「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、立命館大学体育会レスリング部監督の水口貴之さんです。立命館宇治中学校・高等学校で英語教諭および国際センター長として海外からの留学生受入や派遣業務を本業としながら、地域の幼年から高校生までのレスリング指導や大学の監督もしています。今年5月10日には2026年西日本学生春季リーグ戦において、立命館大学が16年ぶりの優勝を果たし、水口さんの体が宙を舞いました。
水口さんは幼少時の辛い体験からレスリングに自分の道を見出し、厳しい練習を続け高校時には日本のトップに登り詰めました。大学4年生後はカナダに留学、帰国後スポーツ留学斡旋事業を立ち上げましたが、30歳を機に教育の道に転身しました。「指導者は満足しないまま、挑戦し続ける事が良いのかもしれない」と語る水口さんのお話を3回にわたってご紹介します。
(2026年3月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
https://coach-do.com/wpr/interview/69-1/
▷ 影響を受けた指導者の方はいらっしゃいますか?
ちびっこと高校で指導を受けた先生は、私の人生を作ってくれた恩師だと思っています。ちびっこの恩師は、レスリングをするきっかけになった、地元スポーツクラブの先生です。子ども達には、まずスポーツの楽しさを教え、そこから強さに繋げていく指導でした。高校への進路選択の際には、「強くなりたかったらこういう練習や環境が必要。でも選ぶのは自分。どちらの道も正解だよ」というアプローチで、いつも気軽に話せる先生でした。高校の恩師からは、毎朝目を覚ます6時半から朝練をし、自分の中に軸をもって生活するということや、目標に対して達成するまでの粘りや根性を学びました。また、教育の世界に入るきっかけも与えていただきました。私は、その両方の先生を見習い、現在指導をしていると思います。
大学で競技生活を終えてからは、カナダのカルガリーに1年間留学していました。縁があって、カルガリー大学のレスリング部にお世話になることになりましたが、その時の監督は「俺を先生とかコーチと呼ぶな。レスリングが好きな仲間なんだから、なんでも気軽に話そうぜ!」という方でした。カナダには上下関係はなく、食事をする時も隣に座っていいし、お互いにジョークを言ってもいい。フラットな目線で、それぞれの学生に対して必要なアドバイスを与える、という姿勢は彼から学びました。
それでも、当時カルガリー大学はカナダでトップ3に入る強いチームでした。ノルウェーのチャンピオン、カナダのオリンピック代表選手、ナショナルチームの監督やメンバーがいましたし、オリンピックの決勝で日本人を倒して金を獲ったチームメートもいました。偶然にも、世界のトップクラスの選手がゴロゴロいました。そんな選手達が「その技ってどうやるの?」と私に聞いてくることがありました。私は、雲の上の存在の人がただの大学生に技を聞いてくるなんて恥ずかしい、おこがましいと思っていました。しかし、海外の選手たちは単純にレスリングが好きで、日本から来た選手が知っている技術を、ただ知りたいだけです。レスリングが好き、スポーツが好きというシンプルな気持ちで、分け隔てなくどのような年齢の選手にも貢献するという姿勢はカナダで学びました。
▷ 水口さんにはもともと先生気質はあったのでしょうか。
ないですね。大学でも教職は取りませんでしたし、教員は向いていないのではないかと思っています。誰かの為に自分にできることはやってあげたいけど、いわゆる教員として誰かに教えるなんて厚かましい、人に何かを教えられることなんて無いと今でも思っています。今も、経験や知識、技術のことなどを、本人に合う可能性としてアドバイスすることはできますが、教えるという感覚はありません。
ちびっこレスリングの先生、高校の先生、大学の先生、カナダの先生は皆個人の意見や人間性を尊重してくださる先生達でした。例えば、高校の先生は私たち生徒が大学に入った途端、私たちに対して敬語で接していただいたことも印象的でした。本当にこれまで出会った先生方に恵まれていたと思います。ですので、良い指導者や、どのような先生になるべきというロールモデルは常に身近にいたのではないかと思います。

▷ カナダから帰国後に起業されました。そのことが指導する上で活きていると思うことはありますか?
