「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、法政大学第二高等学校(法政二高)バスケットボール部の鈴木恭平監督にお話を伺いました。
高校卒業後、体育の指導者になるために日本体育大学に進み、大学在学中に母校である法政第二中学校バスケットボール部の監督になり、法政二高バスケットボール部のコーチを経て2004年から監督を務められています。
最初は生徒たちにとって「ヤンチャなお兄さん」だったという鈴木さん。その後、インターハイ出場を狙う厳しい監督に変身したものの現在は…?鈴木さんのインタビューを3回にわたってご紹介します。
(2023年7月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/47-1/
中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/47-2/
私たちのクラブは自分史上最高を目指す場として目標を定義しています。その考え方でいくと、我々は、将来日本代表やプロ選手になりたい、全国レベルを目指して高校までの選手生活を全うしたい、高校からバスケットボールを始めて少しでもバスケットを上達させたい、と様々なレベルの生徒を受け入れますが、目指したい到達点はそれぞれ違っていて良いのです。ただ、このようにレベルや動機で区別してそれぞれが活動するだけのクラブですと、塾やスポーツスクールと変わりません。やはり学校教育の一環としてクラブが存在する以上、チームメイトとの一体感やチームに対する帰属意識を持って卒業してもらいたいという方針があります。ですから、バスケットボールに関しては自分のレベルに沿って活動しても構わないのですが、「チーム作りに関わる」、最上級生になったら「チーム作りの主体者になる」ということだけは入部の条件にしています。
このように運営していくと、下手だからダメ、上手だから偉い、といったバスケットボールの実力で発生する、よろしくないヒエラルキー構造は生まれにくくなってきます。ですから例年、Aチームの試合のシーズンでは、Bチームが相手チームのスカウティングをしたり、自主練習の手伝い、また、後輩達の練習を統括するといった運営を率先して行ってくれています。一方、Bチームの試合では、応援やオフィシャル、練習相手などにAチームが関わってくれます。このような関係性を後輩達が1年生の時から見ていくと、はじめは上手い、下手で人を見ていたのが、人間性で人を見るようになり、トップチームに上がれなくても、バスケットをする場があり、自分が輝ける居場所があるチームなんだと、組織の心理的安全を確保できるのではないでしょうか。
ただ、ABと分別するのは私の役目で、自分では選べません。自分にとって不本意な立ち位置にいる選手も当然たくさんいます。しかし、そういったジレンマや苦悩こそが、自分と向き合い、自分を知る機会になり、学生のうちに何度ももがきながら過ごす修行のような経験を「青春」というのだと思います。そうやってもがいて辿り着いた先に、人と比べて優れている、劣っている、持っている、持っていないということではなく、自分史上最高を目指して自分でそうなれたと感じることができるようになることが「幸せ」の定義なのではないか、と気づいて欲しいですね。
正直なところ、これまでのチーム戦績を今後どれだけ上げていけるか、ということのために、寮や留学生、特待制度や入学制度などの環境を整えたり、方針を変えていくことは考えていません。ただ、本校に入学できる成績と経済力があって、トップレベルの選手が運良く集まれば、もちろんこれまで以上の戦績は目指しますし、そういった時が来たときのためにコーチとしての勉強はずっと続けていきます。しかし今の方針、やり方は変えません。私たちが行っているチーム作りは、それだけ価値のあることですし、人を育てていける自負があります。日本を代表するような資質のある選手こそ、我々の下で学んで欲しいと真剣に思っています。ですから今後もやることは変わらないですね。あとは、ここで学んだ生徒達が指導する立場になって、現場に帰ってきてもらえるように育てたいですね。日本一になった、という一過性の盛り上がりより、じわじわと全国に、世界に我々の価値観が広がっていくことの方が今は楽しみです。
また、私の年齢になってくると、さまざまな組織に関わらざるを得なくなるので、自分の熱伝導だけで全部やろうとすると自分が壊れてしまいます。ですから任せられる人が必要ですし、自分以外の人でもできる方法を作れればと思っています。
とは言っても、ある程度の階級のアップや結果がないと、人は何が大切なのかに振り向いてくれません。理想ばかり語っても全然勝てないとなったら、それは違うだろうということになる。ですから結果に対するこだわりは強めたいです。ベースとなる信念のようなものが多少固まってきたので、あえて子供のように、なんだかわからないけど勝つんだ!みたいに、振り切ってやってみるのも面白いかな、という気持ちもあります。
私の座右の銘で、かつ生き方の目標は、「偶然を必然にしていく」ということです。成功しようが失敗しようが、起きたことを偶然と定義するならば、その先に「あのおかげで」と言えるように必然にしていくことこそが、人生だと考えています。私たち指導者は常に何かを目指し、勝つか負けるか、うまくいくかいかないか、という世界に生きています。ですから、1番にならない限りどこかで必ず負けることになり、自分を責める機会の多い仕事だと思います。だからこそ、良いことも悪いことも、起きたことを偶然と捉え、必然に変えていく過程こそが人生そのものと定義する必要があると思います。この考え方は挑戦に勇気を与えてくれますし、勝利至上主義による様々な弊害も減らせるのではないかと考えています。
それから、少しでも成功したことがある指導者の方々には、強い固定観念を持った方が少なくありません。強い信念が結果を生み出していることは間違いないのですが、こうでなければならないというmust論は、時代や選手の状況によって変わっていきます。選手のwantを汲んでいるのでは甘いという捉え方をする人もいますが、最強なのはやはりwantです。「こうなりたい、こうしたい」から始まらないと、迷ったときや苦しいときに何のためにやっているかわからなくなってしまいます。「こうしなければならない」でやり続けて行き詰まると戻るところがないと思うのです。また、指導者のmustが強いと、生徒たちに「どうしたい?」と聞いてもすぐに「こうしたい」とは返って来ないケースが多々あります。ですから、活動していく中で選手から何らかのwantが出た時は、それを拾ってあげる必要があると思います。
そもそも、今の子供たちはwantよりmustで生きることを求められている気がします。自分は何がやりたいのかなんて考える暇もなく、親や社会が敷いた軌道に乗せられている感じです。軌道に乗せられて結果が出て大人が喜んでくれることだけがモチベーションになっているケースが多いのです。ですから、近年の指導では、選手の本当のwantを引き出す、気長に待つ必要性を感じています。
私は、生徒が書くノートに明日やることとして必ず5W1Hを書かせるのですが、「6Wだよ、最初はwant」と言っています。wantがあることが前提で、そこにwhoやwhyやhowがある。その過程ではうまくいかなかったり、時間がかかったりしますが、wantがあるから壁を乗り越えたり続けたりできる訳です。当たり前の話ですが、現在の子達には、そのwantが無かったり弱かったりする現状があることを我々は見逃してはいけないと思っています。そして、指導者や親ではなく、生徒自らのwantを自らの手で実現するサポート、コーチングをすることが、指導者としてのwantであることを念頭に全国の指導者のみなさんと切磋琢磨していきたいですね。(了)
(文:河崎美代子)
◎鈴木恭平さんプロフィール
1977年:神奈川県生まれ
1996年:法政二高 卒業/日本体育大学入学
1996年~2004年:法政二中男子バスケ部監督/法政二高男子バスケ部A・コーチ
2004年~現在:法政二高男子バスケ部監督
JBA公認B級コーチ
JBAコーチデベロッパー
国体少年男子神奈川県代表監督
神奈川県U16チーフコーチ
神奈川県高体連強化普及委員長