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リレーインタビュー第63回 森川琢也さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、空手家・指導者の森川琢也さんです。

 森川さんは小6から「武の道」を志し、2013年にはカラテワールドカップで3位に入賞するなど常に世界を目指してきた空手家ですが、自ら立ち上げた「BUDOU KARATEDOU天水」は「戦わない空手」としてスタート。格闘技でありながら「戦わない」とは?子ども達に言い続ける「5つの約束」とは?森川さんのお話を3回にわたってご紹介します。

(2025年7月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/63-1/

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/63-2/

▷ 森川さんがご自分の道場に「BUDOU KARATEDOU天水」と名付けたきっかけについて教えてください。

一時空手から離れていた頃、高円寺の阿波踊りを見に行ったのですが、その時に「東京天水連」というグループの踊りを目にしました。その踊りを眺めているうちに「また空手がやりたい」という思いが湧き上がって来ました。「踊る阿呆に見る阿呆」という言葉が自分の中にどんどん入って来て、もう空手はやらないと思っていましたが空手を見るのは好きでしたし、見て楽しいと思えるのならまたやってもいいのではないかと思ったのです。最初は阿波踊りをやってみようかとも思ったのですが、自分には空手がありましたからね。そうした経緯で天水連さんが空手に戻るきっかけを与えてくださったので、その名前を拝借して「天水」を名乗るようになったのです。ちなみに「天水」とは徳島阿波の方言で「少しめでたくて調子がよく、一つのことに熱中しやすい人」を形容する言葉だそうです。

▷ 森川さんは子どもたちに「芯」と「軸」を作ることを指導されていますが、格闘技の達人の方々の共通項は何だと思いますか?

立ち姿だと思います。立ち姿を見るだけで戦闘能力がわかりますし、身体接触しなくても強さは伝わります。あとは人間性、人間力でしょうか。強い人というのは優しいです。なぜなら「自分は強いんだ」と相手に表す必要がないからです。

人間力について言えば、強さ、優しさに加え、相手が望んでいる言葉を出せることは大きな能力だと思います。多分、モテる人というのはそうだと思うのですよ。女性には言って欲しい言葉があって、すぐにそれに気づいて実際に口にできる。言ってくれたら嬉しいと相手が思う言葉を言うというのはなかなかできることではありません。それができるようになるには、相手を見て感じる能力や言葉のストックが大切ですし、アウトプットの練習も必要なのではないかと思います。

ですから私も、子どもたちの練習を見ていて「いいな」と思うことがあれば、必ず褒めるようにしています。小さい子でも大きい子でも「自分の能力をどこまで出しているか」にいつも注目しています。これまで20回しかできなかった子が30回できたら「すごいね!限界超えたね!」と声をかけます。私自身はチャレンジしたり頑張ったりすることを当たり前にやれましたが、それは誰にでもできることでなく、実は難しいことなのですよね。

「人生は山あり谷あり。子どもたちは山だけではなく谷も体験しないと鍛えられない」とおっしゃった方がいますが、実に真理をついていると思います。陰と陽、ハイとロー、闇と光。深い闇を持っている人が強い光を放っていることがあります。私が以前習っていた太極拳にも、すべてのものが相対する「陰」と「陽」という二つの面を持ち、それらがお互いに依存したり変化したりしながら存在するという思想があります。

▷ 空手を通して、子どもたちにどのような人間に育って欲しいとお考えですか?

私が指導する上で大切にしているのは自己の確立です。姿勢の「立つ」にもつながりますが、子どもたちに「やりたい」「好きだ」と思うことができた時に、それらを実際に達成できる力をつけてほしいと思っています。医者でも警察官でも何でも構いません。自分が本当になりたいものになってほしいです。そのためには自分で限界を作らずにチャレンジし続けることが何よりも大切になります。努力の方法がわからない、自分にはできないかもしれないと言うネガティブなマインドを排除してやりたいと思ったらやる、それを一つ一つ積み重ねて達成する、子どもたちがそうした人間になれるような手助けをしてあげたいと思っています。

▷ 今後について、どのようなビジョンをお持ちですか?

今の世界、今の時代は常に変化し続けています。私自身も以前は空手の道場を持つことが目標でしたが、今はそこにこだわりはありません。もし再びコロナ禍のようなことがまた起これば、オンラインの指導になるかもしれませんし、だからこそ常に様々なことに目を向けたり感じたりしながら柔軟に動いていきたいと思っています。その上で私が持っている最も高い能力である空手の技術や知識を、できる限り多くの人に伝えられるような環境に身を置いていたいと思います。

▷ 森川さん自身の「芯」とは何ですか?

多分、空手だと思います。空手というものを多くの人に伝えていきたい。そして空手を通して子どもたちを育てていきたい。それが私にとっての「芯」なのだと思います。それ以外の分野にはその道のプロがたくさんいるわけですから、自分ができるのはやはりそこなのでしょう。人間というのは「芯」がないと、あちらへ寄ったりこちらへ寄ったり、すごいと思う人にすぐに寄りかかってしまい、結果として失敗したり苦しんだり悲しんだりすることにもなりかねません。だからこそ「芯」は必要なのです。

▷ 現在の日本のスポーツ界に感じていることはありますか?

私が取り組んでいる空手には武道の精神が息づいていて、そこには「目に見えないものを信じる力、精神性、心、魂がある」と語る人も少なくありません。スポーツに関わる中で、確かに私たち日本人の中にはそうしたものが眠っているように感じます。もし、それらをさらに強いものにできれば、とてつもなく大きな力になるのではないか、それらを当たり前のように持てるようになればかなり変わるのではないか、そうしたことを空手なら伝えられるのではないかと思っています。

おそらく人間の中には色々な思いや念が巡っていて、それらを伝えることは言葉を使わなくてもできるのではないでしょうか。魂が強い人、思いが強い人はなおさらです。具体的に言うのは難しいですが、「芯」や「信念」といったものが「魂」そのものなのかもしれません。日本人はそうしたものを捉える能力が高いと思うのです。その力をさらに磨いていけば、必ず大きなものになっていくはずです。

▷ 全国の指導者の皆さんにメッセージをお願いします。

私が指導者の方々に偉そうに言えることは何もありません。ただ一つ言えるのは、子どもは宝だということです。未来を作る宝です。だからこそ皆さんも子どもたちと真剣に向き合いながら、一緒に育てていきましょう。(了)

(文:河崎美代子)

◎森川琢也さんプロフィール

空手家・指導者

1988年11月28日生まれ。小学6年生から武の道を志し、中学3年生で全国大会を制覇。順天堂大学スポーツ健康科学部に進学しスポーツ科学を学ぶ。

現在は、空手家・指導者として活動しつつ、YouTubeチャンネル「天水さん」で武道や格闘技の魅力を発信。チャンネル登録者は3.5万人を突破。世界大会軽量級3位の実績を持ち、空手道場「BUDOU KARATEDOU天水」での指導に加え、全国各地でセミナーも開催し、心と身体の成長を理念に幅広い世代に指導している。

【関連サイト】
https://www.tensui-karate.com/about