父がレストランを経営していたので、私はもともと料理人になりたいと思っていました。高校を選ぶ時も、関東や関西のいくつかの高校からお話をいただいたのですが、最終的に京都の学校を選んだのは、もしレスリングが駄目になっても料理が学べると思ったからです。しかし、高1の5月に耳が潰れたので、その段階で料理人は諦めました。
元々ゼロから何かを作って行くことが好きなのだと思います。レスリングの団体戦は7人制で4人勝てば勝ち進めるのですが、高校の時のチームは同級生が3人、1年下の学年が1人、合計4人しかいない時期がありました。それでも京都府予選と近畿大会で優勝し、全国大会のベスト8まで勝ち進みました。これは当時非常に珍しい事でした。
また、立命館宇治高校がスポーツ推薦制度を入れ、全国から選手を入学させた2年目でインターハイ団体2位、個人優勝2名と準優勝1名を輩出しました。その時のメンバーがそのまま大学に上がり、当時同好会という立場であったにも関わらず、体育会の西日本1部リーグ戦を連覇しました。
そんなふうに、元々あったものをひっくり返す面白さや、何かを生み出すことは好きだと思います。選手の成長を支えるために支援者を募ることや、幼年から大学までの流れを作ること、レスリングを通しての社会貢献することなど、自分にできることは何でもやってみようと思うタイプです。今は、小学校の学童教育に対して、大学生と一緒に貢献できないかと考えています。
指導上では、その選手にしかない持ち味を活かせることができればと思います。それぞれの経験や感覚は違うものを持っていると思うので、基本的な技術は教えますが、そこからは自分のスタイルに合わせて進化すれば良いと思っています。
▷ 水口さんの「品位と教養がなければ強くても意味がない」の言葉のきっかけは何でしょうか。
海外にいた時、あるオリンピックチャンピオンがお金を貰ってサインをしているところを見ました。また、みんなで食事している時も、こぼしたジュースを指導者に掃除させたり、「俺が金メダルを獲ったんだから」と横柄な態度をとっていました。周りにいる他の選手たちも「情けないよな」と落胆していたのが印象に残っています。
強くなると勘違いをしてしまう選手はいると思います。勝った経験が逆に自分を腐らす経験になってしまうこともあります。また、チームで言えば1人でもそのような選手がいると、チームが壊れてしまいます。強さだけではなく品格、人徳がないとレスリングをしている意味がないと思います。レスリングというスポーツを通して心を鍛えて、社会に出た時に貢献できる人材になるという事が競技をする意義であり目標だと考えています。勉強して教養もつけながら、スポーツでも活躍する。二足の草鞋で一生懸命頑張ることが個人の成長だけではなく、いずれはスポーツ界や世の中を豊かにするのではないかと思います。
先月末、アメリカのスタンフォード大学で、中学生、高校生、大学生10人くらいで遠征を行いました。スタンフォード大学は現在過去最高の戦績をあげており、全米チャンピオンや最優秀コーチも在籍しています。世界最高峰の学術水準を誇る大学であり、更にレスリングも強い。チームはシリコンバレーの経営者や、卒業生たちのコミュニティーを活かして、選手達の成長を支える。スポーツを通して豊かになった人格は社会に貢献する。そんな環境は指導者としても非常に勉強になりました。また、現地に行った中学生は、将来高校はアメリカに進学し、いつかアメリカの大学を目指すことも具体的に考えるようになりました。選手全員の価値観を大きく揺るがす経験となりました。そういった、スポーツを通してグローバルな経験も積ませてあげたいと考えています。
▷ 指導されていて、伸びる選手とそうでない選手はどこが違うと感じていますか?
