スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー第46回 金森徹さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、パーソナルトレーナーの金森徹さんにお話を伺いました。

高校時代はラグビー部に所属、卒業後は電機メーカーに勤務したもののトレーニングコーチに興味を持ち退職。上京し、アスレティックトレーナー(パーソナルトレーナー)を目指して都内の専門学校で学んだ後、接骨院に勤務してスポーツ選手や介護のサポートで腕を磨き、8年前にフリーランスとして独立しました。現在、体調や健康を管理する専門的トレーナーとして、高校のチームを中心に幅広く活動しています。

コロナ禍を経て「健康作り」に関して考えることが増えたという金森さんのインタビューを2回にわたってご紹介します。

(2023年5月 インタビュアー:松場俊夫)

▷ 現在の活動について教えてください。

法政大学第二高等学校のバスケットボール部と硬式野球部、慶應義塾高校のフェンシング部でトレーニングの指導を行っています。ウェイトトレーニング、体の使い方の指導、コンディショニング、栄養の指導もやります。また今春のコロナ明けでS F C(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)のフェンシング部(女子)や法政大学第二高等学校の女子バレーボール部などからも声をかけていただき、7月からサポートをスタートしました。

私はトレーニングコーチの勉強をするため25歳で脱サラして上京し、からだのことやトレーニングについて専門学校で基礎、基本から学びました。当時はどの様な形態で職業としていくのかはっきりしておらず、漠然とですが、フィジカルコーチやトレーニングコーチ、アスレティックトレーナーと呼ばれるような事が仕事にできる様にしていきたいと思って学んでいました。

専門学校を卒業しスポーツの現場や、運動指導の現場を通じて様々なことを学んでいく中で、自分が指導している体を動かす行為、運動は、トレーニング、ウォームアップ、アスレティックリハビリテーション、はたまた競技スキルなのか?と考えることが増えました。結局明確な境目は目的によって使い分けられているだけではないかと考える様になりました。私の指導はチームや選手たちから望まれることに応えることと、自分が学んできたことでこれだけは伝えたいと言えるような重要な内容がミックスされていると思います。なんとなく見れば、3つの学校のチームでやっていることはそれぞれ異なって見えるのではないでしょうか。でも私が伝えている内容は人が地球で運動する時に知っていた方が良いことは徹底するということだけで、どこに行っても同じようなことしかしていないと思っています。

また、学校の指導では考え方や生活の仕方などのメッセージを伝えることを大事にしています。例えば、一週間に一度しか会わない選手に、その日その時間に何をしてどう変わったかではなく、どうすればどう変わるのかを理解して実行するきっかけ作りの時間になればと思っています。

また平日の午前中には一般の方向けにレンタルスペースを借りて運動(トレーニング)の指導をしています。女性の方が多いです。なぜ男性は少ないのでしょうかね。コロナの流行が始まった時、スポーツクラブが軒並み休止になりましたよね。「外に出ない」「動かない」ことを求められました。でも健康において運動することはかなり大切なはずで、どうすれば運動できる空間を確保できるか、人が活動を止めなくていいかを考え、今の形になりました。運動に必要な空間を提供するだけ。この空間には運動に詳しい私がいるだけという考えのスタイルです。ある空間にマットがあって、ストレッチやトレーニングをすることは自由です。運動のできる空間を媒体として人が集まり、各自が目的に沿ってやりたい運動をしている場所です。その他、様々な場所でパーソナルで体のケアをしたりトレーニングの指導を行っています。

▷ 脱サラして上京されたわけですが、会社を辞められたきっかけは何でしたか?

元々は工業高校を卒業してメーカー就職したいと考えていたのですが、高校に入学した頃にバブルが崩壊し、工業高校を出てもメーカーに入るのは難しい時代になってしまいました。成績も大して優秀でもなく、色々とあってほぼメーカーへの就職は諦めていたのですが、偶然のタイミングで電機メーカーの採用の枠ができ、受けたところ幸運なことに合格したのです。

せっかく入社して多くのことを学ばせてもらった会社を辞めようかと思い始めたのは入社して5年ぐらいしてからです。当時プロ野球の世界で選手のコンディショニングという分野に注目が集まっていました。メディアでもスポーツ科学の分野が報じられる事が多くなっていました。私はトレーナーという仕事に興味を持ち、ネットなどで情報を調べるようになり、スポーツの世界で起きている様々なことを知りました。そして何もわからないなりに専門学校の情報を得て、東京に出て勉強し、現場に出たいと思う様になりました。

▷ コロナ禍を経て「健康」についての考え方は変わりましたか?

