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リレーインタビュー第27回 臼井智洋さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチとしてご活躍中の臼井智洋さんにお話を伺いました。

臼井さんは早稲田大学でスポーツ科学を学び、在学中は学生トレーナーとして、卒業後はS&Cコーチとしてサンウルブズや早稲田大学ラグビー部など数々のチームのサポートをしてこられました。現在は小中学生、高校生の指導にも力を注いでいらっしゃいます。

選手それぞれとコミュニケーションを取りながら、常に学び続ける臼井さんのお話を前・中・後編の3回にわたってご紹介します。

(2021年3月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/27-1/

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/27-2/

▷ これまで影響を受けた指導者はいらっしゃいますか?

たくさんいらっしゃいます。まず大学時代では、早稲田大学スポーツ科学部で指導して下さった中村千秋先生。元々トレーナーをされていた先生で、人間として育てていただきました。学生トレーナーをしていた時には、早稲田に15シーズン程いらした齋藤徹さんというトレーナーの方から、トレーナーとしてあるべき姿を教わりました。

大学卒業後は、村上貴弘さんに早稲田でS&Cコーチとして育てていただきました。村上さんは2013年から2015年までエディジャパンのS&Cコーチを勤めた後、早稲田に戻られたのですが、私はヘッドの村上さんの元でアシスタントとして何年もやらせてもらいました。

コーチとして非常に影響を受けたのは日体大の伊藤雅充先生です。「アスリートセンタードコーチング」のデベロッパーです。伊藤先生にはスポットで来ていただいたことがあるのですが、そこで選手とどう関わるか、コーチとしてどう伝えるか、それまでの考え方を一変させてくださいました。それから、今ブリングアップラグビーアカデミーで一緒にやらせていただいている小野澤宏時さん。小野澤さんは伊藤先生のゼミにいらした方ですが、大きな影響を受けています。

伊藤先生や村上さんには、私の発言を聞いて下さってフィードバックをもらったり、アドバイスをしていただいたりして、それらを元に試行錯誤を繰り返し、様々な形にチャレンジすることができました。それまではただのインストラクターと言いますか、自分が学んできた、正しいと思われるドリルを伝えるだけのコーチだったのですが、そこから脱却できたのは伊藤先生、村上さん、小野澤さんのおかげだと思います。

そして、今一緒に活動させていただいている太田千尋S&Cコーチや菊谷崇さん、鈴木貴人さんなど、挙げたらキリがないくらい周りの方々に恵まれています。

▷ 指導する上でこれは譲れないと思うことはありますか?

選手が楽しさややりがいを感じているかどうかと言う点です。私たちが一方的にベストなトレーニングをやらせて成功したからと言って、それだけでO Kと言うわけではありません。もちろんやらせる部分はありますが、根底に、一緒にトレーニングに取り組んでいれば強くなれると言う気持ちや、やりがい、充実感を感じながら取り組みをしてもらうことが大事だと思います。ただ、選手の自主性が大事と言っても、小中学生ですと、どう引き出していくかがこれからのチャレンジになると思います。興味を持つような仕掛けが必要かなと思っています。

実際、私一人ではどうにもならないところがあって、ラグビー現場であろうが小中学生であろうが、コーチ陣と話し合うことで初めて私の考えが生かしてもらえるわけです。私の考え方、私の作るメニュー、それだけではどうにもならないのが事実です。ブリングアップのようなジュニアアカデミーでも高校でも、うまくコミュニケーションが取れる場であることが必要です。コーチと選手に「こうしたい」という目標があり、そこに到達する手段として「S&C目線ではこういうのがあります」と私から提案でき、「どうしようか」という議論があり、「それではこれでやってみよう」という方向が定まって初めて強くなれるのです。S&Cコーチ一人の力で成功できると感じたことは一度もありません。早稲田ではコーチ陣や相良南海夫監督がS&C目線ではどうなのかと聞いてくださいましたが、最終的にこれで行こうと決めるのは監督です。そうしたバランスの取り方には楽しさもありますし、自分が「これが正しい」と思うものをどのようにチームに合わせていくかがとても大切だと思っています。

▷ 臼井さんが理想とするのはどのようなチームですか?

もちろんそのカテゴリーで勝つことが必要ですが、ただの仲良し集団ではなく、みんなが本当に信頼しあい、楽しんでいるチームができたら一番良いと思います。

しかし理想のチームを一言で言うのは難しいですね。良い面も課題もありますが、早稲田で最後に関わらせてもらった齋藤直人主将、相良監督のチームは思い入れがありますし、良いチームだったと思っています。

▷ 指導者として、今後の目標やビジョンはありますか?

何年後にこうしたいと言う具体的なものではないのですが、まずは、私が早稲田やサンウルブズで経験させていただいたことを高校生以下の世代に少しでも広めていきたいと思っています。ラグビーに限らず、S&Cのベースが上がるだけで怪我が減りますし、パフォーマンスが上がる選手は増えてくると思います。

直近の問題として、S&Cコーチの不足、トレーナーの不足と言う現実があります。コーチやトレーナーを求めているチームや選手は多いのですが、人材が足りていません。その現実を引き起こしているのが金銭的な問題です。呼びたくても呼べない状況をどうにかできないものかと思っています。コーチやトレーナーが仕事として成り立つものになり、もっと人数が増えていくことを望んでいます。

私の場合は良い環境に恵まれたと思います。学生トレーナーとして指導を受け、アシスタントという立場で勉強しながら仕事としてやっていける環境をいただきました。こうしたケースがもっと増えていけば一番良いのですが、どうすればいいのかわからないのが現状です。ラグビーワールドカップ日本大会での日本代表の活躍には、S&Cコーチも大いに貢献したと思うのですが、その存在が大々的に取り上げられることはありませんでした。S&Cコーチと言うものがもっと広まっていって欲しいと思っています。

▷ 現在、S&Cコーチを目指している若い方々にメッセージをお願いします。

とにかく、どんどんチャレンジをして、様々なコーチの方々とともに学ぶ場を自分で作っていって欲しいと思います。卒業して資格を取ればすぐに働けるわけではないのが辛いところですが、我慢してやり続けるしかないので、ぜひ頑張ってほしいです。オンラインによる活動といったことも含めて、とにかく実行力が必要だと思います。意外と狭い世界ですから、一歩踏み出せばその中で必ずネットワークを広げられると思うので、様々な現場に顔を出すようにして、チャレンジを続けて行ってほしいと思います。(了)

(文:河崎美代子)

◎臼井智洋さんプロフィール

NSCA-CSCS(NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)

2014年 早稲田大学スポーツ科学部卒業

2014〜2015年 ワセダクラブラグビーアカデミー

2014〜2016年 江戸川大学男子バスケットボール部(関東2部)

2014〜2020年 早稲田大学ラグビー蹴球部 S&Cコーチ

2020年 ヒトコミュニケーションズ サンウルブズ アシスタントS&Cコーチ

2020年7月〜 Bring Up Rugby Academy コーチ

        御所実業高校など複数の高校でS&Cコーチ

【関連サイト】

Vital Strength

Bring Up Rugby Academy