「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、全日本スキー連盟コンバインドチームコーチ山田和由さんにお話を伺いました。
一般にノルディック複合と呼ばれているノルディックコンバインド。1990年代は荻原健司さん、最近では渡部暁斗さんの活躍が知られていますが、山田さんが現在、主に指導されている女子種目はまだ五輪種目になっていません。しかし女子選手たちは世界選手権やワールドカップなどでトップに立つことを目指し日々トレーニングに励んでいます。
山田さんは中学生の頃から選手として活躍し、現役引退後、指導者に転向されました。学生時代に専従の指導者が得られなかったというご自身の経験から、選手とのコミュニケーションを最も大切にしているという山田和由さんのインタビューを3回にわたってご紹介します。
(2022年9月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/41-1/
中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/41-2/
2030年には私も引退の時期になりますから、指導スタイルは変えずに、若手のコーチの育成をしつつ彼らに若い選手の指導を引き継いでいきたいと思っています。でもすぐに全てを引き継ぐ訳ではなく、裏方に回ってでもサポートはしていきたいです。金メダルを見てみたいですからね。
私が大学に入った時、同じ学科の4年生に荻原兄弟がいらして、健司さんがそのシーズンのアルベールビル五輪の代表に決まったので、ユニフォームを見せてもらったりしていました。そのシーズンが始まった12月、いわゆるV字飛行をしなければ金メダルには届かないから一緒にやってみようと健司さんに誘われました。でも「とにかくスキーの先を逃してやるんだ、開きすぎると転ぶぞ」という程度のヒントしかなく、やってみたら開きすぎてしまい恐怖を感じて急いで閉じたら転倒してしまいました。私は何度やってもできなかったのですが、健司さんはどんどん自分のものにしていきました。そして団体で見事金メダルを獲得。やはりチャレンジしないとダメだなと思いました。健司さんは次のリレハンメル五輪でも金メダルを獲り、その姿を近くで見させてもらっていたのですが、今携わっている選手が金メダルを獲る姿を近くで見られる場所にいたいと思っています。
渡部選手の言葉を借りると、ワールドカップは1シーズン30弱の試合があるので波があっても総合優勝が可能ですが、五輪や世界選手権は日程が決まっているのでその日にピークが来ないと勝てません。特に五輪ではチャンスも状況も味方にした選手がメダルを獲るのでしょうけれど、一番高い山にピークを持っていくこと、そこに合わせて調整していくことが必要です。
五輪は周りの環境も他とは違いますし見えないプレッシャーがあります。ソチに帯同した時、雰囲気が違うと感じました。私はそれに影響されないよういつも通り選手たちに接するようにしましたが、選手たちの気持ちは私には計り知れないものがあるのだろうと思いました。
私が現役だった頃は、荻原健司さん、阿部雅司さんのようなスーパースターがいたことが注目度に影響を与えたと思います。それから約20年、渡部選手が出てくるまでなかなかスター選手が現れませんでした。スターがいてこそ、ビッグイベントで優勝してこそ、注目してくれる方が増えるのではないかと感じています。
今はSNSなどを使ってアピールをしていくことも必要だとは思いますが、メディアに取り上げてもらってこの種目はこんなことをしているのだということを広く伝えていただきたいです。
選手たちの頭の中には自分がこうなりたいという理想があると思いますが、自分の型を破ろうと挑戦している選手、自分の型を変えられる選手は伸びるという印象があります。また、ジャンプやクロスカントリーといった専門的なことだけではなく様々なトレーニングを続けている選手は、それが成長につながると考えているのだと思いますが伸びているように感じます。私も色々なトレーニングを紹介しているのですが、やってみた時は楽しかったけどという選手、お金がかかるからやらないという選手のトレーニングは単調なものになってしまいます。単調なトレーニングばかりしている選手は工夫ができず、アイデアがなかなか浮かびません。いつもと同じ場所で同じことをやっているだけでは、頭の中ではイメージできていてもそれが実際の形になりづらいのです。