何年か前から疑問を持つようになりましたが、まだよくわかりません。健康に必要なことは何か、自分の言葉で説明できることは何なのか。難しいです。

「心と体のバランス」というのも非常に難しいわけですが、ある時、学生に「めちゃ根性って大事じゃないですか」と言われたのです。「科学よりも根性ってとても重要じゃないですかね」と。私は「それは二者択一なの?」「間違ったことを根性だけでやったらどうなる?」と尋ねると「壊れちゃったり効率的じゃなかったりする。でも根性でやればできなかったことができたりする」と言うのです。僕の感覚では結局どちらも大切ですよね。

そもそも「心技体」が大切と言われますが、どれも切り離せませんよね。「今日は心を自宅に置いて体だけで来ました」「スキルだけ忘れました」などということはできないわけで、やはり切り離すことはできないと思います。無理に色々なことに「線引き」をしてしまうと指導ができなくなるのではないでしょうか。

話は健康のことに戻りますが、自分にとって大切なものを持てるのが健康ということではないでしょうか。そのためのやり方や方法は人それぞれですから、私たちができることは多くはありません。明確にできるものではないと思います。WHOは、健康とは肉体的、精神的、社会的にも満たされた状態と定義づけしています。私たちの役割はその状態に人々を導く、そのための環境を整えることだと思います。なかなか実感が湧きにくい仕事ではありますが。そんなに形式的な平面的なものではなく立体的で多様なものなのではないでしょうか。

トレーニング指導の現場で駆け出しの頃にはよくコーチの方達と「両輪とかいうけど三輪でも四輪でもいいよね」と話していました。みんながそれぞれのパーツになって初めて機能するよねと。突き詰めていくと、結局、全力で思い切り楽しく競技ができる状態、状況ができれば強くなれるのではないかというところに行き着きます。

現在千葉ロッテマリーンズで監督を務める吉井理人さんが何かで話されていたと記憶しているのですが、吉井さんがピッチングコーチをなさっていた時、「僕は辞書になれればいい。必要な時に開いてくれ。専門的な情報が書いてある」とおっしゃったのだそうです。その後、別の担当になった時には「図書館だと思ってくれ。必要な本を読んでそこから必要な情報を読み取ってほしい」という内容だったと思います。

▷ 吉井さんはWBCでもコーチとして活躍されましたが、コーチング理論を現場で実践されている方ですね。

吉井さんのお話は印象的で私の頭にしっかり残っています。高校生にその話をするとみなキョトンとしていますけどそれでいいと思っています。対照的に、やり方を教え、強要し罵倒したり手を出したりといった威圧的な指導は熱い思いゆえという考えがありますが、私はそれは違うと思います。ただ、最近観たドラマで青年が相撲部屋に入り、その古いやり方の中で自分自身、相撲道というものを見つけていくのですが、ドラマとしてではありますが、それはそれでよく描かれているなと思ったりもしました。指導が暴力的ではあるもの、主人公は自分で心から強くなりたいと思って変化していく。「やる気」は外力ではどうにもならないもので、鞭を入れられるからやるというのでは逃避でしかありません。

頑張った先に何かあるかもしれない。見えないものが見えてくるかもしれない。この部分はスポーツの現場でもうまく伝えていくことができればとも思います。でも、そのためには私たちが体について、成長について、心についての知識がもっともっと必要になります。かつて流行った「ファジー」という言葉は、今ではその曖昧さが揶揄されるようになっていますが、あの感覚も必要なのではないかと思うのです。この線を踏んだ超えたではなく、ここの境目はどこだっけ、と思える程度の部分はあるものとしないと成り立たないことがたくさんあるのではないでしょうか。いつも線の内側にいることを最重要視していると外側に向かって大きくなるエネルギーを持てないのではないでしょうか。隣のものと交わらないのではないでしょうか。少し線を太くしてどこが境界線か分からないところで思い切りできる感覚を、スポーツの局面から体験し何かを得られ成長できたらいいですね。きっとスポーツ以外の場面でも活きてくるのではないでしょうか。スポーツから得られるものは線引きではなく、曖昧さの中で思い切りできるかどうかなのではないでしょうか。(後編に続く)

(文:河崎美代子)

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/46-2/

◎金森徹さんプロフィール

JATI-ATI(日本トレーニング指導者協会認定トレーニング指導者)

NSCA-CPT(National Strength & Conditioning Association認定パーソナルトレーナー)

1976年 岐阜県生まれ

1994年3月 岐阜県立大垣工業高等学校(電子科)卒業

1994年4月〜1999年12月 電機メーカー 勤務

2000年4月〜2002年3月 東都リハビリテーション学院(アスレティックトレーナー科)

2002年4月〜2015年3月 さくらグループ(さくら鍼灸接骨院)勤務

2015年4月〜現在 フリーランスとして活動中

2020年7月〜 Spazioスタート

<現在指導中のチーム>

慶應義塾高校フェンシング部

慶應義塾湘南藤沢中高等部フェンシング部(女子)

法政大学第二高等学校 バスケットボール部・硬式野球部・女子バレーボール部