「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、岡山県の創志学園高等学校 硬式野球部の長澤宏行監督、同校 女子ソフトボール部の長澤正子監督にお話を伺いました。リレーインタビュー初の、ご夫妻でのご登場です。
長澤宏行さんは兵庫県の夙川学院高等学校 女子ソフトボール部で8度の全国高校総体優勝を成し遂げ、硬式野球の指導に移行してからは鹿児島県の神村学園高等部 硬式野球部を創部2年目でセンバツ出場に導き、準優勝。できたばかりの創志学園に迎えられた2010年、創部1年目にして全員1年生で選抜高等学校野球大会に出場という史上最速の快挙を成し遂げ、これまでに3度の選抜大会出場と2度の選手権大会出場を果たしています。
長澤正子さんは神村学園の硬式野球部でサポート役として宏行さんを支えた時期もありましたが、2010年、創志学園女子ソフトボール部の創部にあたり監督に迎えられ、同部を4度の全国制覇に導いています。
長澤宏行さんと正子さんの出会いは日本体育大学のソフトボール部。ライバルであり、アドバイザーであり、何よりも最高のパートナーとして切磋琢磨し合うお二人にお話を伺いました。前・中・後編の3回にわたってご紹介します。
(2020年1月 インタビュアー:松場俊夫)
宏行さん:
私は何もないところから始めるのが好きなので、人間的な面、ハードではなくソフト、人間作りから入っていきます。もちろん現在の目標は甲子園に出ることですが、逆算して何ができるか考えるところから始めます。ないものねだりをするのではなく、まず改善できること、改革できることをやります。
ここ(創志学園)の野球部も初めはノックバット一本と1ダースのボールしかなかったのですよ。玄関に生徒が集まって来て「監督、どこで練習するんですか」と聞くので「ここや」と。そんなところから始めて今のレベルまで行くというのは、やはり人間的な面が大きいと思います。
人間的な面で大切にしているのは、高校生らしさ、人に対する思いやりです。勝負よりもチームの中の人間関係、一人一人が理解しあうこと。相手に対する行動ではなく、まず自分自身を充実させることが大切だと思います。
宏行さん:
創部までの準備期間に学校側が選んでくれていたとは思いますが、私が声をかけたのは地元岡山の野山(慎介)、須藤(隆成)、富田(一成)の3人だけだったと思います。神村学園では「監督が創志学園に行くのであれば」と、姫路と西宮の生徒がこちらに来ました。
宏行さん:
親が子どもに対して過剰な期待をすることがあるという反省もありましたので、ここでは競争を主にして、それを指導者として公平に見ようと思い、「がんばっているな」と思う選手に票を入れさせました。自分に一票入れてもいいから、と。投票という決め方は、上が決めるより良かったのではないかと思います。今も必ずコーチ、キャプテンの意見を聞くようにしています。
甲子園のベンチに入れるのは18人です。自分の思いとしてはもっと枠がほしいですが、どうしても18人に絞らなければならない。そこに監督の辛さがあるのですが、その人数の中で勝たなければいけないし、それも含めての決め方になるわけです。
メンバーを決める基準は、技量はもちろんですが、そのポジションに合った人間性を持っているかどうか。レギュラーではない生徒はチームをどれだけサポートしてくれているか。そういった点だったと思います。球は速くなくてもバッティングピッチャーをやってくれたりして影の力になっていた生徒には票が入っていると思います。
宏行さん:
指導者対生徒ではなく、生徒同士の人間関係、チームとしての社会というものがあり、その集団の中にリーダーシップをとる生徒がいてくれないと困るのです。人間は号令で動きますが、魚の群れを見ていると、号令もなく皆一斉に右に左に動きますよね。センサーのようなものがあるのかもしれませんが、中に誰かリードする者がいる。そんなチームにしたいと思っているわけです。ですから常に「これでいいのか」ということをキャプテンにも他の生徒にも聞きます。もちろん、違うリーダーが入れば違うチームになります。2010年のことは、野山君でなかったら多分起きなかったでしょう。
宏行さん:
実際、チームを何度も勝たせていましたからね。それができるキャプテンに共通する人間的な強さや素質がありました。それは社会に出ても通用するものです。
