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リレーインタビュー 第13回 安保澄さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、バレーボール全日本女子ジュニア(U-19、U-20、U-23)監督、安保澄(あぼきよし)さんにお話を伺いました。

安保さん率いる女子ジュニアチームは2018年6月、ベトナムで行われたアジアジュニア女子選手権大会(U-19)で見事優勝を果たし、2019年の世界ジュニア選手権大会の出場権を獲得、2020年に向けて大いに期待が高まっています。日本人の中には1964年東京オリンピックにおける「東洋の魔女」の記憶が、半世紀過ぎた今でも色濃く残っているだけに、「あの感動を再び」の声が今後一層の高まりを見せていきそうです。

安保さんは2009年から全日本女子チームのアシスタントコーチとして、ロンドンオリンピックの銅メダル獲得に貢献、その後、久光製薬スプリングスのアシスタントコーチを務め、チームは公式戦5冠に輝きました。故郷広島のスポーツ少年団にいた頃、同郷の「世界一の名セッター」猫田勝敏さんの指導ぶりに感銘し、バレーボールに打ち込み始めた安保さん。筑波大学女子バレーボール部のアシスタントコーチを皮切りに、20年にわたり女子選手の指導を続けています。

安保さんが指導をする上で常に大切にしていること、アンダーエイジカテゴリーの選手たちとの関わり方、かつて全日本女子代表の監督を務めた眞鍋政義氏、現監督の中田久美氏から受けた影響など、前・中・後編の3回にわたってご紹介します。

 (2018年11月 インタビュアー:松場俊夫)

◎指導を始められた時から今に至るまで、指導のスタイルや方法をどのように変えてこられたでしょうか?

指導者としては、大学生の時、大学の女子チームのアシスタントコーチを務めたのが最初です。当時は、自分が競技者として監督や先生やコーチから教わったやり方を経験則だけで指導していました。その一方で中学生の頃から、なぜこのプレーはうまくいかないんだろう、うまくいったんだろうとプレーの出来不出来に理由を付けようとしていたところがありましたので、その思いと経験則の部分が交錯し、これではコーチとして何の働きにもなっていないと思うようになりました。そこで、身体の構造、身体に無理のない自然な動き、力学的な根拠といったものを探すうちに、これは大学院に行って勉強しなくてはいけないという思いが生まれ、筑波(筑波大学大学院体育研究科)で学び始めたわけです。

ただ、筑波に入る前は「大学院にいけば答えがみつかるのではないか」と思っていたのですが、講義を受けたりアシスタントコーチをやらせてもらうにつれて、コーチングの中で解決しなければいけない課題がどんどん増えていきました。そして修了の時に、課題を解決するためには答えを探し続けなければいけないということに気づいたのです。

日本の女子バレーは「鬼の○○監督」と言われるようにスパルタで鍛え上げられるものという印象が強いですが、私のスタイルは違います。根底に、選手のプレー結果が良い結果にならないのは、より良い動作をコーチが伝えられていないからだという考えがありました。私は技術を教えることは選手の動作を改善に導くことだと思って指導してきました。特にアシスタントコーチの頃はバレーのスキルをいかによりよいスキルに導くかに力を注ぎました。技術指導に関してはそのように捉えています。

アンダーエイジカテゴリーの監督を仰せつかった時に、私が監督の仕事として認識していたのは、自分が仕える監督の仕事ぶりを見て、「監督という立場になったらどんな仕事ができなければいけないのか」「何を学ばなければいけないのか」を目に見える範囲で認識していただけであって、実は、監督の仕事が想像を超えるほど広範囲にわたることを認識できていなかったのです。

写真提供:asianvolleyball.net 

◎監督になってどのような変化がありましたか?

まず技術指導の面で言うと、アシスタントコーチの方が監督よりも選手との距離感が近く、私がアシスタントコーチの時には、自分が知っていることや、選手のここができていないと目についた部分に対して積極的にアプローチするようなコミュニケーションをしてきました。

ですが今は、選手が自分で気づけるように仕向けるにはどうすればいいかというスタンスになっていますので、選手との距離感はやや離れて、全体を俯瞰してみる感じです。監督になって、ダイレクトに答えを提示することはありません。まず選手自身が自分の高めなければいけない部分を気づくように仕向けることに注力しています。監督という役職においては、やはり局所に入りすぎてしまうと大局が見えなくなります。そのことが自分の立ち位置を変えました。

指導の変化のきっかけとしてはもう一つ、国内外のあらゆる競技の指導方法を色々なコーチから学んだことも大きいです。どの競技の選手であっても、結局、選手自身が必要だと思ったことしか選手に身についていかないのです。他者からアドバイスされて外発的な動機付けで取り組んでも、選手が必要としていなければ定着しません。では、どうすれば選手の内側から情報を察知するアンテナを広げさせることができるのか、それを考えるようになりました。

 選手の内発的動機を引き出すための問いかけ方も、ワンパターンでは通用しないと思いますので、「指導者一人 対 選手十数人」ではなく、「一人 対 一人」の関係を十数通り作ろうとしています。選手たちは育ってきた背景が違いますから、質問の受け取り方も関心を持つ部分も違います。まずは選手が自身を高めるためにどのようなことに関心を持っているか知らなければなりません。従って、私のコミュニケーションは「彼女にとって目標とする山はどんな山で、それをどのようなルートで登ればよいのか」を探るものになります。具体的に言うと、私の場合は、最初に選手の行動を見た時に「この選手はこういうことに気を付けているのかな」と推測した上で、「いまのここは良かった」と良い点を指摘します。それにどんなリアクションをしてくれるのかを見れば、選手がどのような関心を持っているか、およそわかります。そうやって、「目標とする山」の共通認識を持って「一人 対 一人」の関係性を構築しようと思っています。

