「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、理学療法士・スポーツトレーナーの赤山僚輔さんです。
赤山さんは「全世界から慢性障害をゼロに」という志のもと、バレーボール、バスケットボール、空手などの選手・チームのサポートと、香川県のゲストハウス型リトリート施設「さぬきリトリート繋安芯堂」の運営を両立されています。心と身体のつながりの深さ・大切さについて、3回にわたってご紹介します。
(2024年1月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/51-1/
バレー男子日本代表チームドクターの荒木大輔先生という方がいらっしゃるのですが、昨年、その方と一緒に講演をする機会がありました。その時、男子代表のフィリップ・ブラン監督の「いかに自分のコートにボールを落とさないようにするか、ではなく、いかに相手のコートにボールを落とせるようにするかを練習する」という言葉にハッとさせられました。手前に落とさないようにすると、ミスをしないように注意することに意識が集中してしまいます。でもバレーは点の取り合いですから、いくらミスをしないようにしても、点を取らないと勝てません。ですから、いかに相手コートに数多くボールを落とすかをテーマに練習のメニューに取り入れているのだそうです。
日本ではどうしてもディフェンスの練習が多くなりがちですが、今の日本の男子バレーは、攻撃のバリエーションなどが複雑になり面白くなってきているので、いかに点を取るか、そこにフォーカスしていければいいなと思いました。プロバレーコーチの三枝大地さんも、点を取られた後、0.1秒でも早く次の準備をするといったコーチングをしています。「なぜあの時そうなった?」ではなく、点を取られた瞬間に「次に点を取るために何をするか」を考えなければいけないというものです。
ボディコントロールでいうと、地に足をつけてディフェンスの体づくりをする方が、ディフェンスが上達してやりやすくなり、再現性が高く変化が大きいです。でも、いかに点を取る準備をするかが重要で、「ジャンプして空中で」という動きの難易度は高いものの、そこをもっと研ぎ澄まさなければなりません。
よく使われる表現に「ピンクの象をイメージしないでください」というものがあります。人間の脳は〇〇をイメージしないでくださいと言った時にはすでに〇〇をイメージしているので、否定形で表現しても逆効果になることがあるのです。これは皮肉過程理論と言って、実際に実験され検証されてもいるのです。私はその通りだなと思います。(※https://ja.wikipedia.org/wiki/皮肉過程理論)
また、主語を理解できないという性質もあります。(※正確には大脳新皮質では、理解できるが大脳辺縁系では理解できない。)「あなたのことを嫌いです」と言っても、「あなた」を認識せずに「嫌い」という感情の方が強く出ている場合、それは自分のことも好きではない、嫌いと脳が誤認するということもあります。私は、何々をしないようにする練習ではなく、何々ができるようにする練習を常に心がけています。例えば「怪我をしないようにする」というのは、怪我に対して恐れがあるわけですが、怪我はないのが前提です。ここ10年ほど、そうした方法でいかにパフォーマンスを上げるかに取り組んでいます。
私は以前、治療院で施術やトレーニング指導をしていたのですが、治療院に私たちが常駐するのは不調を感じる人が存在することが前提になっています。もちろん世の中には不調を感じる人がまだまだいるので治療院は必要なのですが、不調の人がゼロになっている未来、慢性的な腰痛や肩こり、頭痛や自律神経の問題などがない未来では、治療院は治療という役割においては不要です。そうなると、治療院に常駐する人がいたり、そうした店舗の繁栄が目的になると、不一致が起きてしまいます。ですが、私たちが作ったゲストハウス型リトリート施設では、不調を感じていない人とも関わることができます。そうした人にも潜在的に不調の素因はありますので、その素因を共有し、生活の中で未然に不調を防ぎ、治療に行かなくてもいい未来のイメージを持ってもらえるように関わることが、今の生活で一番大切にしていることです。
この言葉と出会ったのは2013年だと思うのですが、潜在意識を扱う施術の方法を学ぶ中で、講師の方から教えていただきました。その方からは「自分の体が不調だと相手の情報をバイアスなくキャッチすることができないので、自分の軸を整えたり、軸がずれる要因を整理する鍛錬をしなければいけない。施術の技術だけを磨いていてはダメだ」と伺いました。また「頑張らないことも大事だ」とも。それまで私は背骨が硬く、居心地の悪い身体だったのですが、講師の方に解放していただきました。その時、自分の心の部分、自分が潜在的に抱えている葛藤のようなものの扉を開けてくださったような感じで、肩の荷が降りるというか、身体というのはこれほどまでに楽になるのだという経験をしました。
実は、私はとにかく一番になりたい性分なのですが、にも関わらず、ことごとく一番になれないという過去があったのです。これはスポーツだけではありません。私は自分の「僚輔」という名前が好きなので、みんなに「リョウスケ」と呼んで欲しかったのですが、中学では一番人気のあるサッカー部の子に、高校では野球部のエースで4番の子に「リョウスケ」という同名の同級生がいました。結局ずっと同級生には「赤山」と名字で呼ばれています。
そんな性分はその後も変わらなかったのですが、その講師の方に「赤山さん、あなたはすでに理学療法士でアスレティックトレーナーで、潜在意識を扱うテクニックが使える、このテクニックが使えるPT/ATの人は、いま日本で赤山さんしかいないですよ。すでにスペシャルじゃないですか」と言われました。私はそれぞれの業界で一番にならないとダメだと思っていたのですが、「あ、そうか。合わせて一本でいいんだ」と気づかされました。もう自分は特別な存在なのだと思った瞬間、胸と背中にあったつっかえが一気に解放され、気持ちが楽になりました。
