リレーインタビュー第72回 松尾佳彦さん(中編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、天理高等学校男子ホッケー部監督の松尾佳彦さんのお話を3回にわたってご紹介します。

(2026年8月 インタビュアー:松場俊夫)

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リレーインタビュー第72回 松尾佳彦さん(前編)

▷ 選手のリーダーシップは時代によって変わってきているとお考えですか?

そうですね。変わっていないところもあると思います。技量や経験値のある選手が自ずとリーダーになっていくと思います。私が好きなリーダーは、たとえキャプテンでなくても、背中で語れる人物です。地道にコツコツと積み上げてきて、周りから一目を置かれる人物が、今も昔も必要なリーダーだと思います。

▷ 今はハラスメントに厳しい目が向けられる時代ですが、松尾さんが選手を叱る時に意識されていることはありますか?

叱る時は個別に呼んで叱ることが望ましいと言われていますが、私は叱る内容を熟考し、選手の尊厳を傷つけないように気を付けながらも、敢えてチームで集合している時に叱ることもあります。活動していれば多かれ少なかれ、いろいろな事が起こってきます。それら全てが各選手やチームの学びとなり、成長につながると考えているからです。良いことも悪いことも全て人生の財産にしてもらいたいです。そのためにも本質を見定めなければいけません。私も選手も未熟ですが、普段の活動から本質を捉えにいくことで、選手たちは少しずつ理解を深め、成長につなげてくれています。また、間違った情報が流布することは望まない展開になる事が多いので、私自身が責任を持って届けるためでもあります。

ハラスメント問題は難しいです。ハラスメントで活動を自粛することもよくある話ですが、気にしすぎることも逆に怖いと考えています。もちろん感情でものを言ってはいけない時はありますが、人間にとって感情は大事です。この人はなぜこんなに怒っているのか、この選手はなぜこんなに辛そうな顔をしているのか、人のそうした感情を見て感じ取ることが大切です。そういう感性を選手には持ってもらいたいと考えています。

▷ 逆に、選手を褒めることもありますか?

私はあまり褒める方ではないと思います。経験値の浅い選手に対しては意図的に褒めていますが、基本的には褒めることはなく、本当に上手いと思った時や、責任を持って、積極的に挑戦したパフォーマンスには自然と褒める言葉が出てきていると思います。

私自身が競技をしている時に、周りに褒められても、自身では納得できないパフォーマンスだったことも多々ありました。その逆も然りです。つまり、褒められようが貶されようが、自分が責任感を持って、納得できるパフォーマンスを追求していくことが大切だと思います。私自身も自身の感性に責任を持って、見て感じたことを選手にフィードバックして、選手とすり合わせていきます。

▷ 選手との関係作りにおいて何か意識されていることはありますか?

常に厳しい存在でありたいと考えていますね。だからこそ選手理解に努めますし、リーダーとは積極的にコミュニケーションを取り、情報交換をして私の意図も伝えます。また私の課題は、見えている情報で判断してしまいがちなことです。選手個々の分岐点になる瞬間を見逃さないために、表面でなく奥の奥まで見通せるように感性を磨かなければいけません。

▷ チーム作りにおいて意識されていることはありますか?

キーワードは自然です。この漢字には二つの呼び方があります。「じねん」と「しぜん」です。「じねん」は自ずから然りという意味です。頑張らなくとも勝つべくして勝つ。自然とそうなるチームを目指しています。成ってきた事は全て自身の歩み方です。為したいことがあるならば、それ相当の歩み方が必要です。だからこそ自身に目を向け、向き合うことが大切だと考えています。

もう一つは「しぜん」です。水や風のようにどんなものにも形を変えることができる、その上で強さも柔らかさも備わっている、そんなチームを目指しています。つかみどころがない。でも明らかにそこに存在している。強さも弱さも優しさも柔らかさも全てそこにある。それが理想です。

▷ その理想の軸になっているものは何なのでしょうか。

ありきたりですが、30代前半に「天理に行って良かった」と言ってもらえるにはどうすべきかと考えました。優勝や試合に勝って結果を残すことも大切ですが、結果に関係なく人が集まる環境にしたくて、そのためには人を育てることが大切だということに気付きました。

近頃、教育に厳しさが足りなくなってきているように思います。先ほど話題に上がったようなハラスメントと言われる、過度の厳しさはいけないと思います。しかしハラスメントを気にしすぎるあまり、私たちは大切な厳しさも無くしてしまっているのではないでしょうか。自然界は厳しいです。動物も植物もその中で弱音を吐くことなく、たくましく生きています。人の社会も同様で厳しい。スポーツ界も厳しい。どの世界にも厳しさはあり、厳しさがあるから為ってきていることもあります。私は、どのような環境や状況でも実力を発揮できる人、無から有を生み出せるような人、そして、なるほどと言ってもらえる人に育ってもらいたいと考えています。

▷ そのようにお考えになるのは高校生だからということでしょうか。大学生や社会人なら考え方は変わりますか?

