「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、パフォーマンスコーチ、スポーツトレーナー、ムーブメントコーチの鈴木正信さんです。
最近注目のスポーツ「パルクール」は走る・跳ぶ・登るといった「移動」をすることで心身の鍛錬を行う運動です。鈴木さんは日本を代表するプロ・パルクール選手として活躍後、プロ・アマチュアのスポーツ選手、格闘家、ダンサー、役者などを対象に、人間の「動き」に特化しパフォーマンスを向上するための指導を行なっています。
鈴木さんが目指すのは”Movement Practice”(ムーブメントプラクティス)という文化を広めることで健康革命を起こすこと。「勝利、結果、プロセス、全てを通して人間力を上げるためのストーリー」と語る鈴木さんのお話を3回にわたってご紹介します。
(2025年9月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/65-1/
適応力や順応能力、物事を広く見る心や目が養われると思います。逃げるか戦うかという局面では常にパニック状態にあり、交感神経が優位になるのですが、ムーブメントプラクティスをすることで、極めてカオスな状況でも心に広がりができ体が適応します。心や視野が狭いと体は適応できないのです。
人には常にストレスがかかっています。私たちは節足動物のように骨格で覆われていない分、不安定の中で安定を見出さなければならないからです。刻々と形が変わるので常に微調整が必要になります。例えばクォーターバックがボールを投げる時、同じフォームで投げようとしてもボールに触れた角度や風の具合などで指の位置は微調整されているはずです。ですからトップになればなるほど動きを常に変えていると思います。それが順応能力で、違う環境で違う動きをする能力を養っているからできることなのだと思います。
ただ強いとか頭がいいとかではなく、社会に対してどう適応しているかだと思います。考える力。コミュニケーションする力。サバイバルする力。クリエイティブとロジックの両立。イノベーションする力。適応する力。人は動物と異なり器用さを持っているので、何かがあった時それに対して隠れたり道具を作ったり、複雑に考えながら適応することができます。
ムーブメントカルチャーは政治、経済、テクノロジーや文化、教育・哲学・信教といった社会的勢力に対してどのようにアプローチするかが大切だと言われています。人はそれらに心も体も順応しますが、それらが他の誰かに造られたものである場合、順応することで自分らしさを保てるのかどうか疑問です。なのでムーブメントプラクティスでは、自分が自分らしくあるにはどうすればいいかを動きを通して考えているのです。

私の場合ティーチングはほとんどしません。運動を指導する現場では「これが正解だからこれをやれ」ということがよくありますが、私の場合はプロにもアマチュアにも完全にオーダーメードなので同じことをやりません。根本にあるのは、WHY→HOW→WHATの順で伝えるという「ゴールデンサークル理論」です。
トレーニングが「山登り」であるならば、今自分のいる場所が山の中腹なのか麓なのか、谷なのか洞窟なのかを理解しなければなりません。過去の自分があり、現在があり、未来に目を向けた時、達成したい目標値を見つけたとしても、さらにその先にも目標が見えてきます。それがその人の「真なる目標」、根本のモチベーションなので、私はまずそれを見つけるよう努めます。
初対面の人には130分のセッションをするのですが、どういう選手になりたいか、どう勝ちたいか、とことん話をします。コミュニケーションを大切にします。同業者はよくムーブメントを学びたい、もっと体を動かせるようになりたいと言いますが、それは旅行会社に行って「旅行に行きたいです」と言っているようなものです。重要なのはどこの国に行きたくて、どのような経験がしたいのかということです。選手も同じで、世界チャンピオンになりたいのなら、どうやってなるのか、その後はどうするのか、どんなスタイルの人間でありたいのかが必要になります。そうなると目標よりも現在自分が何をしているかが大事になるので、私に頼ることがなくなり一緒に取り組めるようになります。