私が小学校の時はどの試合も一回戦ボーイ(初戦敗退)でした。一つ一つの技術を単発で習得していった感じだったのですが、いざ実戦となると、どのタイミングでその技術を出せば良いのかわかりませんでした。でも、高校生になり体力がついてくると、余裕をもって戦えるようになり、相手がスローで見えるようになりました。「このタイミングはあの技を使えばいいな。相手をこう騙すと、この技がかかる」と、全ての点(技)が連動して繋がる感覚を強く感じました。
勝てる人間と勝てない人間の差は、どうすれば点(技)と点(技)を結べるのかという疑問を、持つか持たないかにあると思います。この技はどうしたらかかるのか、何のためにかけるのか。なぜ先生はこの技を教えているのか。このシチュエーションに対して、どう対処しようかという疑問、将棋のように自分が持っている引き出しからどの駒(技)を使うのかというところに思いが至らないと強くなれないかもしれません。また、大前提として、その競技が好きで強くなりたいという想いがないと継続できないと思います。好きだからこそ、勝つためにはどうするといいのか、何を食べて、どんな練習をして、どの技をどのタイミングでかけるのかということを考え続けられると思います。そういった思考の持続力も必要ですね。
▷ 選手の中には、ヒントをあげないと考えることができない選手もいます。そうした選手はどう見極め、どのようにアプローチするのでしょうか。
これまで見てきた選手には、様々な性格を持った選手がいます。常に自分で考えられる選手もいますし、行き詰まった時にヒントを出すことで成長のきっかけになる選手もいます。それらの選手の違いは、自分事としてどこまで深く考えているかどうかがポイントだと思います。自分であれば、この場合どう動くだろう?どう反応するだろう?というように自分に置き換えて考えることが出来る選手は、自然と自分で問題解決する傾向があると思います。また、自分で考える選手になってもらうには、当たり前のことを当たり前にやらせることに気をつけています。ちびっこで言えば、道場に入ったときは挨拶するとか、脱いだ服をきちんと畳むとか、低学年であってもシューズの紐は自分で縛るなどやらせるようにしています。
アドバイスされた時に、私の考え方はこうなので、他の考え方はいらないと突っ張るのではなく、一度試してみようとか、そんな観点や考え方があるんだなと自分の頭で柔軟に咀嚼できる生徒も伸びると思います。
キツイ練習を「やらされている」と感じてやる子は伸びないと思います。キツイので嫌になる気持ちも分かりますが、心のどこかでこの練習は強くなる為、成長に繋がる練習になる!という気持ちを持って欲しいです。やらされたキツイ練習をした生徒は、ある程度強くなりますが、大学で自立した練習を求められると一気に崩れます。なぜなら「やらされない」からです。社会に出ると、自分で目標を見つけ、目標達成のためのプロセスを自分で考え、自分で実行することになります。競技で強くなるという目先のことだけでなく、「自分で出来る」という力を付けることが優先されるべきだと思います。自分で考える力や自立した力を持てないと、最終的には競技でも人生でも勝てないと思います。(後編へ続く)
(文:河崎美代子)
後編はこちらから↓
https://coach-do.com/wpr/interview/69-3/
◎水口貴之さんプロフィール
1980年11月9日生まれ
岐阜県高山市出身 京都府城陽市在住
立命館宇治中学校・高等学校 国際センター長・英語教諭
立命館大学体育会レスリング部監督、立命館レスリング(幼年〜高校)監督
7歳の時にレスリングを始めるが、中学生までは試合で勝つことはなく常に1回戦ボーイ。
中学3年生の時に全国中学生大会で3位になり、少しは競技の面白さを感じ、高校は京都の立命館宇治高校に進学。
高校では、全国から集まったレベルの高い仲間との厳しい練習に鍛えられながら、少しずつ勝てるようになり、高校2年の京都インターハイでは団体準優勝・個人優勝、高校3年ではインターハイ個人準優勝する。
大学では、2年生で全日本学生選手権3位、3・4年生は主将を務め西日本リーグ戦を連覇。チームを纏める経験をする。
大学卒業後はカナダ・カルガリーに留学し、カルガリー大学レスリング部に所属。世界の仲間と出会い、スポーツでの国際交流の素晴らしさを感じ、価値観が大きく変わる。
帰国後は、スポーツ留学斡旋業者をカナダのオリンピアンや、アメリカの日本人経営者と運営する。
地元高山市で公立中学校の保健指導員を経験しながら、不登校や発達障害のある児童と関わることで、自身の経験が教育に貢献できるのではないかと考えるようになる。
30歳の時に母校に戻り、中高での担任、文科省への出向などを経験し、現在は英語教諭および国際センター長として留学生の受け入れと派遣業務を行う。
レスリングの指導者としては、立命館大学体育会レスリング部監督、立命館レスリング監督(幼年〜中学校)をしている。2025年カナダ・カルガリー大学、2026年アメリカ・スタンフォード大学へ遠征を実施。











