「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、元バレーボール、ビーチバレーボール選手の大山未希さんです。
姉の加奈さんの影響で小学校一年生の時にバレーボールを始め、中学、高校、東レ・アローズに至るまでエース、セッターとして活躍しました。その後はビーチバレーボールの選手としても活躍し、現在は「ドリームコーチング」や「アスリーチ」、「JFAこころのプロジェクト」などで主に子どもたちの指導に携わっています。
小・中・高で全国制覇、東レ・アローズではVプレミアリーグ三連覇を経験した大山さんですが、「負けず嫌いが日本一に繋がった」とのこと。伸びやかに、しなやかに歩み続ける大山さんのお話を3回にわたってご紹介します。
(2024年8月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/55-1/
中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/55-2/
これは子どもたちのせいではないと思うのですが、ただボールを投げるだけなど簡単なことができない子がいます。禁止事項が多かったり、暑さなどで体を動かして遊ぶ機会が少ないからなのかもしれません。せっかく公園にいるのにゲームをしている子どもたちをよく見かけたりはしますけど(笑)。私たちはドッジボールしたり雲梯に登ったりジャングルジムから飛び降りたりして遊んでいましたよね。あの遊びが少なからずスポーツに生かされていたのだと思います。「サーブが入らないので教えてください」という依頼がとても多いのですが、そもそも肩がうまく回らず、投げてもネットに届かない子がほとんどです。子どもたちの考え方の部分では、昔と大きく変わっているとは感じていません。たまに「大人だな」と感じることはありますけど(笑)。
とにかく色々なことにチャレンジしたいです。私は夢先生をやる時に、自分の夢を子どもたちに話すのですが、具体的に何になりたいと言うのではなく、「私は魅力的な人になりたい」と話します。「色々な人に助けられてきたから自分もそういう人になりたい」とか「どんなお仕事をするうえでも魅力的な人の方がいいよね」とか。こうした話をすることで、子どもたちは「夢は具体的な職業でなくてもいい」と思ってくれます。「こんな人になりたい」という考え方もあることを知ってくれるのです。ですから、大人になってからもこんなにチャレンジしているのだという姿を子どもたちに見せていきたいです。
つい最近、高校の監督の打診があったのですが残念ながらお断りしました。私が監督に向いていないのはわかっていますし、プライベートも大切にしたいと思っているからです。これまでの人生、自分のやりたいことをやってきたとはいえ、犠牲にしてきたこともあったことは確かですので、これからは自分の時間も大切にしたいのです。私自身が充実している姿を子どもたちに見せるのも大切で、髪の毛を奇抜にピンクにしたりするのも「かっこいいな。バレー選手はおしゃれだな、魅力的だな」と思ってほしいという気持ちがあるからです。そんな様々な形でバレーを盛り上げていきたいです。
それから「スポーツ、運動は大事」ということも伝えていきたいと思っています。私はいじめにあっても学校を休まなかった経験を話すのですが、それは男子が「サッカーやろうぜ」と外に連れ出してくれたり、バレーボール(以下バレー)のチームに行けば、そこに仲間がいたからです。身体を動かすことでストレスが解消できたということを子どもたちに伝えています。「嫌なことがあったら、閉じこもるのではなく外で汗をかけば嫌な気持ちは意外と出ていってしまうよ」「私は今でも嫌なことがあると外に出て汗をかくんだよ」と。スポーツではなく、ただ自然が豊かなところを歩くだけでも効果はあります。こんな話をすると、眠そうにしている子もパッと目を覚まします。アスリートは強いと思われているので、いじめられていたことが意外なのかもしれません。
自分の感情で子どもたちを叱ることは良くないと思います。叱ることが絶対ダメだとは思いませんが、日頃の信頼関係の構築も重要だと感じています。あとは一人一人をよく見てアプローチの方法を変えることだと思います。
仲間の大切さを知ってほしいです。チームスポーツの中でもバレーは一人では絶対にできないスポーツです。一人が連続でボールに触ることができませんし、繋げなければ得点できないのです。私は「ボールを繋いでいるように見えて、心を繋いでいるんだよ」といつも子どもたちに話しています。
私はセッターとアタッカーの両方をやっていたので、どちらの気持ちもわかるのですが、トスがいい場所に来たとしても心がこもっていないと良いトスとは感じられないのです。逆にトスが少しずれても心が通じるとアタックを決めることができます。そのことも子どもたちには話します。
また、フィギュアスケートなどは一つのミスで点数が下がってしまいますが、バレーは1本目がミスだったとしても2本目で修正できたりと仲間がカバーできます。その繋がりが大切なのです。ミスを恐れていると身体が縮こまってしまうので、仲間がカバーしてくれるという安心感も持ちながらやってほしいと思います。
私には困った時に必ず助けてくれる人がいました。それは多分、自分も少なからず助けていたことがあったからだと感じています。例えば、教科書を忘れた子に自ら見せてあげたり、消しゴムを落としていたら拾ってあげたり。「そんな些細なことでも積み重ねていけばその貯金が溜まって、いつか自分が本当に困った時に誰かに助けてもらえるよ」と子どもたちに伝えています。
小さい頃からの基礎体力ですね。小学校や中学校の頃から少しでもいいので身体を動かす習慣をつけてほしいです。姿勢が悪い子も多かったり、全体的に線も細く力もないイメージです。元アスリートの指導者たちがその年代の子たちに楽しく教えてあげられたらいいなと思っています。
子どもたちのために動くのはもちろんですが、その一回きりではなかなか難しいです。普段密に接している先生たちの力になれないかも考えています。全国各地の学校の授業でバレー指導を行う中で「こんな教え方ややり方は本に載っていなかったです」「いつもより試合が続いていてびっくりです」などのお声をいただきます。今後も先生たちがもっと元気になるようにサポートしていきたいです。先生たちを集めて講習会をすれば、先生同士が知り合えて色々情報を共有できますし、友達になって悩みを相談しあったりすることもできるかもしれません。先生たちにそんな居場所を作ってあげたいとも思います。
子どもの時に言われた一言がその人の心に一生残ることがあります。私自身、小1の時に「天才!」と6年生のお兄ちゃんに褒められたことがずっと残っています。そんな何気ない、盛り上げるための一言でバレーにはまり、結果的に選手になっていますから、人生何がきっかけになるかわかりませんよね。指導者の皆さんは、発した言葉が良くも悪くも残りますから、発言に責任を持つようにしてほしいと思います。もし良い一言で子どもたちの人生を変えてあげられるのなら素晴らしいことです。(了)
(文:河崎美代子)
◎大山未希さんプロフィール
元バレーボール、ビーチバレーボール選手
1985年 東京都生まれ
実姉(大山加奈)の影響で小学1年生よりバレーボールを始める。
成徳学園高校(現下北沢成徳高校)では1年生からレギュラーを獲得。
春高バレー2連覇を達成。
ユース、ジュニア日本代表。
2004年東レ・アローズに入団し「V プレミアリーグ」3連覇を達成。
ビーチバレーの選手としても活躍。
小・中・高と全国制覇を果たしており
全てのポジションを経験している。
○Instagram:miki_oyama1003