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リレーインタビュー 第6回 中竹竜二さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回お話を伺ったのは、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターとU20日本代表ヘッドコーチを務める中竹竜二さんです。

10年前、ビジネスの世界を飛び出し、指導経験がないまま早稲田大学ラグビー部監督を「カリスマ」清宮監督から受け継いだ中竹さんですが、「フォロワーシップ」というマネジメント手法を活かした組織運営によって、見事チームを大学選手権連覇に導きました。

中竹さんのご経験や考え方、指導者を目指す方へのアドバイスを前・中・後編の3回にわたってご紹介していきます。

(2016年8月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
リレーインタビュー 第6回 中竹竜二さん(前編)

中編はこちらから↓
リレーインタビュー 第6回 中竹竜二さん(中編)

◎U20のヘッドコーチに就任して、早稲田大学ラグビー部監督の時のスタイルと変えたところはありますか?

ほとんど同じです。まず選手たちが主体性をもって考えます。私は基本的に怒ることはしません。でもコーチングの方法は明らかに違います。早稲田の時のやり方はあまり思い出したくないですね。ド素人で始めて、それで勝ったので、今思えば失礼なことをしたなと思います。U20の監督に就任した時には、コーチを教える役職について時間がたっていましたし、相当自信がありました。

ただ、彼らは経験値が少ないですから、自尊心、自信という部分に非常に配慮しました。とても難しいのですよ。他国の同世代はすでにプロとして戦っているのですが、日本の場合、高校を卒業したばかりの大学1・2年生ですから。試合にもほとんど出ていませんから、意見も言えないわけです。急に集められて「さあ、やれ」と言われても無理ですよね。ですから、良いプレイが出たら「世界に通用するぞ」とちゃんと褒めましたし、逆に国内だけで通用するプレイでミスをした時にも配慮を欠かすことはしませんでした。

世界で戦った経験がなく、感情のブレもかなりある中でやらなければなりません。日本の現状でいうと大会までにあまり試合もできず、いきなり本番みたいなものですから、その中で、自信をつけさせる、でも調子に乗らせないようにする、その匙加減は難しいです。

私は選手が調子に乗ってもいいと思っています。良い時は褒める。ダメなときにはダメと言う。企業のマネジメントによく、怒りたいのに怒れないというケースがありますが、そちらの方が問題だと思います。

選手の選考については、現在とポテンシャルの両方を見ます。私がやる以上は、代表になる可能性のある選手しか選びません。日本では、良い選手でも体が小さいと話になりませんが、世界では意外とそうでもないのです。フィジカルだけではなく、スキル、スピードのどれかが世界レベルであれば世界に通用します。

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「写真提供:ほぼ日刊イトイ新聞」

◎トップとU20のコーチングに違いはありますか?

もちろんあります。トップになればなるほど戦略・戦術が多いですし、多くすべきですが、U20はまずスキルや体作りをちゃんとやります。「そんなことやっていられない」といつも文句を言われますが。U20で集まる時間は他国に比べると少ないので、私は他のコーチの10倍ぐらいミーティングをします。考えを共有するため、しつこいくらいに。相手に話させる時間を非常に長く持ちます。こちらからバンバン質問します。選手は20分以上集中が続かないとよく言われますが、私は1時間ぐらいミーティングをやります。それが私の仕事ですしコンテンツはいくらでもありますから。内容は企業研修でやるようなことです。マネジメントのメソッド、ゴール設定について、アカデミックなドリームの描き方、コミュニケーションのスキル、物事をどう認知するかといった、将来に必ず役に立つことをワークでトレーニングします。他の指導者にもかなりシェアしていますし資料も提供するので少しは広がっていますが、特殊なテーマは私以外にはできないと思います。

試合前は、試合への対応が8割、コーチングは2割ぐらいです。練習前に必ずミーティングをしますが、100%戦略やスキルの話です。朝と昼はトレーニングに集中し、夜はラグビーと関係ない話をするというパターンです。

◎参考までに、中竹さんご自身がいま学んでいることはありますか?

デザインですね。デザインはすべてに必要です。例えば、プレゼンテーションで用いる書類も、良いデザイナーが作ったものは何を伝えたいかがすぐにわかりますでしょう。あとはプログラミングも最近教えてもらっています。

どちらも行き着くところはチーム作りと同じです。素材は変わらないのにデザインで劇的に効果が変わる、つまり同じ選手たちでも、戦略の立て方や配置の仕方、ストーリーの作り方で頑張り方が変わります。それからプログラミングはPCに命令をする、つまり前提を共有し関数を作って埋め込みます。前提が非常に大切というのはチームも同じでしょう。例えば「走るとはこういうこと」という定義付けがプログラミングには重要で、その前提を先に組んでおけば、文字列とか改行とか、そこにある数式をどう使うかがすぐにわかるわけです。

◎指導者初心者の方、指導者を目指す方にメッセージをいただけますでしょうか?

自分の競技レベルとは別であることを前提にして、コーチングを学んで欲しいです。競技はだめだったけどコーチとしてはいけるかもしれない、逆に、競技はよかったがコーチとしてもっと学ばなければいけない、両方のケースがあります。競技を知っていることとコーチングを知っていることとはまったく異なります。

良いコーチになるには、まずコーチをすることです。しっかり準備して、しっかりコーチして振り返る、振り返ってもらう。きちんとしたメソッドを学ぶのはもとより、実際にコーチをしないとうまくはなりません。実践を積んで欲しいと思います。(了)

文:河崎美代子

【中竹竜二さんプロフィール】

(公財)日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター

株式会社TEAMBOX代表取締役

1973年、福岡県生まれ。

早稲田大学人間科学部卒業後、単身渡英。レスタ―大学大学院社会学部修了。

三菱総合研究所でコンサルティングに従事した後、早稲田大学ラグビー蹴球部監督、ラグビーU20日本代表監督を務め、「監督の指示に従うのでは無く、自ら考え判断できる選手を育くむ」という自律支援型の指導法で多くの実績を残す。

日本で初めて「フォロワーシップ論」を展開した人のひとり。

現在は、日本ラグビー協会コーチングディレクター(初代)として、指導者の育成、一貫指導体制構築に尽力する一方、ラグビー界の枠を超え、民間企業、地方公共団体、教育機関、経営者団体を始め、各方面から講演会・研修・セミナー・コンサルティングなどの依頼多数。

2015年よりU20日本代表ヘッドコーチを務め、ワールドラグビーチャンピオンシップにて初のトップ10入りを果たす。2016年にはアジアラグビーチャンピオンシップにて日本代表ヘッドコーチ代行として指揮をとる。

2014年には株式会社TEAMBOXを設立。次世代リーダーの発掘・育成、組織力強化といった課題を根本的に解決するトレーニングを提供している。

主な著書に『自分で動ける部下の育て方—期待マネジメント入門』(ディスカヴァー新書)、『部下を育てるリーダーのレトリック』(日経BP)など。