチームに上がってきているようです。やる気がある時はやるが、そうでない時はテキトーにやる、という気分屋の選手は伸びづらいですし、思わぬところで怪我をすることもあります。ですから私たちは、彼らが自己管理できるようなサポートを目指していました。

例えば、高校生や大学一年生なら「自分でやるべきことはこれだよ」と提示をした上で、それが自分でできるようになった選手には流れだけ伝え、何をするかは選手に任せるようにしています。「これをやりなさい」と1から10まで全てを与えるのではなく、自分で選択してカスタマイズできるような余地を残し、やれているかどうかを選手とコーチで話し合います。そんな風にして、選手の考える幅、選ぶ幅を作るようにしていました。

ラグビーは試合に出る選手だけでも23人、大学のラグビー部の場合は100人以上も部員がいます。その100人が皆、同じトレーニングをしても強くなれるわけがありません。どうすれば強くなるのかという考え方やフレームはコーチの方で作りますが、その細部や、自分がどこで勝負するかのポイントは選手自身がアレンジできるような余裕を持たせることが大事なのではないでしょうか。同じポジションであっても、色の出し方はそれぞれ違うと思います。

S&Cコーチは、ラグビーのパフォーマンスよりも数値化しやすい点があるので、体組成やストレングスの測定、持久力のテストの結果を数字で確認させ、今自分はどのような状態なのか見えるようにするサポートが大事だと思います。同時に、現在地もゴールも見える方がわかりやすいので、チームとして勝つためにはここまでいかなければいけないという基準をチーム側から明確にするようにしています。

▷ 早稲田大学ラグビー部のようにたくさんの選手がいる場合は、どのような工夫をしていますか?

なるべく全員と話すようにしましたが、100人以上の選手全員と話すのは私一人では難しいので、コーチ陣全員でAチーム以外の選手たちとも会話できるようにしていました。

私の場合は、大学生と比較的歳が近いということもあって、寮で食事している時や合宿で選手が集まっている時など、練習以外の会話を大事にしていました。そういう場でも選手の様子を確認することができるからです。

選手にとって「話しやすい」ところが私の長所なのでしょう。コーチと選手という上下に見えてしまう関係をなるべく取っ払っていきたいと私も思っています。もちろんグランドでは「有無を言わせずやらせる」こともありますが、「怖い」と思われるだけでは本当の信頼関係は生まれないのではないかと思うのです。高校生の場合は、スポットで私が来ると「わ、またしんどいことやらされる」と思うようですが、練習が終わればくだらない話も一緒にすることで、バランスは取れているように思います。

▷ ここ数年、若い選手たちが「納得しないと動かない」世代になっていると思うのですが、そう感じることはありますか?

それは強く感じます。学生トレーナーをしていた頃は選手たちに「とにかくやろうぜ」という空気がありましたが、私がコーチになってからはロジカルになってきたように感じます。「これはこのように効果があり必要だ」という説明をした方が真剣に取り組む選手が増えたような気がします。特に早稲田の学生はそう感じます。

また、最近の選手はインターネットなどで様々な知識を得ています。だからと言ってやりづらいのではなく、こちらが選手から学ばせてもらうこともあります。サンウルブズのようなチームですと、ベテランの選手から学ぶことが多いです。

早稲田の場合、U20から帰ってきた選手の「代表でやってうまくいった」ことや、トップリーグで活躍し始めたOBが持ち帰ってくれたことをチームで取り入れると、選手にとって新鮮ですし、腹落ちしやすいようです。そうしたことを吸収し、チーム全体で取り入れるのか、個人で取り組むのかを選ぶのは私たちS&Cコーチの役割です。

▷ 上下の関係より対等な関係での指導の方が今の時代にあっているということでしょうか?

まさにそうだと思います。ましてや私の場合、ずっとラグビー現場にいるものの、自分ではラグビーをしたことがありませんし、強豪の帝京大学のようなところをサポートしたこともないわけです。私が知っている情報や経験だけでは十分ではないと思うのです。ですが、凄い選手の経験を私が知っていて、伝えることができれば、選手にとっていい情報になっていきます。

選手の経験や感じることは大事ですから、トップで活躍した選手がコーチをするのと、私のように初めからコーチをしている者ではスタイルの差が出てくると思います。競技にとことん取り組んでトップまでいった人の経験に勝るものはないと思うので、私自身にそれがない以上、より多くの経験談を自分の経験値として集約していくというのが一つの方法なのではないかと考えています。(後編に続く)

(文:河崎美代子)

後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/27-3/

◎臼井智洋さんプロフィール

NSCA-CSCS(NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)

2014年 早稲田大学スポーツ科学部卒業

2014〜2015年 ワセダクラブラグビーアカデミー

2014〜2016年 江戸川大学男子バスケットボール部(関東2部)

2014〜2020年 早稲田大学ラグビー蹴球部 S&Cコーチ

2020年 ヒトコミュニケーションズ サンウルブズ アシスタントS&Cコーチ

2020年7月〜 Bring Up Rugby Academy コーチ

       御所実業高校など複数の高校でS&Cコーチ

【関連サイト】

Vital Strength

Bring Up Rugby Academy