「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回お話を伺ったのは、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターとU20日本代表ヘッドコーチを務める中竹竜二さんです。
10年前、ビジネスの世界を飛び出し、指導経験がないまま早稲田大学ラグビー部監督を「カリスマ」清宮監督から受け継いだ中竹さんですが、「フォロワーシップ」というマネジメント手法を活かした組織運営によって、見事チームを大学選手権連覇に導きました。
中竹さんのご経験や考え方、指導者を目指す方へのアドバイスを前・中・後編の3回にわたってご紹介していきます。
(2016年8月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
リレーインタビュー 第6回 中竹竜二さん(前編)
ゴールを確認する、効率をあげる、環境設定をうまくつくる、安全に気をつける、選手を楽しませる、良いイメージと悪いイメージを明確にするといったポイントが10以上ありますが、それらを言い続けます。練習内容を変えたり、戦略を否定することにはなりませんから、とにかくコーチングのポイントだけを言い続け、基準に照らし合わせて練習ができているかどうかを確認します。
「写真提供:ほぼ日刊イトイ新聞」
問題があるとすれば、日本のコーチの個々の資質ではなく、環境ですね。現在は、企業や大学の指導者がトップにいます。彼らのほとんどが社員ですから、他のチームを見ることができず、コーチングに多様性が感じられないのが現状です。彼らが受けるコーチングの研修はあまり充実していなかったのですが、私がコーチングディレクターとして、日本ラグビーフットボール協会の資格研修に介入してから、ワールドラグビー(国際ラグビー協会)のコンテンツを積極的に取り入れたり、実践型の研修にしたりと、参加コーチ達がだいぶ意欲が上がってきました。これまではどちらかというとみなさん嫌々来ていたのですが、今は「来てよかった」、次の人にも「行ったほうがいいよ」と言っているようです。
大事なのは、学ぶ環境を作ってあげることです。みな、素質はあるのですが、どうしても我流になってしまいます。国全体、世界全体としてコーチのコミュニティを創っていき、全体のレベルをあげていくことが大切だということを知らないだけなのです。それを知れば、みんな自然と成長し、十分太刀打ちできます。ただ、英語がダメなのですよね。エディ・ジョーンズ氏はコーチングの前にまず英語を勉強しろ、と言っていました。英語を勉強しないから勝てないのだ、と。若いコーチはだいぶ慣れてきたようで、抵抗感は減ってきましたが、ガンガン英語で議論して、というところまではまだ行っていません。
動作に関するコーチングについて言えば、アメリカンフットボールです。ステップや当たり方という点で。それから、オーストラリアで盛んに行われている、13人制のリーグラグビー。お金がかかっていますからコーチングも進化しています。世界のほとんどの国はリーグラグビー出身のコーチをディフェンスに入れていたりします。コンタクトスキルが高く、キック、パスなどは圧倒的に普通のラグビーのコーチよりも能力が高いです。プロですから、パスやキックの回数がそのままお金に直結します。非常に細かいところまで分析していて、どんどん進化しています。つまり、コーチの人材というより仕組みの問題なのです。
水泳にも興味があります。水の中で、自分の体だけで、一体どのようにパフォーマンスを上げているのか。平井伯昌さんは素晴らしいですよね。それから陸上にも。すべてのスポーツから学ぶことはあります。
ゴール設定できるかどうかです。ゴール設定と準備ができ、振り返りができるかどうか。現状把握は、準備の段階でおそらく重要になってくると思いますが、私からするとしなくてもいい部分はあります。
ゴール設定というのは、チームであれば、このシーズンはどうしたいか、シーズンに入るまでにどのようなチームを作るか、そのために今月どんな練習をすればゴールに近づけるか、ということなのですが、それをしない人が多いのが現状です。優勝すると口では言っていながら本気で思っていないのです。
たとえ優勝が難しい場合でも、低いところではなく高いところにゴールを設定した方が良いのです。ワールドカップで日本代表が南アフリカに勝ったのは、本気で目指したからです。エディ・ジョーンズ氏がまず最初に目指したのです。結果、世間からは無理だと思われていましたが、成し遂げました。
妥当なゴールを探すのはナンセンスです。多分、チームにとって一番モチベーションが高まり、力を発揮出来るところにゴールを持って行くのがいいと思います。見えやすいゴールですね。「優勝」というよりも「南アに勝つ」という風に。
私の仕事について言えば、ゴール設定には5つの条件が必要です。
1)ワクワク感があるか。
2)具体性があるか。
3)チャレンジングかどうか。
4)期日が決まっているかどうか。
5)主語が明確かどうか。
これらがうまく組み合わさらないと精度が低くなります。例えば、人をワクワクさせる目標でないと、ノルマやタスクになってしまいますよね。でもそれで終わっているケースが多いです。「優勝」より「打倒南ア」ならがんばれる、ということです。あとはどこで失敗を切るかですね。負けたら失敗ですが、その後もずっと続いていく。もしチャレンジングにやって失敗しても、結果、それによって次に大きな成功をなしとげる可能性があるわけです。その先まで見た目標設定になっているかどうかが大切です。
ある程度のレベルのチームなら、目標は合議制よりも、コーチが決めた方がいいと私は思います。私が目標を決めて、プロセスはみんなで考えます。以前、ゴールを選手たちに考えさせたことがありますが、これは彼らには負担になります。それよりも満場一致になるようなゴールをコーチ自身で考えた方がいいと私は思います。(後編に続く)
(文:河崎美代子)
後編はこちらから↓
リレーインタビュー 第6回 中竹竜二さん(後編)
(公財)日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター
株式会社TEAMBOX代表取締役
1973年、福岡県生まれ。
早稲田大学人間科学部卒業後、単身渡英。レスタ―大学大学院社会学部修了。
三菱総合研究所でコンサルティングに従事した後、早稲田大学ラグビー蹴球部監督、ラグビーU20日本代表監督を務め、「監督の指示に従うのでは無く、自ら考え判断できる選手を育くむ」という自律支援型の指導法で多くの実績を残す。
日本で初めて「フォロワーシップ論」を展開した人のひとり。
現在は、日本ラグビー協会コーチングディレクター(初代)として、指導者の育成、一貫指導体制構築に尽力する一方、ラグビー界の枠を超え、民間企業、地方公共団体、教育機関、経営者団体を始め、各方面から講演会・研修・セミナー・コンサルティングなどの依頼多数。
2015年よりU20日本代表ヘッドコーチを務め、ワールドラグビーチャンピオンシップにて初のトップ10入りを果たす。2016年にはアジアラグビーチャンピオンシップにて日本代表ヘッドコーチ代行として指揮をとる。
2014年には株式会社TEAMBOXを設立。次世代リーダーの発掘・育成、組織力強化といった課題を根本的に解決するトレーニングを提供している。
主な著書に『自分で動ける部下の育て方—期待マネジメント入門』(ディスカヴァー新書)、『部下を育てるリーダーのレトリック』(日経BP)など。