リレーインタビュー第73回 阿部祥子さん・鈴木治さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、天理高等学校バトントワリング部顧問の阿部祥子さん、コーチの鈴木治さんのお話を3回にわたってご紹介します。

(2026年10月 インタビュアー:松場俊夫)

▷ まずお二人の役割からお聞かせいただけますでしょうか。

阿部
私は顧問を務めて30年近くになりますが、9年ほど前に鈴木コーチが来てくださって以来、技術的な指導はもちろん、ほぼ全てお任せしていると言ってもよいでしょう。レッスン後の生徒のサポートも含めて、本当に熱心に取り組んでくださっています。私たちの部は高いレベルを目指しているので、生徒たちがなかなか先生の思いに応えられなかったり、技術的にまだ未熟だったりして、気落ちすることも少なくありません。そうした生徒たちをフォローするのが、私の役割だと思っています。

鈴木
事務的なことや生徒に関することは阿部先生に担当していただき、私はバトンの指導に専念しています。

▷ 阿部さんはどのような期待を込めて鈴木コーチをお迎えになったのでしょうか。

阿部
こちらから呼ぶとか選ぶというようなことではありませんでした。前任のコーチが退任される際に、鈴木さんを紹介してくださる方がいて、まさに「ウェルカム!」という気持ちでした。「天理高校に来てくださって、ありがとうございます」という思いでしたね。鈴木先生は当時まだ21歳くらいでしたので、とても若い方だなという印象はありました。しかし、当初から実に熱心で、とにかく天理高校バトントワリング部をもっと強くしたいという思いを持って来てくださいました。その思いは私と最初から完全に一致していました。男性の指導者ということもあり、体罰を伴うような指導だけはやめてくださいとお伝えしましたが、それ以外は「鈴木先生の好きなように進めてください。私がフォローします」と、全面的に指導をお任せしました。

▷ 鈴木さんが来られたことによって、チームに変化は見られましたか?

阿部
格段に変わりました。鈴木先生は技術的な指導はもちろん、精神面へのアプローチもとても上手です。求心力やカリスマ性をお持ちなので、生徒たちも「この人についていければ結果が出る」と思ったのでしょう、成績は劇的に伸びました。

▷ 鈴木さんは当時21歳とまだお若かったわけですが、指導の上で苦労されたことはありましたか?

鈴木
天理高校が、私にとって初めて指導者を務める場所でした。現役選手を続けながら指導もしていたので苦労もありました。当時は生徒を上手にすることしか頭にありませんでした。指導者として抜擢され、結果を求められている以上、結果が出せなければ意味がないと思い、自分自身を追い込んでもいました。天理高校が求めるものと、自分自身が目指すものとの間にあるギャップを埋めることも大変でした。

▷ メンタル面や人間的な部分の指導を始められたきっかけは何ですか?

鈴木
私は個人でも団体でも国内や世界の大会でチャンピオンになってきました。しかし、その経験を通して最終的に行き着いたのは、「結局、日本チャンピオンになっても世界チャンピオンになっても、それだけでは意味がない」という考えでした。それは自分自身の栄光であり、経験に過ぎません。そうした結果を得たからといって、人として素晴らしいと言えるだろうか。そういうことに目を向ける機会があったのです。そして、バトンを教えても、生徒たちが最終的に行き着く先はバトンではないのだと考えるようになりました。バトンは人が成長するための一つのアイテムなのです。人として成長するためのアイテムが、私の場合はバトンでした。でも、それはどのスポーツでも同じなのではないか。そういう認識が生まれたことは、私にとっては大きな転機でした。

では3年間で生徒たちに何を教えるのか。高校からバトンを始める初心者も多い中で、3年間に何を詰め込むのか。もちろん競技で結果を出せれば、それが一番だと思います。しかし、バトンをやめた後も一人の人間としてしっかり生きていけるようにすることこそが、一番大切なのではないかと気づきました。それ以来、人間的な成長を促す指導が増えていきました。

▷ 鈴木さんが人のために尽くすことを大切にされている、練習の合間にゴミ拾いをしているという記事を拝見しました。そうしたことを意識されたきっかけは何だったのでしょうか?

