スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー第59回 白鳥歩さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、元女子ビーチバレーボール選手の白鳥歩さんです。

高校3年生の時、バレーボールからビーチバレーボールに転向し数々の大会で活躍、日本体育大学から日本体育大学大学院に進み、修士課程で学びながら日本体育大学のビーチバレーボール部のコーチを務めました。現在はアメリカで指導について学ばれています。

日本のビーチバレーボール、ひいては日本のスポーツがどうあるべきか、明確な目的と方向性をお持ちの白鳥さんのお話を3回にわたってご紹介します。

(2025年1月 インタビュアー:松場俊夫)

▷ 現在はどのような活動をなさっていますか?

現在、アメリカの指導を学ぶために、アメリカのビーチバレーボールのクラブチームにお世話になっており、その練習に毎回参加させていただいています。今回のアメリカでの一番の目的は、現場のコーチングはもちろんのこと、アメリカではジュニアからシニアまでの育成のパスウェイがどのようになっているのかを学ぶことです。かねてから気になっておりましたので、ナショナルチームのデベロップメントの担当の方にもお話を伺おうと思っています。

▷ 日本と最も異なるのはどのようなところでしょうか?

アメリカはとにかく試合が多いです。コーチングについては、このところ日本でも発展してきていて素晴らしいコーチングも多いので、現時点で大きな違いはそれほど見つかりません。ですがこちらは本当に試合が多く、ゲーム形式で練習することが多いです。選手が若いので競わせているのかもしれませんが、毎週やっています。そこが日本との違いを一番感じるところです。

そもそも日本とアメリカでは競技人口の規模が違います。今は、背景や文化が異なる中でどのように違いを見つけていこうかと思っているところです。

▷ 日本ではインドアのバレーボールからビーチバレーボールに転向する選手がほとんどだと思いますが、アメリカはどうでしょうか?

アメリカでは、ビーチバレーボールの試合に出ている選手がインドアバレーのクラブチームに所属していたり、その逆だったり、両方やっている選手が多いです。環境なのでしょうか、そこが日本とは違う点です。

▷ ジュニアからカテゴリーが上がっていく時のコーチ間の引き継ぎや情報共有はどのように行なっていますか?

まだ掴めていないのですが、意外なことにシステムにはなっていないように見えます。というのは、個人の選手の集団としてチームが成り立っていたり、クラブチーム自体が強化の場所として成り立っていたりするので、協会が何かするというよりも各個人で強くなっていく仕組みがあるように見えます。また、日本ではあまり感じないことですが、クラブの中にもクラブ同士にも常に競争があり、色々なところで選手の行き来もあります。

▷ 競争の中で去っていかなければならない人もいるのでしょうね。

クラブチームのコーチが言っていたのですが、良くも悪くも競争ばかりなので、上に上がっていけない選手をわざわざ拾うことはしていないようです。その選手がより上を目指さないのならそれで終わり、ということで。他にも選手はたくさんいますからね。

▷ そういう意味では、競技力を上げることが目的で、人間的な成長に関わるようなコーチングはあまりないのでしょうか。

そこがまた面白いところで、どのカテゴリーにおいてもコーチングのやり方がそもそも選手を人間として成長させるやり方です。選手に対してはポジティブなことしか言いません。選手ができたことについて必ずコメントしますし、うまくいかない時はアドバイスしています。先日、一人の選手が練習前に「私これはできないかもしれない。下手くそだから」と言ったところ、コーチがすかさず「それは違う。ミスしてもいいからやりなさい」と言い、選手ときちんと話をしていました。

見た目には競争ばかりのように見えますが、そもそものコーチングが成長させるような声かけや問いかけを必ずしています。練習の最初と最後には必ず今日のミッションを明示しています。例えば「ミスをしてもいいからやってみる」というチームのビジョンを読み上げて、パートナー同士でどこが良かったか話し合うようなことを常にやっています。あくまでも選手を人間として成長させることが基本、それが当たり前のことです。これは日本ではあまり見たことがありません。

こちらのコーチは選手の失敗に対してもあえて言及せずに「I like it!」と言ったりしています。「なぜそれをやったんだ?」と追求するようなことはありません。日本人から見たら、凡ミスだったり話を聞いていなかった上での失敗だったりするのですが、それについて何か言うようなこともありませんね。

▷ その練習シーンを初めて見た時はどのように思いましたか?

