スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー 第12回 上島しのぶさん(中編)

◎「学び」についてですが、コーチングを勉強したのですか?

 それとも経験から学んだのでしょうか?

 

両方です。私はJOCナショナルコーチアカデミーの3期生なのですが、それは、それ以前の「やらされ感」の強い連盟の指導者養成などとはだいぶ違いました。初めはドキドキしていたのですが、様々な競技団体の方々に出会って、様々なやり方を学びました。具体的に何を学んだというよりも、視野が広がり、仲間から学びが得られる環境ができました。それを機に、つながりができた人に相談したり、講師の方に独自に学びに行ったり、いいセミナーがあったら出かけたりして、「学ぶ」ようになりました。それまでは自己流でしたが、学ぶことで自分が変わりました。

経験からの学びについて言えば、いまどきの選手たちの変化に対応しなければならなかったことでしょうか。現在関わっているスロープスタイル・ビッグエアの選手は13歳から、一番年長でも19歳ですから世代ギャップの理解が大変です。

バンクーバー五輪で服装の問題がありましたが、その後、アルペン以外の種目もすべて含めてヘッドコーチを任せられることになりました。ハーフパイプの選手はアルペンのようなスピード系とは全然違う人種です。みなやんちゃで、まともに相対したらわけがわからない。こちらが思う「普通」に接していては通じないのですが、事実、彼らは今の日本のトップで、世界のトップになっていく選手なのです。

そんな中で彼らへの対応に試行錯誤しているうちに「あっ!」と気づかされた時がありました。ソチ五輪の1年前ぐらいだったでしょうか。

チームではありますが個人競技ですから、隣の選手もライバルなんだよ、と強く言ったことがありました。が、彼らには全然響きませんでした。なぜなら、彼らは純粋に、仲間の中で切磋琢磨して成長している人たちだったのです。でもそれが理想ですよね。蹴落とす、自分だけいいように抜きん出る、のではなく、仲間同士高め合うという関係は。それを理解した時、「彼らの考え方のほうがいい」と思いました。スノーボードの歴史的背景もあるかもしれませんが、常に選手が最先端の技を塗り替えていく種目なので、その先を行くような高度な技術を教えてくれるコーチも世界的に少数であり、お互い高め合いリスペクトし合って技を磨いていく、そんな世界なのです。

そのことを体感した時に、自分の言ったことは間違っていた、彼らのやり方でやるべきで、自分が彼らと同じ気持ちや考え方にならないと彼らのことは理解できないと思いました。彼らは自分で納得したことはやる人たちですから、こちらがまずそこに気付かなければなりません。自分が選手の立ち位置に目線のレベルを合わせることをしないとだめなんだ、と気づきました。

でも、今指導している選手はまた彼らよりずっと若い選手なので、もっとわからないわけです。しかし彼らには彼らなりの価値観があります。ですから行動、例えば遅刻するにも理由が必ずあります。かつてのような学校のクラブだったら「だめだよ」と怒って終りですが、そうではなく、行動の裏側にある理由を聞いて、まともな理由ならポジティブな叱りかたをするし、とんでもない理由なら「それはだめだよ」と言わなければなりません。昭和の指導者のように、頭ごなしに自分の経験則からの教え方をするのではなく、手間はかかりますが、一回彼らの立場や事情を確認してから色々話をします。

自分との年代が開き、対象とする選手の理解がどんどん難しくなってきていますから、自分の接し方を彼らに合わせなければなりません。すると、彼らは考えていないようで、意外と考えていることがわかってきます。行動にはちゃんと理由があります。そこがおもしろいところです。他の競技団体もジュニアは似たり寄ったりのようですね。この種目は特化が早く、最初からトップにいて、施設やチームに入って集団生活をすることが少ないせいもあるのでしょう。スポーツの根源である「楽しい」ということを必ず持っている、その良さはあるのですが、自由な感じ、楽しい感じをずっとひきずりがちなところは、日々の生活や活動姿勢、広い社会から求められるものと、まだ相反のギャップが出て来るところは難点です。逆に、男子が特にそうなのですが、自分が好きで追い求めていることをやっているので、例えば、自身の不出来に対して言い訳をする選手はあまりいません。そこは良いところだと思います。

今のチームに所属する選手たちは、全員が口をそろえて北京(※2022年北京冬季オリンピック)で金を獲ると言いますし、私はそれが実現できる選手たちだと信じています。ただしそのためには、「楽しさ」の意味が決して「楽」のみで成立することではないこと、苦楽を含め自分の好きなことをとことん追求する充実した「楽しさ」がその夢を実現させることを、この4年間で体感してもらいたいと思っています。金を勝ち切ることはそんなに簡単なことではないということは、平昌オリンピックを通して感じました。

Coaches and JISS tech team at Tohoku Quest summer training camp.