社会人や大学生をコーチングした経験がないので何とも言えません。私はホッケーという競技を通じて人を育てています。競技者である前に人間です。人として成長しない限り、競技者としても成長しないと思います。競技を辞めてからの人生の方が長く、その後の人生も強く輝いてもらいたいです。ホッケーはそのツールの一つだと考えています。

しかしそんなことを言いながらも、競技者であるかぎり頂点を目指してもらいたいとも考えています。勝ち負けではないですが、好きで始めたホッケーで人には負けてほしくないです。競技をしていれば自分よりもレベルの高い選手はたくさんいますし、敵わない選手やチームは必ず存在します。それでも諦めたくないし、諦めてほしくないです。無駄なあがきをしてもらいたい。恩師に教わった「諦めない心」です。その時は無駄なあがきかもしれませんが、その無駄が、長い人生で必ず良かったと言える日が来る。そう信じています。いつかは笑える話のネタになるはずです。

自分という個性を磨き上げて、チームや社会の力になる。古臭いかもしれませんが、本気でかっこいいと思います。そう思うと、コーチングする相手が大学生でも社会人でも伝えたい信念は変わりません。

▷ 天理高校のホッケーらしさを一言で表すと何ですか?

やはり「自然」です。キネティックフォーラムの矢田修先生から教わりました。自ずから然りとなる体は自然体と言えます。その自然体をつくるには、呼吸が重要です。正しく吐いて、正しく吸う。言うのは簡単で、一回の呼吸でどれだけ無駄なことをしているかに気づくことが本当に難しいです。無駄に気付き無駄をなくすことが成長への一歩です。また、呼吸が体に軸を作り出します。それが人としてのぶれない軸となり、チームの軸となります。

▷ 松尾監督にとって良いチームとはどのようなチームでしょうか。

一番はエネルギーです。チームにしても個人にしても成長していくには、ストレスや課題、困難が必要不可欠です。それらを乗り越えるためにも、それらに挑戦するためにも、エネルギーがないと始まりません。

二番は感謝することです。起こってくる全てのことは、自身の成長のために必要なことだと考えています。だからこそ、全てに感謝する心を育まなければいけません。そうした感謝があるからこそ、周りに対して敬意を持って向き合うことができます。それが良いチームの条件ではないでしょうか。

▷ 保護者の方々との関わりで何か意識されてることはありますか?

私は保護者の方と距離が近くなり過ぎないように注意しています。保護者の方々とのコミュニケーションは、保護者会長さんにお願いしています。保護者の方々は選手の心強いサポーターでありエネルギー源です。本当に心強いです。日々、サポートをしてくださることに心から感謝しています。

▷ 卒業後、選手たちにはこうあってほしいという思いはありますか?

どんな道であっても、自分の道に責任を持って歩んで行ってもらいたいです。ホッケーを続けたとしても、いつか引退を迎えます。だからこそ人としてしっかり胸を張って歩んでいける人になってもらいたいです。

それができるのは、先ほどもお話ししましたが、辛いことも苦しいことも人の痛みも自分で経験して味わってきたからこそだと思います。人生良いことばかりではありませんから、人生の中で嫌な思いも辛い思いも望んでないことも必ず起こります。そんな時は歯を食いしばる、もしくはそういう思いをしている人たちの痛みや苦しみを理解して、何も言わなくても寄り添えたり、そばにいるだけでもいい、背中をちょっと支えるだけでもいい、そんな存在になってほしいと思います。(後編に続く)

(文:河崎美代子)

 

松尾佳彦さんプロフィール

1979年生まれ 奈良県出身
天理高等学校 教諭(体育科)/ホッケー部 部長兼男子部監督

<経歴>
1998年 天理高等学校 卒業
2002年 天理大学   卒業
2002年 学校法人履正社 履正科学体育研究所でトレーナーとして活動
2003年 奈良県公立高校 非常勤講師
2004年 天理高等学校第二部 常勤講師
2009年 天理高等学校ホッケー部監督就任

<主な実績・成果>
中学校の部活動でホッケーを始める。
中学校2年生の時に全国大会で優勝。
高校2年、大学1~3年時には各種大会で優勝を経験。
(自身が最高学年の時には優勝はできていない。)

指導者としてはインターハイや選抜大会、国体などで優勝や上位入賞を果たす。
卒業生から多数の日本代表選手を輩出。
現在はBCトータルバランスシステムを学びながら、自然体をテーマに世界で活躍できる人材育成に全力で取り組む。