野山君とは縁があったのです。彼の家は和気町という所にあって、私は車で会いに行ったのですが、地図を見ても住所が載っていない。でも山の方を見ると、ぽつんと灯りの点いている家がある。交差点で止まっていたら、中学生が自転車で通り過ぎようとしたので、その子に「ちょっと君、野山さんの家、わかるかな」と聞いたら、「僕の家です。案内します」と。あ、この子とは縁があるなと思いました。
宏行さん:
キャプテンを決める際には、監督とのコミュニケーションが取れること、世間一般、外に出して恥ずかしくないことといった面や、勝負強さ、家庭での躾けといった点も含めた総合的な判断が必要になります。キャプテンというのは感覚的に言うと、監督が言ったことを自分の言葉で伝えるボイスチェンジャーのようなものです。ですから、監督の意図とまったく違うボイスチェンジャーであっては困るわけです。
正子さん:
時間をかけて選んでいますね。まず、新入部員が入って来た時、キャプテン経験のある生徒から順番に、多少長さの違いはありますが、2、3か月スパンで順番にリーダーをやらせます。そして「このリーダーはどうでしたか」と他の選手に尋ねます。
手を挙げさせるのですが、×と言う生徒はいませんね。△の場合は「ここをもっとこうすれば良くなる」と言います。春の選抜、夏のインターハイ、そして先輩とバトンタッチする時、それぞれの時点でどの人が一番いいか、いろんな目線がありますから。
最終的に、全学年にアンケートをとります。無記名で2人に〇つけさせます。結果はたいていこちらの考えと合います。生徒はよく見ていますよ。大きな失敗はないです。
正子さん:
打てば響くという存在でいてほしいですね。監督が何を求めているか、どのようにチームを作り上げていこうとしているのかをキャプテンがわかっていないとチーム全体に浸透しません。ですからキャプテンはそこの意を汲んでほしいと思います。
うちの部では、練習内容についても明日は何からやるか、生徒たちが前の晩にミーティングしてまとめたものをキャプテンが持ってきます。その内容で行くこともあれば、ここはもっと打撃や実践を入れた方がいい、基本を大事にした方がいいとアドバイスすることもあります。練習には様々なメニューがありますが、すべて生徒たちに考えさせます。今のチームがどのような状況なのか、一人一人がわかっていないといけないと思いますよ。
私は生徒たちにああしろ、こうしろ、と指図はしません。私の意を理解していれば、私が考えている通りにしてくれるので楽です。生徒たちも、辛さや「やらされた感」がないのでいくらでも練習してくれます。キャプテン選びにしても、日々の練習にしても、最初だけは指示しますが、あとはかなり任せています。
私も選手時代に、何十本も走れと指示されてしんどい思いをしたことがありました。ですからできるだけ、自分から「走ります」という声が出たらいいなと思っていますが、お正月のキャンプでは初日から、自主的に高い山を「走ります」と言ってきましたね。(中編に続く)
(文:河崎美代子)
中編はこちらこら↓
リレーインタビュー第19回 長澤宏行さん・正子さん(中編)
後編はこちらから↓
リレーインタビュー第19回 長澤宏之さん・正子さん(後編)
◎長澤宏行さん プロフィール
1953年生まれ
ポジション 外野手
1971年 兵庫県西宮市立西宮高校卒業
1975年 日本体育大学 卒業
<指導>
1975年~1997年 兵庫県 夙川学院高等学校ソフトボール部でコーチ
*22年間で全国制覇15回。(国体、選抜含む)
1996年 アトランタ五輪女子ソフト代表ヘッドコーチ
2000年~2002年 東海学園大学女子ソフトボール部 監督
*創部1年目でインカレ ベスト8
東海学園大学野球部 監督
*3部リーグから1部リーグへ昇格
2003年~2007年 神村学園高等部野球部 監督
*創部2年目で選抜出場と準優勝
2008年~2009年 環太平洋大学野球部 監督
*4部リーグから1部リーグへ昇格
2010年~現在 創志学園高等学校野球部 監督
2011年、創部1年目で 春の選抜出場。
春夏甲子園5回出場、神宮大会出場。
◎長澤正子さん プロフィール
1954年生まれ。香川県出身。
丸亀商業高校(現 丸亀城西高校)卒業後、
保健体育科教諭を目指して日本体育大学に入学。
ソフトボール部に所属し、インカレ・全日本総合優勝を経験。
京都府の宇治高校(現 立命館宇治高校)女子ソフトボール部監督を経て、
2010年から創志学園高校の女子ソフトボール部監督に就任。
<主な戦績>
2013年 インターハイ優勝
2016年 センバツ優勝
2017年 インターハイ優勝・センバツ優勝
2018年 インターハイ第3位・センバツ第3位