人間力については、プロの場合、プロになるのは生半可のことではないので皆よく理解しています。それが表面に出ている人も出ていない人もいますが、プロの選手で人間力を持っていない人はいないのではないかと私は思います。少なくとも私が会った人は皆そうです。皆、自分がなりたい理想像を持っていますし、心技体を大切にしています。格闘家はよく相手を煽るようなトラッシュトークをしますが、実際は物腰やわらかく礼儀正しいですし、真面目でストイックな人ばかりです。そういうメンタリティがないとプロになれてもトップにはなれないと思います。私は単にファシリテーターとして存在しているだけです。ビジネス的にはアウトですが、私はなるべく早く卒業してくれる方が嬉しいです。しっかりコミュニケーションを取るので友達になることも多く、それは一生の関係になります。「どんな美味しい料理でもそこにとどめたら腐る」と師匠がよく言っていましたが、コミュニケーションの中で一緒に楽しむことが何よりも必要なのだと思います。
そうですね。やはり挫折を経験した後に再び登っていく人を見ると心を打たれます。ある女子フットサルの選手がいて、彼女は両膝の前十字靭帯を切ってしまい、ずっとトップリーグでプレーしていたのですが3部に落ちていました。自分はもうすぐ30歳近くで選手生命を終えることになるかもしれない、でもまだ諦めたくないと必死でワークして努力した結果、再び1部でプレーしています。そういう人はとても素敵です。負けてボロクソ言われてもまた立ち上がる格闘家も同じです。これは人の強さですよね。体の強さではなく、その人の信念や自分がやってきたことを信じて突き進む力を近くで見させていただけるのは幸せです。
私がよく言うのは時間軸です。プロだから見えづらいこともあるのですが、5年後自分がどうなっているかを問います。選手が来る前にメニューを決めてしまうことは一切せず、私は頭を空っぽにしてその人に会います。話をしているうちに頭がフル回転を始め、その後の60〜70分のプログラムを構築していきます。
もちろんスタートは難しいです。初対面は素直になることが必要で、私自身が正直になり傷つくことを怖がらず、フレンドリーで安心、安全な場所を作ります。極端な場合、その人がダークなところに入り込んで泣き出しても良いのです。他人の前で見せられない姿を私には見せられるというところまで持っていきたいです。
「これが正解」というものはなく、私のパフォーマンスアップの基準になっているのは、機能解剖学的なこと以上に自分が「ゾーン」に入ってハイパフォーマンスをした時の実感です。あの実感は何なのか。その記憶に今やっているトレーニングが類似しているか。それ以上に良い感覚があるのかどうか。お互いに一番良いと思っているものの上があることも、それを手に入れるのが難しいことも知っています。トップになればなるほど成長曲線は鈍くなっていくので、様々なことを行わなければなりません。
例えば、私たちは「リゾーム(根茎)式学習理論」をベースに完全にオリジナルのトレーニングをしています。ホップ・ステップ・ジャンプというシステムが現在は主流ですが、私たちがやっているのはどこから始まってどこで終わっているかわからない根茎のように、こちらの要素、あちらの要素と足し算のようにつながっていくリゾーム式です。一応スタートとゴールはありますが、多様な可能性を一つ一つ踏まえていく方法をメインで行っています。(後編に続く)
(文:河崎美代子)
後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/65-3/
◎鈴木正信さんプロフィール
合同会社 Motus Works 代表社員
日本パルクール協会 副会長
日本ムーブメント協会 特別顧問
東京/神奈川を拠点とするパフォーマンスコーチ/スポーツトレーナー/ムーブメントコーチ
プロ・アマチュアのスポーツ選手、格闘家、ダンサー、役者などのパフォーマンス向上を専門とする運動指導者
元・日本を代表するプロ・パルクール選手/コーチとして世界を舞台に活躍する中、キネジオロジー、動作学、生体力学、ムーブメント・トレーニング、デンマーク体操、タンブリングについてアメリカ、ヨーロッパなどの海外の本場 (大学や指導機関)で本格的に学ぶ。
選手引退後は指導者として様々な分野のプロ/アマチュアのスポーツ選手やパフォーマーをサポートしながら、済生会病院などの医療や運動施設のスタッフ研修や運動指導者むけのトレーニング・セミナー講師として日本全国、世界各国で指導する。
Instagram:https://www.instagram.com/shinobi_mover/