リレーインタビュー第70回 村木侑子さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、立命館宇治中学校・高等学校バトントワリング部コーチの村木侑子さんです。

12歳からバトントワリングを始め、選手として輝かしい成績をおさめた後は中高生の指導にあたり、数々の賞を獲得しています。また大阪でバトントワリングチームEn-baton(エンバトン)を運営、子どもから大人までの指導を行っています。

「他の選手よりスタートが遅かったからこそわかること、気づくことも多い」と語る村木さんのお話を3回にわたってご紹介します。

(2026年5月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/70-1/

中編はこちらから↓
リレーインタビュー第70回 村木侑子さん(中編)

▷ 指導者として、また選手として、一番つらいのはどんな経験ですか?

なかなか結果が出ない時ですね。今でも苦しいです。色々な人から「あなたの演技が一番だったよ、いい作品だったよ」と言ってもらったとしても、やはり全員から認めてもらえないと目指す場所には行き着いていないわけで、やはりそれが苦しいです。採点競技の難しいところですが、その競技で戦っていくしかありませんからね。

最近はアウトプットがどうしても多くなっているのが現状です。自分の家庭も仕事もあるので、ここ10年ぐらいインプットする時間がなかなか持てなかったせいだと思います。そこでもう一度勉強し直そうと思い、第一歩を踏み出したところです。いまダンスを勉強し直しています。子どもたちに「こういう風にやるんだよ」と自ら見せていかなければなりませんから。

▷ そうした苦しさと普段はどのように向き合っているのですか?

もしかしたら私は苦しいことが楽しいと思っているかもしれません。様々な経験がいつか喜びにつながると信じているのです。ポジティブと言いますか、雑草魂ですね。もともとが順風満帆なスタートではなく、悔しい思いの連続だったので、負けず嫌いの気持ちしかないのです。でも失敗することで知ることの方が多いので、子どもたちにはたくさん失敗しなさいと言っています。

▷ 村木さんにとってどんなチーム、どんな選手が理想ですか?

お互いを尊敬し合い、様々なことをしっかりコミュニケーションできるチームであることが大切だと思っています。ただコミュニケーションに関しては、私が全てに入り込むとややこしくなることも多いので、ワンクッション置く意味で顧問の先生にお願いしています。例えば、子どもたちが理想としているものを顧問の先生とやりとりしてもらい、その結果と私が感じたことを合わせて子どもたちの状況を把握したりしています。学校は自分が運営する教室と違ってクラブ指導なので、学校との対話や保護者の方々との対話も大切にしながら、みんなで協力しあっていくのが良いのではないかと思っています。

▷ 保護者の方々とのやりとりで心がけていることはありますか?

直接やりとりすることはそう多くないのですが、基本的に大人は変わらないと思っています。でも子どもたちはスポンジのように何でも吸収できるので、子どもたちを変えることをまず第一に考えています。その上で保護者の方々に対していつも言っているのは、もし子どもたちがネガティブな出来事や思いを家に持って帰ってきたら、「うんうん」と子どもたちの話をただ聞いてあげてほしいということです。その上で「頑張れとだけ言ってあげてください」、「温かく応援してあげてください」と言っています。ただ口が酸っぱくなるぐらい言っているのは「勉強はしっかりさせてください」ということです。

▷ 子どもたちとの信頼関係を作るために意識していることはありますか?

信頼感というのは指導していく中で培われるものだと思うので、信頼してもらうためにしていることはあまりないですね。大人はうまくごまかすことができますが、子どもたちはすぐ嘘を見抜くので、本気でぶつかるようにしています。私は違うことは違う、良いことは良いとはっきり言います。

ストレートに伝えることは、子どもたちの中にスコンと入りやすいかもしれません。例えば演技について「うん、今の良かったよ」と言ったとして、言われた子が「あまり良くない」と思っているとしたらずれが生じますから、信念を持って指摘すべきことはきちんと指摘しています。とはいえ、はっきり言われると辛くなる子も多いので、そう言う時には他からのアプローチをお願いしています。

そもそも私はおだてるということがあまり好きではないのです。もちろん叱らない教育、叱らない指導という考え方がありますし、それも大事だと思います。確かにはっきり指摘されると叱られたと思う子がほとんどですが、私は叱っているのではなく、ただ注意をしているだけなのです。こちらの一方的な感情を押し付けるのではなく、その子のことを思って伝えようとしています。

▷ 村木さんにとってバトントワリング(以下バトン)の魅力とは何でしょうか。

バトンの魅力はいろいろありますが、ただの鉄の棒がくるくる回ることで芸術的な作品になり、バトン1本で色々な曲想を表現できることも魅力です。チームのバトンの魅力は集団美を見せられることです。チームでないと見せられない演技がたくさんあります。例えば一人ならバトンは一本だけですが、二人、三人、四人となるとバトンが飛び交って空間図形、絵柄ができるのです。それがとてもすてきだと思っています。また一人の演技が得意な子もそうでない子もみな一緒に協力して一つの演技をすることにも魅力を感じています。

▷ チーム作りをする時は、それぞれの強みを生かした演技構成をするのですか?

