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リレーインタビュー第33回 三木容子さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、日本ライフル射撃協会常務理事 三木容子さんにお話を伺いました。

射撃と言うと自衛隊や警察のハードなイメージが強い競技ですが、大学や実業団のチームで日々、多くの選手がその技術と精神力を磨いています。三木さんは明治大学を卒業後、母校の射撃部や日立システムズライフル射撃部でのコーチを経て、2014年にはJOCエリートアカデミー(ライフル射撃種目)の立ち上げに参加、数々の選手を育ててこられました。現在は、HPSC味の素ナショナルトレーニングセンター(イースト)の地下にある射撃場で、子供からトップ選手までの育成を担当されています。

射撃とはどのような競技で、選手の育成はどのように行っていらっしゃるのでしょうか。三木さんの貴重な体験談を中心に、前編・後編2回にわたってご紹介します。

(2021年11月 インタビュアー:松場俊夫)

▷ 現在はどのような活動をなさっているのでしょうか。

現在、日本ライフル射撃協会の常務理事として、協会の二つの委員会に所属しています。一つはジュニア育成委員会で委員長を務めています。ジュニア育成としては、小学生から大学生までの選手、25歳以下のライフル射撃の選手と29歳以下のピストル射撃の選手を対象にした発掘・育成と、JOCエリートアカデミーのライフル射撃を担当しています。射撃競技の場合、スタート年齢が遅く、高校生から20歳ぐらいで始める選手が多いので、8年前からは全日本小中学生の大会を創り、小学生からの発掘育成を進めています。もう一つは日本代表のトップ選手を強化する選手強化委員会で、私は副委員長です。2019年の9月、射撃場がHPSC味の素ナショナルトレーニングセンター(以下トレセン)のイースト棟にオープンしました。そこでは五輪種目のライフル射撃とピストル射撃が練習できるようになっていますので、毎日そこで選手と関わりながらマネージメントを担当しています。フルタイムで対応できるようにということで、アシスタントナショナルコーチとしてJOCと契約し2013年から協会に関わらせていただいている形です。

トレセンには育成強化のために射撃体験ができる機材もあります。日本では銃刀法が厳しく、他人の銃を使って練習できないといった法律があるので、入門編で体験する方には、ジュニア向けに作った弾の出ないビームライフル、ビームピストルを使用して発掘・育成強化に活用しています。現在、ユース世代の国体種目となっています。

▷ 子供達の育成をする際に大切にされていることは何でしょうか。

コーチの役割としては、子供に限らず、本人の目標、本人がどうしたいのかをしっかり聴くように心がけています。ナショナルチームには30〜40代の大人の選手もいますが、そんな選手にも常に寄りそっていきたいと考えています。

今は保護者の方のリードでこの競技に出会う選手もいるのですが、ライフルとピストル、どちらかの種目を自分で選ぶ必要があります。どちらをやってみたいのか、本人が体験してみて選ぶという方法です。もちろん適性もありますので、撃ってもらって「こちらの方が向いてるね」といった声かけをします。

ほとんどの選手が最初は銃身の長いライフルを撃ちたがります。ザーッと列ができるんです。なぜかわからないのですが、体験の時点でピストルはあまり人気がないのです。最初は、立って撃つと揺れてしまって全く当たらないので射台に置いたり、スタンドの上に置いたりして撃ちます。そこで適性をみるわけですが、適性のある選手は最初から姿勢が違います。引き金を引く才能は3、4発撃ってもらえばわかるものなので、そこで「すごいね、ピストル上手だね」と声かけし、「自分はピストルの才能があるのかな」と思ってもらい、ピストルを選んでもらうようにするといった適性に合った誘導もします。

子供たちの場合、射撃以外のスポーツも並行してされていることが多く、「陸上をやっているがライフルもやりたい」といったお子さんもいるので、その場合は両方やってほしいと言います。小中学生時代はやりたいことをやる時期ですからね。こちらの接し方や指導によって射撃の力が伸びていけば、子供は必ず戻って来ます。私たちとしてはプログラムで成長の場を提供していくというところでスポーツ射撃の魅力を感じてもらいたいと思っています。

▷ 成長する選手と成長が止まってしまう選手の違いはどのようなところにあると思いますか?

年齢を問わず、確かに違いはありますね。そうした違いが生じるのは、コーチが提案したプログラムやチャレンジする内容を素直に受け入れてできるかどうか、そこに尽きるのではないかと思います。やってみよう、変えてみよう、チャレンジしてみようという人は次のステップに行けます。ですが子供でも、今のパフォーマンスが良くないのに頑固に自分のやり方にこだわってしまって変えられない人がいて、繰り返しこちらが説明してもそれが変えられない場合、「コーチと合わない」と言って離れていってしまうこともあります。

そういった頑固な選手に対しては、同じことを言い続けるだけでなく、接し方を単純にしないということが大事だと思います。丁寧に説明することもあれば、言葉はシンプルにしてちょっと距離を置くこともあります。それはすべて、選手のリズムに合わせて声かけをしていくというスキルになりますね。コミュニケーションの仕方のバリエーションをたくさん持って、声かけだけでなく、ノートで、紙に書いて、メールで、LINEで、と言った風に伝えていきます。それでも変わらない子は変わらないものですが、諦めずに続けます。若手のコーチにも伝え方を変えてみたらというアドバイスをすることがあります。

▷ 今の子供たちと10年以上前の子供たちを比べて、変わったと思うことはありますか?

