スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー 第1回 宇津木妙子さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々にご自身の経験やお考えなどを伺い、次の指導者の方にバトンをつないでいきます。

記念すべき第1回は、第1回公開セミナー『門』でもご登壇いただいた宇津木妙子さんです。
女子ソフトボール日本代表を初めてのメダル獲得に導いた宇津木さんは、世界野球ソフトボール連盟の理事として世界的なソフトボールの普及に努めると同時に、東京国際大学女子ソフトボール部の総監督としてもご活躍中です。

監督時代、鬼監督と恐れられながらも選手たちに慕われた理由、指導者として最も大切にしていることは何か、前・中・後編の3回にわたってご紹介していきます。

(2015年5月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
リレーインタビュー 第1回 宇津木妙子さん(前編)

中編はこちらから↓
リレーインタビュー 第1回 宇津木妙子さん(中編)

■理想の指導者は?

他の指導者たちの話を聞くと、根底はどこかで同じだと思います。スタイルは違ってもそれは感じます。ある男性の監督さんが「選手とよく話しているんだよ」とおっしゃっていて、私たちは女性同士だからストレートにアプローチしますけれど、女性以上に繊細に仕掛けていく男性もいるんだなと。それも一つのやり方だなと思い、私も選手への問いかけをするようになりました。

野村克也さんの人間教育によるチーム作りも勉強になりますが、私はユニチカに在籍していたせいか、大松博文監督の「俺について来い」の方が好きですね。シドニーの時にはそのやり方を取りました。とにかく言うべきことは言う。メリハリをつけるようになりましたよ。

■指導者としての夢や目標は?

私個人ではなくて、指導者全体に思うのは、主役は選手であって指導者ではないということです。選手をどう活かしてあげられるかが指導者の仕事、私はいつもそう思っています。前に出すぎる指導者もいますが、それは結果の評価であって、自分で戦った結果ではありません。私が選手を活かすことができたとしても、それが指導者のおかげであるかどうかは、選手たちが感じること、判断することです。最後は選手自身ですから。指導者にできることなどたかがしれているのです。例えば、才能あふれるエリート選手の場合、技術的な指導は誰が教えても大丈夫です。それ以外の気持ちだったり、周りとのコミュニケーションだったり、彼女に足りないものが何かを教えられるような指導者にならないといけないのです。

■指導者を続けている理由は?

いま教えている実業団のOGが、ときどき子供を見せに来てくれるのですが、教え子たちの成長をみるたびに「指導者を続けてきてよかった」と思います。子供たちが大きな声で挨拶ができていたりするとうれしいですね。それから、指導者になった教え子が苦労しているのを見ると、その気持ちがよく理解できるだけに、その子には申し訳ないけど、それもまた微笑ましい気持ちになります。もちろん、指導に関する悩みを打ち明けられればアドバイスしますが、結局最後は「自分」ですから。それを見守るのもまた「指導」なのではないでしょうか。

良い指導者に教わった選手は、良い指導者になるとよく言われます。ただ、それぞれに適性がありますから「本当にこの子が?」という子が指導者になっていたりもします。指導者に向かないのは一線を引けない子ですね。言い訳して、最後まで責任が持てない。そういう子にはハッキリと「向いていないからやめろ」と言います。逆に、監督と選手のパイプ役になれるので、いいコーチにはなれるのですが……。選手の声を聞きすぎる、甘えさせすぎる、監督としての威厳がない。日本には、飴と鞭、このさじ加減がへたな人が多いですね。

■日本のスポーツ界や担当競技に今必要なことは?

