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リレーインタビュー第40回 春名真仁さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、アイスホッケー日本代表ゴールキーパーコーチの春名真仁さんにお話を伺いました。

 春名さんは古河電工、日光アイスバックスなどで20年間ゴールキーパー(以下G K)として活躍、2016年の引退後に女子日本代表「スマイルジャパン」のコーチに就任されました。「スマイルジャパン」は北京冬季オリンピックで決勝トーナメントに進出、近年確実に力をつけて来ており、ミラノ・コルティナ2026ではベスト4入りが期待されています。

選手たちが常に自信を持ってゲームに臨めるよう、日々努力を続ける春名さんのお話を3回にわたってご紹介します。

(2022年8月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/40-1/

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/40-2/

▷ アイスホッケーのペナルティショット(PS)についてですが、サッカーのPKに比べると、アイスホッケーは比較的ガードしやすいように思われます。GKはどのような心境でPSに対応しているのでしょうか。

私の経験から行きますと、PSに入るまでに試合はかなり緊迫していますので、延長戦に入る前の第3ピリオド残り2分あたりが一番緊張しました。逆にPSに入ってからは、ここで止めれば勝ちだ、直接勝ちに持っていけると開き直ることができたことを覚えています。北京オリンピックの女子日本代表のチェコ戦でもPSがありましたが、GK藤本選手の守りはパーフェクトでした。もちろん技術もあってこそですが、メンタルコントロールが完全に整っていたのでしょう。ここぞという時のメンタルの整え方は、それまで多くの世界大会を戦って来た経験の中で彼女自身が培ったものだと思います。

▷ 指導者としてどのような選手を育てたいとお考えですか?

現在女子日本代表のジュニアカテゴリーも指導しているのですが、彼女たちには自分のプレースタイル、こういうプレーがしたいというものを自分の中で確立してほしいと思いますし、それを自分の言葉で表現できるような主体性のある選手になってほしいです。さらに客観性をもって自分のプレーを評価することができればなお良いと思います。

今現在日本にはGKコーチが少なく、多くのクラブチームや中学・高校にはいないため、選手は自分で自分をコーチする、所謂セルフコーチングができないとなかなか上達できないという事情があります。ジュニアの段階から自分には何が必要で、どう修正すればいいのかを考えられる選手になってもらいたいです。

選手が自分を客観視することは決して簡単なことではありませんが、私たちが現役の頃とは違い、スマホやタブレットで自分の映像を撮ってもらえる機会が増えています。そういう面では以前より自分のプレーを見る機会は多くなっています。私も映像を撮って選手にシェアすることがよくありますし、そのような映像機器を活用しているコーチは多いです。

▷ 育成年代ならではの接し方というのはありますか?

合宿などではまず選手がどのような考えをもっているのかを聴き出します。こちらから答えを与えるのではなく、あのプレーをした理由は何か、あのプレーの時に何を考えたのかをできるだけ聴くようにしています。短い合宿の中で伝えるべきことは伝える必要がありますのでそれは実践していますが、選手に考えさせるのか、すぐに教えるべきか、どちらのスタンスを取るかは難しいです。コーチングとティーチングに関してはまだまだ勉強中です。

▷ 伸びる選手とそうでない選手の違いはどのようなところにあると思いますか?

第一に練習でハードワークできるかどうかです。GKはクリエイティブなプレーは少なく、どちらかというと受け身のポジションですので、自分の身体をいかにコントロールするか、常日頃練習したことをいかに試合で出せるかが重要になります。従って良い習慣を身につけるための反復練習が非常に大切です。もちろんG Kに向いている運動能力やセンスも必要ですが、練習でハードワークができない選手は伸びないことが多いです。

また自分で考え目的意識を持って練習に取り組めているかどうかも重要です。与えられたことをただこなしている選手もいれば、なにかしら目的をもって取り組んでいる選手もいて、それは練習を見ているとわかります。

▷ 現在の日本のアイスホッケー界に必要なものは何だとお考えですか?

