「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、JOCサーフィン・ハイパフォーマンスディレクター宗像富次郎さんにお話を伺いました。
サーフィンは東京2020オリンピックで初めて正式種目として実施されましたが、宗像さんはサーフィン日本代表選手団の監督として選手たちを力強くサポートされました。ジャパンハウスの開設、選手とコーチ、スタッフとの良好な関係が、五十嵐カノア選手の銀メダル、都筑有夢路選手の銅メダル獲得につながったと言えましょう。
「オリンピックの魔物」を取り除き、個人競技の選手たちを一つのチームとして率いた宗像さんのお話を3回にわたってご紹介します。
(2022年4月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/37-1/
東京2020では家族づきあいのように接することを心がけていました。特に女子選手には監督に言いづらいこともありますから、管理栄養士の先生やスタッフには関係を密にしてもらいました。一緒におやつやフルーツを食べたりしながら女性同志のコミュニケーションをはかってもらって。その上で、先生やスタッフからこんな情報がありますと私の耳に入れてもらい、改善点や対応すべき点を検討しました。女子選手にとっては、栄養士の先生やスタッフに話すことで監督やチーム全体に話が通じるというわけです。
男子の場合は直接話してくることもありますが、私より年齢が近いコーチに話したことがミーティングに要望として挙がってくることもありました。トップダウンの形を取ると距離感ができて選手が委縮してしまうことがありますので、私は話しやすい雰囲気を作りつつも、コーチたちが選手との間に入って活躍してくれました。
それから、サーフィン経験者をスタッフにしたのも良かったと思っています。あれこれ説明するよりも「あの波、バシンでドボンでしょ」というような感覚的な言葉でもお互い理解し合えて、ちゃんと会話になっていました。
選手同士のチームビルディングについては、特に意識したことはありません。選手たちは世界各地のツアー戦の会場で会ったり、SNSで情報交換したり、とても仲が良いですからね。私たちは彼らと少々距離感がありましたから、ツアーを視察に行って声をかけたりしていましたが。
確かに、コンタクトスポーツという身体と身体をぶつけあうスポーツですと、リスペクトし合うのはなかなか難しいと思います。私たちのスポーツの場合、対戦相手は選手同士でも、基本は「波に乗る」競技なので、戦う時はライバル心むきだしで戦っても、終わった後はお互いリスペクトできます。それが最近のアーバンスポーツの特性なのだと思います。競技が終わればサーファー同志のいい仲間で、ともに海を守っていこうという気持ちを共有していたり、波やポイントの情報交換をしたりしています。
私が感心したのは、横乗り系の人たちは昔の競技のように「根性だ!」と汗をダラダラ流して練習しているところを見せないことです。さわやかに競技をしてお互いをリスペクトして、というのが今の若者にうけているのだと思うのですが、実際は、特にオリンピックの時など、見えないところで汗だくになってトレーニングをしています。やはりアスリートなのだと思いました。一緒にいてそれがよくわかりました。
それに選手たちはよく研究しています。波を見ながら「この採点はどうか」などの話を選手同士でしていて、そこに外国人のヘッドコーチが入ってディスカッションになることもあります。医科学的なことも勉強しています。管理栄養士が指導はしますが、「今ちょっと脱水症状になっているから、先生OS1ください」とか「たんぱくと鉄分を摂れる食事を作って下さい」とか、自分たちでもちゃんと考えています。オリンピックに出た選手は、競技で勝つために努力するプロフェッショナルだったと思います。彼らが努力する姿はとても勉強になりました。
ないですね。フラットな関係です。ヘッドコーチに言われたように動くということはないと思います。選手自身がビデオなどで解析したものを見て、これがヘッドコーチが言っていたことだと理解して納得すれば、そのまま動くこともあるでしょう。両方が一致して初めて競技に臨むということになります。
オリンピックではこんなことがありました。現場のコーチと選手が事前にディスカッションして、ポイントはここだろうと波を待つ位置を決めていたのですが、急に波の状態が変わり、そのポイントに波が来なくなったのです。私たちも浜で見ていたのですが、波の状態がおかしいという情報が入ったものの、あれほど大きく変わるとは想像できず、後半になって慌てて動いたのですが、結局点数が出せないまま終わってしまいました。波の状況も含めてサーフィン、というのがこの競技の特性なので、次回に向けて研究しなければいけないと思っています。
