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リレーインタビュー第36回 徳永剛さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。

今回は、日本ラグビーフットボール協会 男女7人制(セブンズ)のナショナルチームディレクター 徳永剛さんにお話を伺いました。

宗像サニックスブルースでスクラムハーフとしてご活躍の後、高校の教員としてラグビー部の指導に当たられました。その後、選手時代にもラグビークリニックでの指導を続けられてきたキャリアが評価され、アカデミーの指導に関わることになったのだそうです。

ご自身の経験から「ラグビーの楽しさ」を選手たちに伝え続けている徳永さんのお話を2回にわたってご紹介します。

(2022年3月 インタビュアー:松場俊夫)

▷ 現在はどのような活動をなさっていますか?

昨年末から、男女7人制のナショナルチームディレクターとして活動させていただいていますが、それまでずっと女子のセブンズの育成活動をしてきました。セブンズがリオオリンピックの正式種目になったのを機に、2006年ぐらいに男女のセブンズユースアカデミーができ、そこで女子を中心にコーチとして育成を担当していました。

私自身、元々、ジャパンラグビートップリーグの宗像サニックスブルースに所属する選手だったのですが、引退して高校の教員になりました。その頃、機会があってセブンズのユースの育成を図ってもらえないかと声がかかり、日本ラグビーフットボール協会と関わるようになったという経緯があります。2018年、東京2020に向けて協会からぜひ力を貸して欲しいという依頼がありましたので、高校の教員を一旦休んで、福岡市から協会への派遣という形で現在活動しています。

2019年頃からは、女子の日本代表の育成を続けながら、男女のT I Dディレクターとして育成世代の選手からトップ選手までのパスウェイを作っていく仕組みにも関わっています。女子のセブンズは、東京2020の結果が12チーム中12位、つまり最下位だったのですが、オリンピアンとして出場した13人中12名がセブンズユースアカデミー出身です。ずっと育成に関わってきたことを評価されたのかどうかはわかりませんが、東京2020が終わった時点で、ナショナルチームディレクターとして、今度は全体の強化担当になってくれないかというお話をいただき、現在は今までやってきた仕事に加えて、トップチームの強化現場にも関わっています。

▷ 13人中12人がアカデミー出身とは素晴らしいですね。

親心と言いますか、自分が発掘したり、アカデミーで育成したりして、中学生の頃からずっと関わってきた選手たちがオリンピックに出場できたのは嬉しいですね。13人中12名と言いましたが、あとの一人の選手はラクロスからの種目転向者なんです。かなり力を入れて育成してきた選手なのですが、オリンピックが1年延期になったおかげもあって、競技を開始して2年半ぐらいでオリンピアンになりました。その選手にはつきっきりでアプローチして、練習に参加させたりマンツーマンで合宿に参加させたり、といったことを繰り返してきたことも功を奏したのでしょう。これもT I Dディレクターとしての仕事でした。

▷ 種目転向する人に対してはどのようにアプローチされているのでしょうか。

まず、意欲がない人は難しいです。日本スポーツ振興センターのJ-STARプロジェクトで、全国からエントリーしてきた選手には、興味のある競技にチェックをつけてもらっているのですが、ポテンシャルの高い選手でも、ラグビーにチェックが入っていない場合は、私たちがピックアップしてやらせても続きません。ほとんどの選手が種目転向でラグビーをやってくれますが、ラグビーにチェックを入れていない選手は途中でやめてしまいます。私たちもまずラグビーの楽しさを伝えることから始めるようにしているのですが、なかなか難しいですね。

それからセブンズとしては、発掘のポイントとしてスピードを見るようにしていますが、長期的には意欲や人間性が必要になってくるのは間違いないです。ラグビーにはラグビー憲章というものがあるので、そうしたマインドを持っているかどうかを特に意識しています。

(※ラグビー憲章 https://www.rugby-japan.jp/future/corevalues

▷ 中には、ラグビーにチェックをつけていても途中で止めてしまう選手もいたと思います。伸びる選手とそうでない選手の違いはどのようなところにあると思いますか?