そうですね。ソロの見せ場のような箇所もあります。ただ、個人の実力差が原因で子どもたちが悔しいとか妬ましいとかネガティブな感情を持ってしまうこともあります。悔しいなら頑張ればいいのですが、そこでいじけてしまう子も結構います。自分にフォーカスを当てられる子は伸びるのですが、相手に対してのフォーカスしかない子はそこで終わってしまいます。

自分自身をしっかり見て自分はここでがんばろうと考える子は変わってきます。目の色も変わってきますし。それができない子には色々なアプローチをしながら、「なんでそうなるかわかる?」という話もします。「何くそ」と思うことはとても大切なことなので、そこで終わるか終わらないかが非常に重要だと思います。

▷ 子どもたち、生徒たちが競技を引退した後にどのような人になってほしいと思いますか? 

卒業生たちの多くが大手企業に入っていますが、自分の思いをちゃんと伝えられる子、自分を表現できる子たちが多いような気がします。初めはちゃんと話すことができなかった子たちも、高校三年生になる頃にはペラペラと話せるように変わっていく。その変化をみるのはとても嬉しいです。卒業生は人それぞれで、様々な仕事をしていますが、ほとんどの子が「バトンであれだけしんどかったのだから、どれだけしんどいことでもやっていける」と言っています。

▷ 村木さんご自身の今後のビジョンを教えてください。

もちろん立命館宇治中高のバトン部を優勝させたいという気持ちがベースにありますが、この阿倍野の教室En-batonのように幼い頃から中高生、大人になるまで続けられる生涯スポーツとしてのバトンの発展に尽力していきたいと思っています。

バトンを使って動くことはストレッチや筋力アップにつながりますし、指先を使ってバトンを握るという動作自体が非常に脳につながる部分なので、そこが生涯スポーツとして一番大切な部分だと思います。認知力が衰えてくると指先で物をキャッチしづらくなるので、そういう部分のトレーニングも取り入れています。また、二つのことを同時にすることも脳にはとても良いのです。

▷ 全国の指導者の皆さんにメッセージをお願いします。

自分も常に勉強しながら、子どもたちと共に前進していってほしいと思います。先生とかコーチとか言われると偉くなった気になる人が多いと思うのですが、決してそうではなく、子どもたちと一緒に成長していってほしいですし、とにかく子どもたちには本気で向き合ってほしいと思います。こちらが本気にならないと子どもたちも本気になりません。自分はこれだけやるからついてきて、何があっても責任は私が取るからやるだけやってきてと常に言っています。何事も覚悟が必要ですから、子どもたちにも覚悟を持って本番に挑むよう指導しています。(了)

(文:河崎美代子)

村木侑子さんプロフィール

☆受賞歴

・12歳からバトンを始め、高校時、バトントワーリング全国大会 金賞受賞。

・大学では2004、2005年に同全国大会でグランプリ・内閣総理大臣杯獲得。

・IBTF第1回インターナショナルカップ(アメリカ)ではチームの部 優勝。

En-baton 受賞歴

・2023年度ジャパンカップ OPEN 第5位

・2024年度全国大会 U-12 優秀賞&ノードロップ賞

・2025年度全日本選手権 ソロトワールU-9 出場、及び エンタメ甲子園 優勝

☆資格

・日本バトン協会準公認指導員

・日本バトン協会6種目公認審査員

☆指導歴

・2006年度より立命館宇治中学・高校を指導し、18年連続全国大会に出場。
 及び中学金賞受賞16回、高校金賞受賞回数12回(2020年度は動画開催の為、優秀賞のみ)

・2008年より2年間、立命館大学を指導。
 2008年第4回IBTFインターナショナルカップ(アイルランド)チームの部第3位
 2009年第5回IBTFインターナショナルカップ(オーストラリア)チームの部第3位

・その他、バトン講習会、チャコットダンス発表会、体操女子ゆか競技の振り付け指導 

En-batonについて

2017年7月En-baton設立、2019年4月バトンクラス開講

バトンが回ること=円、人とのつながり=縁

バトンを回すことでご縁が繋がるように想いを込めてEn-batonとつけました。

バトントワリングの技術向上を目指していく中で、礼儀や精神力を身に付け、

自己表現力の向上、育成活動を目的としています。また、生涯スポーツとして取り組みを目指しています。

En-baton(エンバトン)