まず良い指導者がいなければ良い選手は育ちません。しっかりしたコーチングのカリキュラムなどの基盤作りが必要だと思います。連盟では強化・育成委員がサッカーなどの制度をベースにしてコーチライセンスを確立しようとしています。カナダ、アメリカ、北欧の指導者システムをモデルにしながら準備を進めています。ただ欧米とは土台が違いますので、日本にあった方法が必要になると思います。

またジュニアについては、中学・高校・大学といった学校教育のシステムの中で生じてしまうチーム間の差も課題です。サッカーの場合はクラブチームの下部組織がありますので同じようなレベルで競い合うことができますが、現状アイスホッケーではそれがなかなかできません。

特に女子は中1からシニアのカテゴリーですので、中学生が日本代表と同じレベルで戦うことになります。怪我のリスクはもちろん、試合に出られないという弊害も出てきます。スポーツで一番楽しいのは試合ですから、中学生でも試合に出られるような環境も作っていかなければいけないと思っています。欧米の場合はおおよそ2学年ずつで区切られていることが多く、さらにうまい選手は上のカテゴリーでプレーするため、選手は多くの試合に出られます。そういう点は日本でも参考にしたいです。

とはいえ、日本ではサッカーやバスケットボールのようなプロリーグが作れるほどのチーム数も競技人口も不足しているのが現状です。そうした状況の中で課題をどう克服するか、みんなで知恵を絞って考える必要があります。

▷ 日本のスポーツ界に足りないものは何だとお考えですか?

私はアイスホッケーを通して様々な国のスポーツ文化を見ていますが、ヨーロッパでは地域クラブであることも多く、一番大きなサッカーの財源をアイスホッケーやハンドボールなど他のスポーツでシェアしているところもあります。

日本は学校スポーツのおかげでスポーツが盛んになったという面がありますが、今は学校の部活動が岐路に立っています。子供が少なくなっている上に一つの部活動しかできないという状況があります。しかしもっと柔軟に色々なスポーツができる環境が整えば、マイナー競技も生き残れるのではないかと思うのです。私はアイスホッケーとは別にサッカーもやっていましたが、今の子どもたちはアイスホッケー以外はやっていないという子どもが多いです。マイナー競技にとってはマルチスポーツの振興やクラブチーム化も必要なのではないでしょうか。実は首都圏ではアイスホッケー人口は減っていないのですが、最も盛んだった苫小牧や釧路など北海道の競技人口は減っているのが現状です。

▷ スポーツを通してどのような人間を育成していきたいとお考えですか?

アイスホッケーは勝敗を競うチームスポーツです。そのアイスホッケーを通じて個人の成功だけではなく、チームとしての目標の達成感や勝つことの喜びをチームメートと分かち合える選手、そしてたとえ負けたとしてもそれを受け入れて勝者をリスペクトできる選手を育成したいと思います。またアイスホッケーは選手一人でできるものではありません。関わってくれる人たちやプレーできる環境に感謝し、周囲から応援されるような人間になってほしいと思います。

▷ 指導者の皆さんにメッセージをお願いします。

私自身、コーチになってまだ6年目です。競技は長くやっていましたがコーチとしてはまだまだ新米だと思っていますので、指導者のみなさんにメッセージが言えるような立場ではありません。その上で言わせていただきますと、コーチの一番の喜びは選手が上達を楽しんでいる姿や成功する場面を観ることですから、私自身はそこを追求していきたいと思っています。教えることは学ぶことです。世の中がどんどん変化し、以前に比べると情報量が多くなっているので、正しい選択をしていくことが難しくなっています。その中から適切な情報を選び、適切な指導を行うことが必要です。選手から学ぶことも多く、私自身もっと学ばなければいけないと思っています。(了)

(文:河崎美代子)

◎春名真仁(ハルナマサヒト)さんプロフィール

1973年生 北海道出身

現在 日本代表ゴールキーパーコーチ、JOCナショナルチームコーチ

釧路湖陵高校から早大に進学し、1996年古河電工(日本リーグ)へ入社。

1999年古河電工アイスホッケー部廃部を機に退社し、プロアイスホッケー選手として後継の日光アイスバックスでプレー。

その後クアッドシティマラーズ(UHL)、王子イーグルス、栃木日光アイスバックスを経て2016年に引退。 

引退後、2016年から女子日本代表GKコーチに就任、その後男子日本代表、女子U18日本代表のGKコーチも兼任する。

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公益財団法人 日本アイスホッケー連盟