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リレーインタビュー第31回 古海五月さん(中編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、バスケットボール男子日本代表チームマネージャー古海五月さんにお話を伺いました。

TOKYO2020で、バスケットボール女子代表が初の銀メダルを獲得したことは記憶に新しいことでしょう。古海さんも6年にわたり日本代表選手に選ばれ、4年間キャプテンとして活躍なさいました。共同石油、徳島の北島CR・クラブで輝かしい成績を残した後、引退され、スポーツ用品販売会社の経営、バスケットボールクリニックの主宰、さらにラジオのパーソナリティなど、活動の場を広げられました。2009年にはコートに戻り、JALラビッツコーチ、女子日本代表アシスタントコーチを経て、2014年、男子日本代表初の女性アシスタントコーチに就任されました。

選手たちの「ビッグママ」である古海さんのお話を前・中・後編の3回にわたってご紹介します。

(2021年7月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/31-1/

▷ 古海さんは、ある意味で人間力を指導する立場をずっととられているわけですね。

コートは戦場ですから、戦場に行くまでの心構えや準備は絶対に必要ですし、私自身もそのように指導されてきました。選手は日頃から100%でやっていないと試合の時にがんばれないものだと思うのです。日本代表チームには、一人の人間としても、誰も見ていない時でも一所懸命やれる、そうした練習ができるような集団であってほしい。人が見ている時だけ頑張るような表面的な人間力の集団では、日の丸をつけるのはおかしいのではないかと私は常々思ってきたので、選手たちの言動や行動に自分の中で許せないと感じることもあります。ですから、許し難いと感じた選手にははっきり言いましたし、バスケットボールの技術を教えるコーチ陣では気づきにくい、そうした点を指摘するというのが、ずっと私の役割だったのではないかと思います。

▷ そうしたことも含めて監督やヘッドコーチが指導するのは、やはり難しいということなのでしょうか。

色々な競技や仕事を選ぶ際には、必ず人とのめぐり合いがあります。そこにはコーチや指導者がいらして、例えば私たちの場合はバスケットボールによって人生を教えてもらったり、躾をしてもらったりしたわけです。ですから、今の指導者の方たちには、バスケットボールをやると同時に、きちんとした躾をしていただきたいのです。これは年配の私から若い方々へのお願いです。

今のようなネット社会になって、私たちの時代にはできなかったことができるようになりましたよね。NBAを見ることもできますし、世界各国の指導者の方たちの哲学も勉強できます。ですが、それらを勉強しただけで、良いコーチになるわけではありません。そこを勘違いしないでほしいですね。情報をたくさん集めたから良い指導者になれるわけではないのです。日本にはおそらく、私のように人間性の点を指摘するような方もたくさんいらっしゃると思いますので、そういう方々が増えればバスケットボール界はもっと良くなるのではないかと思います。

▷ 古海さんは女性として初めて男子チームにコーチとして入られたわけですが、今でも男子チームに女性コーチが入ることは多くありません。選手やまわりの方々は、当時、古海さんをどのように見ていたと思いますか?

選手たちは普通に見てくれていたと思います。特に困らされたこともありませんでしたし。ただ練習の後に、私がいる前で着替えを始めるのは困りましたね。大事なところは隠していましたけど(笑)。ですから、練習が終わったら着替えが終わる頃まで、一度体育館を出るように気をつけていました。

まわりから嫌な感じを受けたことも全くないです。私はこういう性格で、男子も女子も関係ないですし、どこに行ってもそういうことを考えたことはあまりないですね。

▷ 人と対峙する時に大事にしていること、ここだけは譲れないということはありますか?

人に会ったら、先に挨拶をするようにはしています。これは幼い頃から身についたことなのかもしれませんが、基本ですよね。先に挨拶しないと気持ち悪いのです。中には、年下や選手から挨拶をするのが当たり前と思っている人も少なからずいると思いますが、私は可能な限り、相手が誰であれ自分から挨拶はしたいと思っています。このことを感じ取ってくれる選手が、この中にどれだけいるのかなと挨拶する度に感じますが。

ナショナルトレーニングセンターに来られる指導者の中にも、私と知り合いなのに、私が常に仕事をしているテクニカルルームに挨拶に来ずに、練習だけやって帰る方がいます。私としては、知り合いなのだから「古海さん、来ました。お世話になります」から始まって、合宿が終わったら「お世話になりました。またよろしくお願いします」と言って帰ってほしいのですが、知り合いなのにそれを普通にできないコーチがいるのは残念です。