「写真提供:Lee Ponzio」

 

 

◎上島さんの指導スタイルとはどのようなものでしょうか?

 

「そもそも」、でしょうか。迷って考え直す時に手を広げてしまうと、そもそも何が目的だったかがわからなくなることがあります。ですから、例えば強化合宿を企画する時や、選手の行動の理由を確認する時に、「そもそも」これが必要なのか、「そもそも」何がしたいからこれをやらなければいけないのかを考えます。特に今のチームでは、「そもそも何だっけ」とシンプルに立ち返るようにしたいと思っています。コーチングスタッフの指導もしているので、彼らともこの考え方は共有します。そうすると案件に対しシンプルに答えが出てきたりします。

この方法は、過去4年間にできていなかったことからの反省です。この4年は、様々なものが張りぼてのように重なり合い、それをほどくのが大変になった時期でした。服装問題を経てやっとソチでメダルが獲れたと思ったら、それ以降もずっと色々な問題が起きて、何かがあったら何かでカバーする、対処療法的なことをしていたらすべてが後手後手になってしまい、結果的に選手たちへ負担のしわ寄せがきてしまう事態になっていました。それと同じことをまた繰り返してはいけないと強く思っています。

前職では、4チームが存在するスノーボード全体を見て調整をしなければならない、ということがあったので、そういう負のスパイラルに陥りやすかったと思います。でも今はスロープスタイル・ビッグエアだけのヘッドコーチをまかせてもらっていますから、新しいチーム作りをするのに、シンプルに「そもそも」で対応するようにしています。自分にとっては8年ぶりの現場という環境の変化もあって、自分自身ワクワクしていますし、まず自分の中で考え方をリセットしなければならない、変わらざるをえないという部分があります。

 

 

◎指導者としてもっとも大切にしていることは何ですか?

 

スノーボードは個人種目ですが、チームでないと勝てないという面があります。バンクーバー五輪の時、現場でスタッフ間の行き違いがあり、その空気が選手たちに伝わってしまって終始雰囲気悪く終わったということがありました。また、ハーフパイプは成績は出るけどやんちゃで、スピード系は成績は出ないけど硬派でと、お互い「ちょっとちがうよね」という雰囲気もありました。同じ宿舎にいるわけですから、朝起きるところから、お互いの行動の一つ一つがカンにさわるという、そんな空気感では勝てません。それぞれの価値観を知らないまま、オリンピックだからと急に集まって一緒にうまくやろうと思っても無理です。和気藹々とした雰囲気でお互いに「明日頑張ろうぜ」と言えるような状況が必要です。

そういったことが成績に影響するかどうかは科学的に証明できないと思いますが、バンクーバー五輪後、全種目のヘッドコーチになった時にまずやったのは「みんなで一緒にやる、一つのスノーボード」ということでした。そして初めてメダルを獲りました。スタッフも含めてチーム一体でいこうと、意図的に全チームを集めた合宿を事前にやったりしましたが、そのやり方を大切にしていきたいという考え方は今も変わっていません。現在は新しいチームになったので、選手たちが自分たちのチームをどのようにしたいのか、ここにいるとどんないいことがあるのか、このチームに所属する価値、我々のチームカルチャーを、今一緒に時間をかけながら作っているところです。選手からは意図的に個々の主体性を引き出すようにして、仲間との切磋琢磨というベースは生かしていきたいです。(後編に続く)

(文:河崎美代子)

 

 

【上島しのぶさん プロフィール】

 

1971年12月26日生まれ(46歳)

北海道出身

北海道立旭川東高等学校 1990年卒

SAJスノーボード公認A級コーチ、JOC ナショナルコーチアカデミー修了。

 

第18回オリンピック冬季競技大会(1998/長野)スノーボード大回転出場

2001-2010 スノーボードプライベートチーム主宰

2006-2008 スノーボードクロスナショナルチームコーチ

2008-2010 スノーボードアルペン・クロスナショナルチームチーフコーチ

2010-2018 スノーボードナショナルチームヘッドコーチ

2018-     スノーボードスロープスタイル・ビッグエアナショナルチームヘッドコーチ

 

☆ 公益財団法人全日本スキー連盟

http://www.ski-japan.or.jp/