1対1で話す分には違いはないと思うのですが、コミュニケーションの環境が変わったというか、今の子たちは「電話してね」と言ってもまず電話はして来ません。直接話をしたり、顔を合わせることを苦手とする子供が多いように思います。もちろん、こちらからかけた電話には出ますが、「○時頃に電話しますね」と事前に相手の都合を聞いておく必要があります。私たちが学生の頃は、何時頃に電話すればいいかなんていちいち聞きませんでしたし、ましてや先輩やコーチや先生のような立場の人がこちらの都合を聞くことなんてありませんでしたよね。でも今はそれをしないといけなくなりました。話してみるとあまり違いは感じないんですけどね。

 世代の変化のようなものは、競技の指導の現場だけでなく職場でも感じています。今の20代の場合、例えば仕事を割り振ってもそれをなぜ自分がやらなければいけないのか、そこまで理解しないと動きません。それには驚きました。それがあなたの仕事なのよ、と言いたいところなんですが。でも、そういう世代ともできる限りコミュニケーションを取るように心がけています。後輩に対しても、自分が学生の頃とは全く違う世代だと思って接しています。

▷ 選手との距離感について、特に意識していることはありますか?

私は元々、距離感のようなものをあまり気にせず踏み込むタイプなので、そこを意識せずにいるのが得意かもしれません。競技以外の、例えば「彼氏いるの?」といったプライベートなことも、コーチとして聞く必要のある体調のことなどと、同じ感じで聞けてしまいます。もし本人が言いたがらないならそれ以上聞きませんし、話してくれるならもう少し突っ込んで聞いてみたり。

ですから、距離感について困ったことはないですね。年配の方や若手のコーチができないやりとりを私が引き受けている部分が多いと思います。例えば、今週末のナショナルチーム選考会に出る80数名のランク上位者の中で、私がLINEで繋がっていない人を探す方が難しいぐらいです。今、大学生や社会人になっている選手は高校生ぐらいの時から接してきているので長い付き合いということもあると思います。小学生の頃から接している選手ですと、その子のお母さんともLINEで繋がっていて色々話せる関係だったりします。

▷ これまで指導されて来て、これは失敗したと思ったことはありますか?

過去何度もありますが、基本的にいつも同じ失敗なんです。とても近くにいて、自分では家族のつもりでずっと見てきている選手に対して、もうわかっているだろうと思い、配慮が足りなくなって伝達ができていなかった、というような。

私は以前、20年ぐらい実業団のライフルチームにいたのですが、当時もそんな失敗がありました。その選手とはマンツーマンでがっちりやっていて、家族以上に長い時間一緒にいるような関係でした。その信頼関係が崩れてしまった原因は、大きなことではなく日々の些細なことの積み重ねでした。ある伝達を、選手は横で聞いていたから知っているだろうと私は思い込んでいたのですが、「自分だけ言ってもらえなかった」と思ってしまった。小さな不満が選手の中に積み重なっていたのに、私は些細なことなので覚えていなかったのです。

こんなこともありました。「他の選手が練習している後ろでは食事をしないのに、自分が練習している時に後ろでバナナを食べていた」こと。海外遠征の時、タイトな日程で、自分の担当している選手が練習している時間に「食べるなら今しかない」という感じで急いでバナナを食べました。そのことに選手はカチンときたわけです。私としては自分の選手だからこのくらいは許してくれるかなという意識があったのだと思います。

五輪前の大事な時期なのに些細なすれ違いから選手との信頼関係が揺らぎ、しばらく選手との距離を取り、謹慎することになりました。辞任覚悟で待機していましたが、五輪本番の時期が迫ると選手本人の希望もあって、大会には帯同し、五輪が終わった後は何事もなかったかのようにほぼ元の関係に戻ることができました。

その失敗から学んだことは、日々の練習の時から、選手との距離は近づいても、その関係に甘えてはいけないということ。それは相手が社会人でも子供でも同じです。(後編に続く)

(文:河崎美代子)

◎三木容子さんプロフィール

明治大学政経学部卒業

1994 年より 2013年3月まで日立システムズライフル射撃部 のコーチを務め、担当した選手はアトランタ五輪、シドニー五輪、アテネ 五輪の3大会に出場した。また、明治大学においては 1992 年 から 2005 年にはコーチを担当、2005 年から 2015 年3月までの 10年間、監督を務め、インカレを 8 回の優勝に導いた。

2013年からJOCエリートアカデミー(ライフル射撃)の立ち上げを担当し、企画提案。その後、JOCエリートアカ デミー(ライフル射撃)選手の育成・強化に当たっている。1993 年に日本体育協会公認コーチ資格取得、1997 年 ISSF コーチライセンス B 級資格取得、2012 年 JOC ナショナルコーチアカデミーを修了している。現在は日本ライフル射撃協会の常務理事として選手強化副委員長、ジュニア育成委員長を務 めている。

日本ライフル射撃協会