鈴木
特別なきっかけがあったわけではありません。私は生まれた時から天理教の教えの中で育ってきたので、人のためになることをするのは日常になっていました。ただ、練習の合間にゴミ拾いを取り入れたのは、単に人のためになるからというわけではなく、ゴミ拾いそのものに意味があったからです。

選手だった頃、本番でバトンを落としたくないという思いがありました。何か良いことをすれば、最後に助けてもらえるかもしれない。そんな思いから、ゴミ拾いをするようになったのです。それを何年も続けるうちに、ゴミ拾いの意味が少しずつ変わってきたように感じました。失敗しないためにゴミ拾いをする。そのためには、まずゴミを探さなければなりません。そして、探すことで、そこにゴミがあることに気づく。この「気づき」そのものが大切なのではないかと思ったのです。人の体調や変化に気づく。そうした能力も高まるのではないかと考えました。実際にバトンを投げた時に少しずれたことに気づき、反応するまでの時間も短くなりました。

生徒たちには「ドロップをしないために始めたゴミ拾いも、気づくことに重きを置くようになれば、色々な変化に気づけたり、人への対応を変えられたり、空気を読めるようになったりと、様々な面でプラスになると思ったんだ」と伝えました。そして、「強制ではないけれど、よかったらやってみて」という感じで勧めたのです。その時の生徒たちの反応はちょっと覚えていませんが(笑)。

▷ お二人は部員にどんな「日常の当たり前」を求めていらっしゃいますか?

阿部
鈴木先生が常日頃からおっしゃっているように、私たちは多くの方々の支えがなければバトンをすることはできない、と部員たちに伝えています。先生方、お父さんやお母さん、衣装を作ってくださる方々、どれ一つ欠けても今の活動は成り立ちません。感謝の気持ちを絶対に忘れてはいけないということは、本当に口酸っぱく言っています。

鈴木
私も同じで、感謝すること、そして親にきちんと挨拶することの大切さを常に伝えています。なかなか難しいことではありますが、親はどこまでいっても子どもにとって親です。例えば、親が犯罪を犯したとしても、あるいはDVをしたとしても、親であることは変わりません。自分の親という存在は、何があっても変えることのできないものです。

だからこそ、部員には本番の前と後に、親に面と向かって挨拶をするように伝えています。私自身も、今でも演技の前には親に電話をして「今から本番を迎えさせていただきます。よろしくお願いします」と伝え、終わった後には「ありがとうございました」と挨拶することを欠かしません。これは高校生の頃から始めたことですが、最初は本当に照れくさかったですよ。でも、今では自然にできるようになりました。部員たちにも親に対する敬意を忘れないでほしいと常に伝えています。

▷ 最近の生徒たちを見ていて「いいな」と思うところと「ちょっと物足りないな」と思うところがあれば、教えていただけますか?

阿部
いいなと思うのは、天理高校の生徒に限って言えば、素直で純粋なところでしょうか。いい意味で、まだ子どもらしさが残っているのです。純粋で、色々なことをすっと吸収できる心を持っている子が多いように思います。

一方で、少し物足りないと感じるのは、叱られることに慣れていないところです。おそらく、日頃からお父さんやお母さんにあまり叱られていないのでしょう。でも私たちは、いけないことはいけないと伝えなければなりません。鈴木先生も私も、必要な時にはきちんと伝えます。でもそれで生徒たちが落ち込んでしまうことも多いです。バトン部の生徒たちは日頃から指導を受けているので、少しずつ強くなっていると思います。ただ、今の子たちは親と友達のような関係なのだと感じます。私が学生だった頃とはずいぶん違いますね。