また私が何かを言った時、その時の返事は良くても、時間が経つと返事だけでわかっていない選手が、若い選手の中にちらほらいるのがわかってきます。ですから、この練習にはどんな効果があるのか、どのように技術の改善につながるのか、弱みをなくすためにはどんな練習が必要かといったことをより細かく指導するようにしています。
すぐに殻を破ることは難しいので、まず理想の形と現在の形を確認し、目標に近づくためにはここを変える必要があるということを伝えます。そして様々な局面から変化を与えながら効果のあるポイントがあればそこを強調して背中を押していきます。
ジャンプもクロスカントリーも傾斜がある中で行うわけですが、傾斜のない地面でもできるのが基本です。中には陸上ではできないのにジャンプが上手く飛べてしまう選手もいて、それぞれ色々なスタイルがあるのですが、私が理想とする形は常に伝えるようにしています。
私が現役だった頃、明日のトレーニング内容が決まっていないことがありました。五輪に出たいという長期の目標があっても、明日のことが決まっていないのでは実現は難しいです。心理学で心理的局面にも長期の目標と短期の目標があるということを学んだので、明日の目標を日々クリアすることで、今週、今月、さらに今シーズンの目標をクリアしていくように指導しています。段階的に目標設定をし、1ヶ月トレーニングをしてできなかったからそれを取り返すのではなく次の目標をクリアするように言っていたのですが、どうしても取り返そうと頑張ってしまい、オーバートレーニングになってしまう選手もいます。そこのコントロールはなかなか難しいです。
また、選手は若い女性なので我慢をさせないようにしています。ジャンプは軽い方が圧倒的に有利なので甘いものを我慢して減量する選手もいるのですが、まだまだ成長期です。栄養バランスを崩さない程度に好きなものを食べて飲んでもいい、我慢するのはやめようと言っています。大会で上手くいった時やイベントの時にはケーキなどを食べる選手もいますが、毎日の食事では気をつけているので体重が増えることはありません。
就寝時間も大切だと思います。選手の毎日の体温や血圧などをチェックできるようになっているのですが、寝る時間が遅い選手は起きるのも遅く、睡眠時間は取れていても一番成長すると言われている時間に睡眠を取っていないためか、努力してもなかなか体重が落ちません。逆に体重が増えていくということがあります。
代表選手に選ばれているのですから、他の選手から憧れられる存在にならなければいけないのに、何も変わらないのではそんな存在にはなり得ません。あんな選手になりたい、あの競技がやりたいと憧れる若い人が増えていけば、この種目はもっと盛り上がると思うのですが。
今の子どもたちにまず体を動かしてほしいと思っています。現代はゲームなどで家の中で過ごす時間が長い子どもが多いので、私たち大人が外で遊ぶ、スポーツをする、そんな環境を作ってあげて、そこから専門的な競技に打ち込める機会に結びつけることができればいいなと思っています。将来は体を動かすのが楽しいと思えるような子供たちがたくさんいるような世の中になってほしいと願っています。(了)
(文:河崎美代子)
◎山田和由(やまだかずよし)さんプロフィール
1972年7月22日 長野県北安曇郡小谷村出身
*学歴 長野県白馬高等学校
早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業
*所属 ・小谷村スポーツ協会スキー部
・長野県スキー連盟ジャンプ・コンバインド部ヘッドコーチ
(2002/03シーズン〜現在)
・全日本スキー連盟コンバインドチームコーチ
(2004/05シーズン〜現在)
Aチームジャンプ担当コーチ
(2010/11シーズンより)
B・Jr.(レディース含む)、Youthチーム統括コーチ
(2017/18シーズンより)
女子チームテクニカルコーチ
(2018/19シーズン〜現在)
・NTC白馬競技別強化拠点マネジメントスタッフ
他 白馬高校スキー部・早稲田大学スキー部
(株)ショウワ 外部コーチ
*戦歴 全国中学校スキー大会 優勝
全国高等学校スキー大会 準優勝
全日本学生選手権 3位
全日本スキー選手権 優勝1回
国民体育大会 優勝1回
ユニバーシアード冬季大会 準優勝
COC(コンチネンタルカップ)日本代表
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