挨拶ができないから良い指導者ではないとは言いませんが、私にはそのように挨拶を交わした方たちと気持ちよく一緒にやりたいという気持ちがありますので、そんな方々ばかりだといいのにとたまに思います。バスケットボールは人生勉強の一つのツールであって、バスケットボールが上手だけど寂しい人間をつくりだしてはならない。それを伝える側はやはり大きな人間力を持ってもらいたいものです。

 選手と対する時に大切にしているのは、瞬時に選手の状況を把握することでしょうか。もちろん性格まで100%わかるわけではありませんが、常に選手たちに目を向けて、それぞれの情報はおさえるようにしています。今U19を担当していますが、13、4歳から見ていて、彼らがどういう子なのかは大体わかっていますから、選手一人一人に同じ対応はすることはないですね。個々の選手と話す時は、その子が何を一番話したいのか、何に一番興味を持っているのかを瞬時に捉えることが、コーチや指導者にとって大事なのではないかと思います。

▷ 最近の若い世代はコミュニケーションが苦手と言われていますが、コミュニケーションの質を高めるためにはどのようなことを意識すればいいでしょうか。

7月にU19のワールドカップという大きな大会に出場したのですが、今はコロナ対策がありますよね。本当は選手同士で練習の話や試合中の話を普通にしてくれれば嬉しいのですが、食事中はしゃべったらダメという指導をしているのです。選手同士の部屋の行き来もできるだけしないように、それでも用事がある時はマスクをして短時間で終わらせなさいと指導しています。そのせいか、大会に出ているのに選手たちがバスケットボールの話をしているという場面に遭遇しなかったのです。とても残念に思いました。

試合中も、私はこのようなハスキーボイスで、過去にコートで一番声を出したのは私なのではないかと思うぐらい声を出してきましたが、今の選手はコートで声を出さないのですよ。選手同士、叱咤激励する声も以前より少なくなっているように思います。

そういう意味では、日本の選手は外国の選手に比べて、プレーに関してある意味子どもなのではないかと思うのです。外国の人たちは食事中や日常生活ではとても気楽な感じですが、コートに入るといきなり大人になるのですよ。大事なことをしっかり伝えます。例えば、チームでやろうと決めたことができない選手に「お前何やってんだ」とかね。ところが日本人はそれが少ない気がします。チームのメンバーがルールを破ってもその場で怒らない。その場で解決しない。良くないことですが、後になって、あいつがどうのこうのと言うことすら、今の選手たちはないような気がするのです。少なくとも私は聞いたことがほぼないですね。もしかしたら、自分の相手は携帯電話だけという時代になってしまっているのかなと寂しさを感じます。

ですから今回も、ヘッドコーチが「お前たち悔しくないのか」「下を向かないで。失敗は失敗。前を向け」と盛んに言っていました。「前を向いて、向かっていけ」という指導がまさに当てはまるゲームもありましたし、傍から見ていて、この人たち本当に戦う気持ちがあるのかな、と思うようなゲームも何回かありました。「そんな態度なら日の丸をつける価値はない」とヘッドコーチが言いましたが、そう言われたらもっと喜怒哀楽をコートで出してほしいと思うのです。もしかしたら日常生活でも喜怒哀楽というものが少なくなっているのかもしれませんが。(後編に続く)

(文:河崎美代子)

後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/31-3/

◎古海五月さんプロフィール

長崎県出身

長崎女子高等学校卒業後、(株)共同石油(現エネオス)入社。

日本リーグ優勝3回、全日本総合優勝3回。

【受賞歴】

MVP2回受賞

ベスト5賞3回

敢闘賞

3ポイント賞

フリースロー賞

【日本代表歴】

6年間在籍中4年間キャプテン(選手)

アジア大会(選手)

アジア選手権出場(選手)

女子代表アシスタントコーチ

男子代表アシスタントコーチ

男子アンダーカテゴリーマネージャー

【その他】

国体2連覇

全国クラブ選手権4連覇

ラジオパーソナリティー

現在味の素ナショナルセンターバスケット専任コーチングディレクター

こども2人

日本バスケットボール協会