私が大学院で勉強したコーチング学にすべて当てはまっているとまず思いました。でも驚きではありませんでした。そうしなくてはいけないことですし、選手がよくなるために必要なことですから。でもそのような現場は見たことがなかったので、必要なことを本当に実践している現場を見て非常に勉強になりました。

▷ 大学院で学ばれたり、メンタリングを学ばれたりしている白鳥さんですが、意欲的な学びのモチベーションはどこにあるのでしょうか。

動機は二つあります。一つは、人生の全てが競技になってしまい苦しむような思いを選手たちにさせてはならないと思ったからです。私自身選手の時には人生の全てが競技でした。競技がうまく行かないと生活も暗くなりますし、負けたのは自分が良くないからだというマインドになってしまい全然楽しくなかったです。競技は好きでしたし、競技をすることも好きでしたが、人生の全てが競技になってしまっている自分がとてもつまらなかったし苦しかったです。でも大学院に進んだことで視野が広がり、競技は人生の一部なのだと初めて気づきました。もっと勉強して、つまらない思いをする選手が一人でもいなくなればいいと思いました。

もう一つは、コーチ自身が学ばなければいけないと思ったからです。選手はコーチがいてトレーナーがいて、ビデオを撮って動作分析したり、動画を見ながら自分でフィードバックしたりしますよね。でもコーチはそうしたことをしていない。自分のコーチングの映像を撮って確認しているコーチを見たことがない。選手はやっているのに、コーチは誰にも教わっていない、誰にもフィードバックされていない、トレーニングもしていない。コーチは自分が悪いことに気づいていない。これはフェアじゃないと単純に思ったのです。ですから、自分がコーチになったら常に誰かに見られていたり、フィードバックをもらえる環境が必要だと思いましたし、もしそれが難しいのなら学び続ける姿勢だけは絶対になくしてはいけないと思いました。

実際に、私のコーチングを録音したり、大学院の先生に見てもらってフィードバックをもらったりもしました。それはそれは心が痛くなるようなものでした。私の場合は、質問は多いのにアドバイスが少なすぎると言われました。選手が求めているものに対してコーチは答えなければいけないと。以来、気をつけています。

メンタリングを学んだのは別の理由からです。大学院で勉強しながら大学のコーチをしていた時、選手と1対1で話す状況が必要だと感じました。実際に1対1で話したことで、私が選手のことをより理解することができたため、選手へのアプローチが変わり、チーム全体の雰囲気が良くなりました。この経験から、もしメンタリングのスキルを身につければもっと選手のことを理解することができますし、選手のモチベーションも上げることができるのではないかと思い勉強しました。(中編に続く)

(文:河崎美代子)

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/59-2/

◎白鳥歩さんプロフィール

元女子ビーチバレーボール選手

東京都出身

日本体育大学卒業、日本体育大学大学院修了

<競技歴>

JOC強化指定選手(2018年~2020年)

全日本女子選手権大会 優勝2回

ワールドツアー最高戦績 5位

仁川アジア競技大会 5位

<指導歴>

【日本体育大学ビーチバレーボール部 監督】

全日本大学選手権大会 優勝2回

【ビーチバレーボールアンダーカテゴリー監督】

U19アジア選手権大会5位、世界選手権大会出場

世界大学選手権大会19位

<その他>

2022年~2024年

スポーツ庁委託事業女性エリートコーチ育成プログラム特別研究員