▷ そうした叱られ慣れていない生徒たちには、どのような意識で叱ったり注意したりしているのでしょうか。

鈴木
私はあまり気にしすぎないようにしています。パワハラと言われるようなことはなるべくしないようにしていますが、だからといって、何でも良いとは思っていませんし、昔のように強制的にやらせることが良いとも思いません。今の時代に合った指導として、できる限り自主性を大切にすることは良いことです。ただ、自主性そのものが育っていない人に、ただ「自主性、自主性」と言っても、自主性は生まれないように思います。場合によっては、それが甘えになってしまうこともあります。その境目を見極めながら、常に指導することが大切だと思っています。

▷ そういう意味では、あまり意識しすぎることなく、率直に注意すべきことは注意をし、叱る時は叱るということでしょうか。

鈴木
そうですね。例えば学校側に気を遣って注意するのをやめておこうということはあまりありません。生徒が人として成長しなければならないのに、悪いことは悪いと教えられなければ、生徒たちを他人事として扱ってしまうことになります。人間社会では必ず誰かとコミュニケーションを取りながら生きていかなければなりません。だからこそ、生徒にきちんと向き合わないことは、自分自身に嘘をついているようで、とても嫌なのです。ただ、それはパワハラに変わってしまう可能性もある、非常に際どいラインでもあります。だからこそ、生徒と私、先生方と私、先生方と生徒、それぞれの間に信頼関係があるかどうかを常に確かめるようにしています。

▷ 信頼関係というお話が出ましたが、生徒との信頼関係を築く上で、どのようなことを意識されていますか?

鈴木
私は、あえて信頼関係を築こうとは思っていません。自分がやるべきことをきちんとやっていれば、生徒たちは「この先生なら大丈夫」と思ってくれるはずです。ですから、私は自分に嘘をつかず、やるべきことを淡々とやるだけです。生徒に「先生だってやっていないじゃないですか」と思われるような行動はしません。それを続けていけば信頼関係は必ずできてくると思っています。実際に、そうなるまでには3、4年かかりました。先生方は、私が現役として努力し結果を残す姿を見て、私をフォローしてくださいました。また、生徒たちも大会で私の演技を見た上で、普段の練習で接する機会が多くありました。そうした積み重ねがあったからこそ、3、4年という期間で信頼関係ができたのだと思います。

そして、素敵なことに、部活動には、1年生が2年生、3年生へと成長し、今度は3年生が次の1年生を育てていくというサイクルが、すでにできていますよね。まだ信頼関係が十分にできていない1年生が、3年生から色々なことを教わり、それを次の世代へと伝えていく。このサイクルができていることは、本当にありがたいことです。(中編に続く)

 

阿部祥子さんプロフィール

東京女子体育大学体育学部体育学科卒業
在学時はダンス部に所属
天理高等学校体育科教諭、バトントワリング部顧問
バトンチームALLEGROS代表

鈴木治さんプロフィール

GENESIS所属/バトントワリング指導者・バトントワラー
小学校2年生から天理教愛町バトン部でバトンを始め、小学校6年生で全日本選手権大会に初出場。
中学・高校生時はバトンの他にマーチングバンドやカラーガードの一員として、さまざまな大会で経験を積む。
大学進学を機に京都に移り、現在はGENESIS所属。
これまで身につけてきた技術と経験を生かし、バトントワラーとして舞台に立つ一方、後進の育成にも力を注いでいる。
2017年から天理高等学校バトントワリング部、2021年からバトンチームALLEGROSのコーチを務める。

<主な実績>
○バトントワーリング全国大会
グランプリ内閣総理大臣賞7回
2年連続優勝者特別招待演技4回
○世界バトントワーリング選手権大会
チーム部門金メダル2個
個人部門銀メダル1個、銅メダル2個
○WBTFインターナショナルカップ、IBTFグランプリ大会
チーム部門金メダル7個、銀メダル1個
個人部門金メダル1個、銅メダル2個
○バトントワーリング全日本選手権大会
チーム部門1位8回
個人部門1位5回

バトンチームALLEGROS(アレグローズ)
https://batonteamallegros.com
https://www.instagram.com/allegros1838/