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リレーインタビュー第48回 大金寛さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、法政大学第二中・高等学校水泳部顧問の大金寛(おおがねかん)さんにお話を伺いました。

法政二高、日本体育大学、日本体育大学大学院を経て、教員として母校に戻った大金さん。現在50名の水泳部の顧問を務めています。水泳好きの生徒からトップレベルの生徒まで、さまざまな関わり方をする生徒たちが集う水泳部をどのように率いているのか、大金さんのインタビューを3回にわたってご紹介します。

(2023年8月 インタビュアー:松場俊夫)

▷ 現在の活動について教えてください。

私はこの学校に入ってまずラグビー部の顧問を3年間、その後水泳部の顧問になってから6年になります。我が校の水泳部には、学校で練習している18名の学校練習組と、外部のスクールで練習している32名のスクール練習組があり、その2組が一つのチームとして活動しています。学校練習組は中学までは水泳以外の部活をしていた生徒が多く、中には4泳法(クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライ)を泳げない生徒もいます。一方スクール練習組には、インターハイで入賞する選手や国体の選手に入る生徒もいます。

▷ 大金さんが顧問になられた頃から水泳部は現在の体制になっていたのですか?

そのころから生徒たちのレベルは様々でした。水泳を一生懸命やりたい生徒とただ居場所が欲しいという生徒と。この二つのグループが完全にセパレート状態で、全く交流がなかったのです。別のグループの生徒と3年間一言も話していないという生徒もいたぐらいです。大きな大会に行っても、同じ部の生徒が出ていることを知らなかったり、そもそも別のグループには関心がないという状態でした。

そこで、個人競技ではありますが、とにかくコミュニケーションを大切に、人を大切にするクラブにしようと思いました。せっかくの3年間、短いようで生徒たちにとっては大きな3年間ですから、自分で選んだ競技を通して色々な人の感覚や性格を知って大学生になって欲しいと思いました。

▷ どんなところから始めましたか?

当時はミーティングすらあまりやっていなかったので、まずミーティングを開くところから始めました。私自身、水泳をしていましたが高3までは選手として、大学時代は4年間マネージャーを務めていたので、その経験からもまず生徒たちにベクトルを向けました。まずミーティングをして、その後は生徒だけでアイスブレーキングをしたりして、とにかくお互いに関わりを持ってもらい、お互いを知るところからスタートしました。

最初は生徒たちに戸惑いがあって、初年度は大変でした。「なぜこれをするんですか?」「意味なくないですか?」と噛み付いてくる生徒もいました。今やっていることにどういう効果があって、この時間には果たして意味があるのか。当校は勉強ができる生徒が多いので、そういったことに価値を見出さないと動かないという面がありました。

そこで、生徒対生徒、生徒対私という関係性を作ろうと思いました。マシュマロタワーやペーパータワーというものがありますが、シンプルにお互いがお互いを知ることのできるゲームをやったりして、競技で上に行きたい生徒と居場所が欲しい生徒の「時間の共有」を最も大切にし、その中から生まれてくる人間関係を大事にしていこうと考えました。

▷ 手応えを感じたのは何年目ですか?

3年目でしょうか。生徒同士、生徒と私との距離が近くなりました。バラバラだった男子と女子の距離も縮まり、大会での行動や応援のあり方に身が入るようになったという実感がありました。

本校水泳部は大会の応援に力を入れています。インターハイにつながる県予選に、大会に出られない生徒も応援に行きますし、逆にそうした生徒しか出られない大会には上位層の子が応援に行きます。それがずっと大切にしてきたことです。応援する、応援されるためには関係性が何よりも大切なので、そこを重視して日々活動しています。

でも当初はほとんど応援に来ませんでしたね。「なぜ僕たちは泳がないのに応援しなくちゃいけないんですか?」と反論する生徒が半分ぐらいいました。ですが一度会場に連れてきてしまえば自然と応援してしまうものなので、そちらに誘導して行きました。

▷ 「全員で」というところのハードルをどのように乗り越えましたか?

50名と人数が多いので、一人ずつフォーカスするのではなく全体を底上げしようと思いました。まず気になる生徒に個別に話をするようにして、どんな生活をしているのか、人となりを知ろうと思いました。「練習はどう?」「学校はどう?」から入り、その中で「今やっていることはどう?」と話を進めました。生徒から色々な意見や考えが出てきたら、「そこはこういう意図があって、こういうふうになるからやっている。そうならないと思っているのはまだやっていないから。一緒にやっていこう」と話しました。こちらに誘導するというより背中を押すようにしてきましたので、時間はかなりかかりました。

ただ、自分で何をするのかが明確な生徒はその方法で良いのですが、全ての生徒がそうではないですね。一部の生徒にとっては、水泳部はただの居場所なので「好きなイベントがあるんです」のように自分の好きなこと、やりたいことを優先させてしまうのです。そういった難しさはありましたね。

▷ ラグビー部と水泳部、指導方法はどのように異なりましたか?

私は水泳をずっとやってきたので、ラグビーはまさしくOne for All, All for Oneだと強く感じました。誰かが練習の段階でミスをしたり、最後のランでついていけなかったりした時には「もう一回行こう」とか「もう一踏ん張り」といった声が自然に出てくるのです。それは私がやってきた競技にはなかったので素晴らしいと思いました。これがチームスポーツなのだと驚かされました。私は中学生の担当だったのですが、中学生でもそれができますし、高校の練習からは多くを学ぶことができました。その経験が、真っ二つに分裂していた水泳部を任された時に非常に役立ったと思っています。

▷ 個人競技でお互いに応援し合うことでどのような効果があるとお考えですか?

応援されて結果が出る生徒もたくさんいましたし、応援されても結果が出ない生徒もたくさん見てきました。ですが結果以上に大切なのは人との繋がりや、自分に関わってくれたことへの感謝です。それは何かで測れるものではありませんが、応援してもらったこと、応援したこと、そこで頑張れた自分は大人になってから必ず力になると思うのです。

0.5秒の差でインターハイに残れなかった生徒がいたのですが、その生徒がミーティングで「応援してくれたのに申し訳ありません。でも応援してもらって人のありがたみをとても感じることができた大会だったのでまた頑張りたいです」と言ったのです。いいな!いいな!と思いました。悔しい思いもありがたい思いもその生徒の中に一生残るはずです。大人になった時にそういう時間があったということを胸に頑張ってほしいですね。(中編に続く)

(文:河崎美代子)

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/48-2/

後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/48-3/

◎大金寛さんプロフィール

法政大学第二中・高等学校 2009年度卒業

日本体育大学 体育学部体育学科 2009年度入学

                2013年度卒業

(大学4年間は水泳部に所属。4年間通してマネージャーを経験。)

日本体育大学大学院 スポーツ教育健康教育学系 博士前期課程

                       2013年度入学

                       2015年度卒業

(大学院では体育授業研究をメインに様々な小・中学校へ研究に赴く。研究領域は水泳の小学生に向けた教具の開発。)

法政大学第二中・高等学校  2015年度~ 非常勤講師

              2017年度   入職 

(入職後3年間はラグビー部顧問。その後、水泳部顧問として活動。)