2020年に東京五輪・パラリンピックが決まり、日本の指導者たちにはさらなる成長が求められると思います。アスリートのトレーニング環境はどんどん整えられていますが、私は「指導者の指導」が急務だと思っています。もっと真剣に考えなくてはいけません。

指導者の資格も大事ですが、最初に言ったように「人 対 人」じゃないですか。今の日本のスポーツ界は、派閥とか縦社会でもがいている指導者が、とりあえずそのポジションに据えられているところがあります。企業もそうでしょう。そうして、人選を間違えると組織が、チームがあらぬ方向に向かってしまう。イエスマンは扱いやすいでしょうけど、耳の痛いことでも進言していくのが指導者の仕事なわけで、上はそれをどう活かすかが大切なのです。これは永遠の課題だとは思いますが、もう少しよい環境にしてあげた方がいいし、一方で、監督も代表監督になったらある程度覚悟することが必要です。いかに代表の選手たちを活かすか、それを考える指導者であってほしいです。

■指導者のみなさんに向けてメッセージをお願いします!

まず、競技を好きになること。もちろん好きだからやっているのでしょうが、指導者ももっと勉強しなければいけない。インターネットが発達し、いまや選手の方が最新情報を持っていることがあり、指導者が甘くみられることもあります。ですから、トレーニングにしても、選手に考えさせることが必要です。そして自分の指導を常に反省しながら、選手とコミュニケーションを取りながらやっていかないとダメです。自分の形を崩さなくてもよいのですが、世の中も、スポーツの世界も変わっているのです。もっと頭を柔軟にして、どう選手たちと向き合うかを考えなければなりません。

根底は、選手たちにどう愛情を持って接することができるかです。現代の選手たちは、衣食住すべてが整った素晴らしい環境で育っているので、考えてはいるのだろうけれど、どこか自分本位になっているところがあります。ですから、周りを見ながら、自分が何をすべきか、どう動くべきなのかを考えられるように指導する必要があります。教えすぎると逆に考えなくなるので、各選手の性格を分析しながら、どう活かすかを考えて指導するのがいいと思います。

どこか変わっている人。ひたすらまじめにやってきた人。適材適所、色々な人がいて良いのです。チームがつらいとき、ちょっと変わった子がいると乗り切れることがあります。よく男性と話していて、「女の子は強いよね」という話になった時に言うんです。「女性は一か八かで勝負しているから」と。男性は立場やメンツなど、気にすることが色々ありますからね。でも、そうした違いがあるのは仕方ないことなのです。ただ、「男性に負けるものか!」という女性リーダーによく出会うのですが、私はお互いが平等に扱われなくてもいいと思います。その中で女性がどう立ち回るか、どう輝くかが大切なのです。女性でなければできないことがたくさんありますから。 (宇津木妙子さん編終了)

(文:河崎美代子)

☆宇津木妙子 プロフィール

1953年4月6日生まれ。埼玉県出身。

川島町立川島中学校よりソフトボールをはじめ、1972年にユニチカ垂井(実業団)入社し、ソフトボール部に入部。1974年には、最年少で全日本選手として世界選手権に出場し、準優勝に貢献した。

1985年に現役引退後は、日本リーグの日立高崎(現ルネサスエレクトロニクス高崎)の監督に就任。日本リーグの中では、初の女性監督だった。当時3部のチームを3年後には1部に昇格させ、その後は日本リーグ優勝3回等の成績を飾る。

これらの活躍が評価され、1997年日本代表監督に就任し、2000年シドニーオリンピックでは銀メダル、2004年アテネオリンピックでは銅メダルを獲得した。2005年には、日本人女性として初の国際ソフトボール連盟殿堂入り。

2009年8月に本学人間社会学部特命教授。

2010年4月、東京国際大学女子ソフトボール部総監督に就任。

2014年世界野球ソフトボール連盟理事に就任。

現在は、ルネサスエレクトロニクス高崎女子ソフトボールチームのシニアアドバイザーの傍ら、日本ソフトボール協会常務理事(普及委員長)、文部科学省中央教育審議会委員等を歴任し、国内での課外授業の講師や講演活動等を精力的に行っており、熱血先生・指導者として活躍している。またヨーロッパ・アフリカ等に出向き、ソフトボール普及のために、世界を駆け巡っている。

座右の銘は、

「努力は裏切らない」 「人生に夢があるのではない、人生が夢をつくるのである」

☆宇津木妙子 オフィシャルブログ

☆NPO法人ソフトボール・ドリームHP