指導者にとってコミュニケーション能力、質問する力は非常に重要です。私はコーチにどのような能力が必要かをコーチ仲間から学んだり、気づかされたりすることが多いです。私はJOCナショナルコーチアカデミーの5期生ですが、その時のメンバーや、ロンドンオリンピックを目指したときのコーチングスタッフもみな、学ぶ意欲が非常に高いコーチたちで、彼らは自身のコーチングの取り組みや学びをシェアしてくれるので、そこで得られた情報をインプットして、試行するよう努めています。

◎全日本女子代表の監督、眞鍋政義氏、中田久美氏からどのような影響を受けましたか?

 どの競技でも国際舞台で好成績を残そうと思ったら、監督一人ではできません。どれだけ優秀なコーチングスタッフを揃え、組織として機能させられるか、そのマネジメント能力が問われます。眞鍋さんや中田さんのような監督の下で働かせて頂けたことは、私にとってマネジメントを学ぶ貴重な経験であり、また、コーチングにおいても、お二人は私にとってのモデルにもなっています。

眞鍋さんは、類稀なるマネジメント能力をお持ちの方です。一体どこまで先を見ているのだろうと思うほど先を見ています。それは1年2年の単位ではありません。ゴールから逆算して、今、具現化すべきことはこれだ、というところに落とし込みます。そのやり方はとても参考になりました。また眞鍋さんは、組織を機能的にするために、コーチングスタッフに役割を与え責任を持たせました。私たちは「監督がこんなことを僕らに託してくれているのだから」と期待に応えるために必死になりました。当初、監督の要望に応えられる能力はないとコーチの誰もが思っていましたが、それぞれが「必ず応えなければいけない」と勉強もしましたし、様々な経験も積みました。そういった「人に任せる。役割を与える。もし彼らが失敗したら自分が責任をとる」というリーダーシップの取り方はとても勉強になりました。私たちに育つ機会を与えて下さり、とてもありがたく思っています。

中田さんからは最初に「好きなようにやっていいよ」と言われました。年間計画を立て、どの大会に照準をあわせて、どのような戦術的ピリオダイゼーション(期分け)でやっていくかという強化方針の決定を任せてくれました。また、選手の状況を見て、どのようなタイミングで選手を叱咤激励するのかという点では、私が知っていたこととの相違があり勉強になりました。おそらく男性目線と女性目線の違いもあるのだと思います。そういう点で、女性の監督の下でアシスタントコーチを務めたことは、私にとってコーチングの幅を広げることにつながりました。

◎女性の選手にとって、女性指導者と男性指導者ではどのような違いがあるのでしょうか?

やはり選手との距離感に現れると思います。最初は、男性指導者は女性指導者よりも、少し距離をとって選手と接すると思います。ですから男性指導者が女性選手との距離感を近づけるには時間が必要です。ですが女性同士の場合は、踏み込んでいけるのでしょうね。選手にとっては、「中田監督には見透かされている」という思いがあったようです。また、男性指導者がフォローするのとは異なり、女性指導者は同性だからこそ気づくきめ細やかなフォローができます。そのため、選手は簡単にくじけることが少なくなるという強みがあるように思います。

私は、男性指導者だからということではなく、選手には常に公平に接することを心がけています。公平を保つための考え方として、一人の特定の選手にしてあげようとすることを他の選手にも同じようにできるだろうか?という自問をいつも投げかけています。選手の起用に関しても、眞鍋さんが公平を保つために行っていた手法に習って、データをきちんと見ながら、できるかぎり選手みんなに適所で機会を与えるようにしています。 (中編につづく)

(文:河崎美代子)

【安保澄さん プロフィール】

所属:公益財団法人日本バレーボール協会

役職:U19-U20&U23女子日本代表監督

1970年生まれ。

1993年 明治大学卒業

2000年 筑波大学大学院体育研究科修了。

1998年~2000年 筑波大学女子バレーボール部アシスタントコーチ

2000年~2001年 Vリーグ女子イトーヨーカドープリオールアシスタントコーチ

2001年~2009年 Vリーグ武富士バンブーアシスタントコーチ

2002/2003(第9回)Vリーグ準優勝、

2005/2006(第12回)Vリーグ3位、

2006/2007シーズン Vリーグ4位

2009年~2012年 全日本女子アシスタントコーチ(ディフェンス担当)

2010年 世界選手権銅メダル

2012年 ロンドンオリンピック銅メダル獲得に貢献

2013年~2014年 久光製薬スプリングスアシスタントコーチ

チームの公式戦5冠獲得に貢献

2014年より現職。

2017年U23アジア選手権金メダル

2017年U20世界選手権銅メダル

2018年U19 アジア選手権金メダル

 その他

日本体育協会公認上級コーチ(バレーボール)、

2012年度JOCナショナルコーチアカデミー修了。

JOCナショナルコーチアカデミーワーキングメンバー

☆ 公益財団法人日本バレーボール協会