トレーナーは複数名連れて行っていますし、コーチも連れて行っているようです。ただ、その都度コーチを変える選手もいますし、いつも同じコーチという選手もいて、そこについては皆、多くを語らないですね。会場ごとにそこの波を知っているコーチを雇ったり、年間通して雇ったり、中にはお母さんがコーチだったり、色々なケースがありますが、トップの選手は海外にいてもリモートでトレーナーやコーチとの打ち合わせをしています。選手たちは波や身体やテクニックなど、必要に合わせてコーチを使い分けているのだと思います。
私たちのチームではヘッドコーチや年齢の近いコーチは配置していましたが、本番になって技術を変えるのは難しいので、コーチは「波に合わせてこういう技を出すと点数が上がる」というようなことを指示していました。本番になってから「体をこう使う」といった指導はできないと思います。その時の波について色々なことをアドバイスするのが役目です。コーチから技術的なアドバイスをもらうのはフリーや練習の時だと思います。
まず、よくジュニアに言うのは「挨拶ができるかどうか」です。1泊2日の合宿をよくやるのですが、初めは、そこで会った選手やスタッフがこんにちは!と声をかけても、サーフィンチームの子たちはほとんど声を出しません。ですが2日目になると大きな声で挨拶できるようになります。挨拶は人間の基本だと思っています。
それから「感謝をしているかどうか」です。今自分がこうしていられるのは、親やまわりの人たちのおかげです。そうした人たちに感謝できているかどうか。他には「相手の選手をリスペクトしているか」。「社会的なルールに反していないか」。そうしたことを教えていきます。例えば「脱いだ靴をそろえている?」と聞くと、多くの子どもが首をかしげます。でも宿泊の時に見回りにいくと、ちゃんとそろえているのです。そういうことを一つ一つ積みあげていって、人間力というものがよくわかっている、人間力の高い人がオリンピックに出られるのだと思っています。
元々、やんちゃ系と言われるような、普段は社会的ルールからはずれているところがかっこいいというサーファー文化がありましたので、これからはスポーツとして認められるように、ジュニア世代から徐々に教育していこうと現在取り組んでいます。
オリンピアンたちはアスリートとして素晴らしい存在だと思っています。例えば、都筑選手はこれまでお嬢さんお嬢さんした感じだったのですが、「ありがとうございます」という言葉をちゃんと使えるようになっていますし、しっかりとした発言をするようになっています。オリンピックに出場して社会から見られるようになり、彼女自身「だいぶ勉強しました」と言っていました。大原選手も以前は仲間と一緒に遅れて来たりしていたのですが、今は一番最初に来て誰よりも早くから波を見ています。前田マヒナ選手もハングリーに波に乗るようになりましたし、これまであきらめていたことをあきらめないようになりました。オリンピックの経験というのはすばらしいものなのだなと思いました。(後編に続く)
(文:河崎美代子)
後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/37-3/
◎宗像富次郎さんプロフィール
【現在】 一般社団法人 日本サーフィン連盟副理事長、強化本部長、JOCサーフィン・ハイパフォーマンスディレクター
1961年 東京都練馬区生まれ
公立小中学卒業 法政大学付属第一高校 同大学建築学科卒業
1985年 所沢市役所と埼玉県庁勤務 都市計画・再開発事業などを25年間にわたり担当
1991年~ 日本サーフィン連盟理事就任
2011年 神奈川県議会議員当選(一期)
2017年~ JOCサーフィンナショナルコーチ就任
<サーフィン関連>
1985年~ 全日本選手権大会出場(10回以上の出場)
2010年、2018年、2021年 世界サーフィン選手権大会 代表監督
2021年 東京2020オリンピック サーフィン日本代表監督
<資格マニア?>
一級建築士、行政書士、宅地建物取引士、建築基準判定士
一級船舶免許、大型自動車免許、大型自動二輪者免許、スキー正指導員、
サーフィン公認指導員、A級ジャッジ 他
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