強い動機があるかどうかでしょうか。若い選手にそれを求めるのは早いかもしれませんが、上手くなりたい、代表になりたいといった強い動機がないと続かないと思います。ですから、私がラグビーをコーチングする上では、選手を夢中にさせられるかどうかを一番に考えています。自分がやっている競技に対して一生懸命になれるか、楽しくやれるか、そこが大切です。

ラグビーがやりたいと手を上げていない選手ですと、ラグビーでなくてもとにかくオリンピックに出たいといった動機がないと難しいのではないでしょうか。ラクロスから転向した選手の場合、お兄さんがラグビー選手という家庭環境がありました。ラクロスで初めて海外のプロ選手になれる可能性もあったのですが、ラグビーのポテンシャルがあると彼女に話した時に、ラクロスのプロになるよりもオリンピックに出たいという気持ちがあり、勤めていた会社も退社したんです。そうした覚悟のようなものを感じて、私たちも一生懸命やらなければいけないという気持ちになりました。

▷ 選手を夢中にさせたいというモットーを持ち始めたのはいつ頃ですか?

高校の教員をやっていた時、ラグビー部を受け持ちました。私がその高校に赴任した時、確かラグビー部があったはずだと思っていたのですが、他の先生に聞いても中途半端な答えしか返ってこないのです。実はラグビー部はあるのに部員がいなかったのですよ。部員は1人いましたが、ラグビーができないので陸上部に移っていました。そこで、その子を口説いてラグビー部に呼び戻し、4月の部員勧誘から始めました。

結局15人も揃いませんでしたが、とにかく早く試合がさせたいという思いがありました。タックルの指導など私は一生懸命やっていたつもりだったのですが、彼らとしては、コンタクトスポーツなどやったことがないのに急にきついことをやらせられたと思ったのか、みんな辞めてしまい、最初10人ぐらいいたのですが3人になってしまったのです。これではうまくいかないなと思いました。

私自身がラグビーを始めて最初に出会った指導者のどこが良かったかを思い出してみると、毎日楽しくやらせてくれていたということでした。単純なことかもしれませんが、「オーストラリアがやってるんだぞ」という練習をさせてくれたり。やはり、ラグビーを楽しませないと上手くならないのですよね。それまで、勝たなくてはいけないという世界でやってきましたが、まずは楽しさをわからせなければいけない、夢中にさせなければいけないと思うようになりました。

今は代表チームをコーチングするにしても、育成のプログラムを作るにしても、甘えさせる意味ではないのですが、選手たちが「ここにきてよかった」と思えるような、夢中になれるような展開がさせたいですし、トップチームには世界と戦うワクワク感を常に持ちながらチャレンジしてもらいたいと思っています。

©︎JRFU

▷ 高校のラグビー部の監督が最初の指導者体験ですか?

教員になる前、宗像サニックスにいた時、私はプロ選手ではなく社員選手だったので、業務はチームが持っているスポーツ財団の勤務でした。宗像市の小学校でのタグラグビーなど、年間何千人も指導するということを仕事としてやっていたこともあって、チームがやっているラグビークリニックは全て私の担当だったのです。セブンズのアカデミーに関わることになったのも、そうした経緯から私が適任だと判断されたからなのではないかと思います。本格的なコーチングキャリアはそこがスタートです。(後編に続く)

(文:河崎美代子)

後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/36-2/

◎徳永剛さんプロフィール

1980年 福岡県出身

日本スポーツ協会公認コーチ(ラグビーフットボールコーチ3)

日本ラグビーフットボール協会公認 S級コーチ 

World Rugby Coach Level 3 

World Rugby Coach Educator

<選手歴> 

ポジション スクラムハーフ

1996年度-1998年度  大分舞鶴高校

1999年度-2004年度  福岡大学/大学院

2005年度-2009年度  福岡サニックスブルース

(現 宗像サニックスブルース)

<指導者歴>

2012-2017  女子セブンズユースアカデミーコーチ

2014     第2回ユース五輪(南京)男子セブンズユース日本代表 監督 

2016     アジアラグビーU20男子セブンズシリーズ 

U20男子セブンズ日本代表ヘッドコーチ

2018-2019  女子セブンズ日本代表コーチ

2019-2021  男女セブンズTIDディレクター

2021-     セブンズ日本代表 ナショナルチームディレクター

<指導のモットー>

選手をどれだけ夢中にさせられるか

【関連サイト】

日本ラグビーフットボール協会

ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト

(J-STARプロジェクト)