また、講師の方から「行住坐臥をどのように体験できるかどうかが、潜在意識の治療法の精度を上げることにつながる」と伺い、自分も徹底的に行住坐臥を体現して、精度を上げ続けていこうと思いました。気づきは、寝ていても歩いていても何をしていても無限にあります。厳しい修行だけではなく、笑ったりお酒を飲んだりリラックスすることも広い意味で言うと自分のためになります。自分の心と身体を大切にする、それが施術の効果や指導のクオリティに関わるのだと分かってからはあまり肩肘張らずに鍛錬はできているように思います。
「行住坐臥」を頭で理解してからは、「やらなければいけないが、頑張りすぎないことも必要」という振り幅を持ちながら、自分のことを俯瞰できる精度が上がっていき、同時に成果も上がっていきました。
特に、2016年に専門誌の「トレーニングジャーナル」に出たのがきっかけで、各地でセミナーをする機会が増え、バレーチームとの関わりにつながりました。ホグレルという会社で何度もセミナーをさせていただいたのですが、プロコーチの三枝さんが興味を持ってくれて、2017年にセミナー主催者の計らいで一緒に飲みに行ったことをきっかけに練習の見学に行き、考え方や指導方針に本当に感銘を受けました。その時にディスカッションしただけで、前任の方が職場の都合でサポートできなくなるタイミングで「1ヶ月ぐらい海外に行くことは可能ですか?」と声をかけてくれたのです。最初は驚きましたが、三枝さんほどの指導者と一緒にできる機会はなかなかないことですし、「これは人生の岐路だ」と思い、2018年の春からサポートをさせていただくことにしました。点と点がつながり、ご縁があり、重苦しくなく、誰でも等身大でこんなことを体験していけたらもっとみんなハッピーになるのにと思います。
正直、オファーをいただいた時にはバレーのサポートは未経験ですし、身に余ると思ったのですが、三枝さんは「できる」と見てくれているのだなと思いました。例えば、女子バスケ実業団チームのサポートで3シーズン慢性障害ゼロで終えたという事実がありましたし、その頃サポートしていた高校の空手部が2017年に初めて組手団体日本一になり、怪我ゼロで競技力が上がるという実績もありました。周囲からの反応を通して、自分の技量を再認識したような気がします。そのような「背伸び」を「等身大」に持っていくための準備をここ数年ずっとやっている感じです。
「あれ?また同じような葛藤がある。でもこれは数年前の葛藤とは全然違う」、まさにスパイラルアップですね。スポーツトレーナー団体JARTAのカリキュラムでも、このスパイラル構造を用いて指導しています。世界で勝負するチームのサポートをする上での葛藤も、子供や家族がいる上での葛藤も、これで良しというものはありません。「行住坐臥」自体、終わりがないことを前提に表現されている言葉なので、「終わり無しありき」でやっています。
私はよくルービックキューブに例えています。一面だけを赤色に揃えるのは簡単ですが、六面全部揃えようと思ったら、揃っている一面を一度解体しなければなりません。多くの人が解体を恐れますが、「破壊無くして創造なし」です。破壊を無効化のイメージで捉える人が多いのですが、ルービックキューブの最初に揃った一面だけでは、六面揃えるための一部であったということになります。仮に六面揃ったと思ってもまだ一面しか見ていなかった、というふうに認識して解体してやり直して、という繰り返しです。つまり、どのフェースにいるかということが重要なのです。
私は、「揃ったな」と思い始めた時には自分で視座を上げることがあります。コンフォートゾーンにいると思ったら「やばいな」と危機感を持ちます。そんな時には、会ったことのない人に会いに行ったり、叱咤激励してくれる人に話を聞きに行ったりします。慢心は怖いです。例えば、空手の組手は2、3分の試合ですが、残り1秒で逆転されることがあります。逆転された選手はあと1秒の時に、自分は勝ったと思ってしまっているのです。ですから私は「試合は終わるまで終わりじゃない」とよく言います。それは勝負の世界だからこそ見えてくるものです。(後編に続く)
(文:河崎美代子)
後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/51-3/
◎赤山僚輔さんプロフィール
理学療法士
(財)日本体育協会アスレティックトレーナー
(株)JARTA international 統括部長 SSランクトレーナー
WINメディテーション公認プランナー
睡眠健康指導士
(株)JARTA international 統括部長
日本オリンピック委員会強化スタッフ
香川県バスケットボール協会医科学委員
香川県空手道連盟専任コーチ
■主なサポート
バレーボール女子U16/17,U18/19日本代表
(2018年U17アジア選手権優勝|2019年イタリアW杯優勝|2022年U18アジア選手権優勝|2023年U16アジア選手権優勝|2023年U19世界選手権4位など)
香川県国体成年男子バスケットボール
(2017年国体3位など)
高松商業高校サッカー部
(2017/2018/2021年全国高校サッカー選手権出場、2018/2022年インターハイ出場など)
香川県国体空手道選手団
(2018年国体組手団体2位、2019年国体組手団体優勝、2023年国体組手団体3位)
高松中央高校空手道部
(2019年/2021年/2022年/2023年全国選抜女子組手団体優勝、2023年インターハイ女子組手団体優勝、2018年全国高校選抜男子組手団体優勝、2017年/2019年/2023年インターハイ男子組手団体優勝)
パーソナルサポートにてプロサッカー選手、プロバレーボール選手、競輪選手など
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